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12 三浦海岸のイブ(2)

僕らはひたすら海岸に沿って歩いた。寄せては返す永遠の波の音を聴きながら。


時にRPGのパーティのように一列に並び、時に横に並んで会話をしながら。


真吾と高良さんが随分と前の方を歩いているとき、アイさんが僕の隣にやって来た。


「永井君は今大学生なんですよね?」


「そうです」


「どんなことを勉強してるのか、伺ってもよろしいですか?」


「ええもちろん。ロボット工学を専攻していて、真吾も同じなんです」


「へえ、じゃあ理数系なんですね」


そう返すアイさんの姿から受ける見た目の印象で、僕は勝手に彼女が文系の大学生だと思い込んだ。


でもそれは知らないうちに芽生えた偏見だった。


「私はね、数学が好きなんだ」


と僕にとっては意外な言葉が返ってきた。


「文学と違って明確な答えがありますよね。だからパズルみたいだし」


そう言った瞬間にアイさんは僕の反応を見ていて


「いい表情しますね」


となぜか褒めてくれた。


「実は私ね、高校に行ったのは行ったんだけど、ほとんど出席しなかった。だから中退してるんです」


彼女が歩いた後の砂浜には、彼女のスニーカーの後がひとつずつしっかり残っていた。


少し振り向けばそれは点々と、延々と続いていた。


「あの、ちょっと言いにくいのだけれど、私は高良さんと同級生じゃないんです。そもそも高校も違うんです」


「え?ということは、どういう関係なんですか?」


「うん、それがね。ちょっとそれも言いにくいんですけど」


とアイさんは前をゆく二人が十分に離れていることを確認して


「風俗で働いているんです」


と言った。


全く想像もしていなかったことを告げられて、僕は本当に驚いてひと言もリアクションがとれなかった。


「そこで高良さんと知り合って。ご存じでしょうけど、彼女は看護師を目指していて、アルバイトしてるって。検査のお手伝いをしてくれているのね。こういう世界だと、いろんな女の子が色々な事情で世間から取り残されて苦しんでいたりするの。それで高良さんは、そういった人を助けるNPO団体との仲介もしたりして。頼りにしている人も沢山いるの」


「そこまでは・・・知りませんでした」


「そう」


彼女は少し寂しそうだった。

僕は高良さんがNPOの手伝いまでしていたと知り、彼女を色々と疑っていた自分を恥じた。


「今日は高良さんが誘ってくれたんです。私はここで働く前は福岡に住んでいて。そちらに実家があるんです。この海を見たら実家の辺りの様子を思い出しちゃった」


アイさんは海の寄せる波や白波を丹念にみつめる。


「年末は何も予定がなかったから、こういう付き合いをしたら面白いかもと思って今日は参加させてもらったんです。私ね、この間彼女が元彼と会ってお店に逃げ込んだあの時、何事かと窓から見ていたの。あなたが勇敢に彼女の為に行動をしていたのも知っています。見ていて私、嬉しかったな。うらやましかったのかも」


アイさんは足下に落ちていたタカラガイを手に取り、つるりとした表面を親指で拭って光沢を見つめていた。


「アイさんは今後どうしていくか、決めてたりしますか?」


彼女は手に持ったタカラガイを持ち帰るか悩んだようだったが、海に向かって投げ込んだ。


「これがもし小説なら、私は次のページで死んでいるわ」


そう言ってまた歩き出した。

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