10 元彼と決別するとき(5)
「いつもバイトが終わったら遅めの時間になるから、そのままここで割引きになったお弁当を買ってるんだ」
と高良さんが嬉しそうに言う。
「それで、毎日来るわけじゃないからいくつか買い込んで何日かに分けて食べてるの」
そういう彼女の姿は身なりこそしっかりしているが、以前と変わらず貧しい生活をしているのだと改めて知った。
僕は真吾の言っていた、そこでしか働けない仕事の末路が頭をよぎった。
そうして助言するようにそれとなく伝えた。
「看護師になったら、今の生活から抜け出せないぞ」
彼女はお弁当に伸ばした手を一瞬止めた。
「理想を追い求めても、どれだけ役に立ってもこの社会じゃお金にはならない。やりがいを搾取しているんだから。自ら行き止まりに向かってどうするんだ」
僕は正義感からそうしたが、だが完全にタイミングが悪かった。
彼女は急に悲しそうな表情をして
「そうやって正論言っていれば何だって許されるわけ?」
と言った。
僕は引くに引けずそのまま続けてしまった。繕うには遅すぎた。
「大人になれよ。いいか、本当に貧しい生活から抜け出したいなら、時給で換算できない仕事を目指すんだよ。時給で換算できる仕事なんて、どこまで行っても収入の上限が決まる。だからそういうのとは違う仕事を目指したほうがいい。付加価値の高い仕事を目指すんだよ」
「あなたの目指す将来には付加価値があって意味があるのね。私の夢には付加価値がなくて、やればやるほど貧窮するって」
そう言って乱暴にいくつかのお弁当を籠に入れると、彼女はレジに向かった。
「わかってるわよ。わかってる。あなたの言う通りだって。職業体験に行っても、現場の看護師さんはみんな忙しそうで、どこまで突き詰めても一生あんな感じなんだろうって。福祉施設にも訪れることがある。そこではお年寄りのお世話がいかに大変かを知った。
「感謝されることが嬉しいけど、いつまでも同じ話をされたり。時間がいくらでもあるならそれでもいい。でも実際には時間に追われて、丁寧に相手が出来なくて、常に何かの板挟み。疲れて帰って、誰とも口をききたく無くなるほど」
彼女が購入したのは六個のお弁当で、二千四百円分だった。
それを持参したビニール袋に詰める。
「医療ってやりがいはあるけど、むちゃくちゃな理由で恨まれることもある。そんな仕事を目指すのは、自分から追い込まれに行っているようなものだって。わかってる。わかってる。わかってるよ・・・」
袋に詰め終わると、うつむいていた彼女が僕の方を見つめた。そして弱々しく言った。




