10 元彼と決別するとき(3)
真吾の言っていた不幸を選ぶ権利の話が頭をよぎった。
「何を選ぶのも高良さんの自由だ。不幸になるのも自由だけど、おれの居ないところでそうしてくれよ。目の前で不幸を選ぶ人を見たくない。あいつが君を大切にしていないのはあきらかだし、君の素晴らしさの欠片も理解していないし、見えてもいない。見ようともしていない」
「その不幸になる自由ってなに?私そんな気持ちで物事を選んでないから」
と高良さんが言ったものの、声は小さくなっていた。
そして肩が少し震えていた。
寒さからではないことはあきらかだった。本当は彼女も頭ではわかっている。
どうしようもなく、それを選んでしまう自分のもどかしさに。
「彼が私の元からいなくなったのは、他に女ができたからだって知ってる。私は捨てられたの。わかってる。わかってるわよ。でもその女と縁を切ったって彼が言うから、寄りを戻したいと思った。だって何年も付き合って、一番私のことを知っているから」
僕はこの前のように、ただ話を聞く壁にはなりたくなかった。だから思わず
「でもそれだと単に都合のいい女じゃないか」
と言い、彼女を見つめた。
「それにさっきは少し話している内容が聞こえた。あいつは君の言っていることをちっとも信じてないじゃないか。それでああやって自分の言うことに従わせようとしている」
「だからってなんなの?何か言いたいわけ?あなたには関係ないでしょ」
「君のことが好きなんだ。小学生の頃から」
僕はどうやって話に収拾をつければいいか見当がつかなくなり、思わず口を滑らせてしまった。
彼女は別段驚く様子もなく、しばらく黙っていた。
「情けなんてかけないでよね。それで私のことを拾ってやったって、慰みのつもり?それでいい気分になってるつもり?」
「そんなんじゃない。拾ったとか、そんなことは言ってもないし思ってもない。君こそ決めつけるなよ」
僕はどうやって誤解を解けるのか、わからないなりに伝えたかった。
「他の男が君をどう思ったかとか、どう扱ったかなんて関係ない。ただ、あの小学生の頃には伝えられなかった想いが、細い線でかろうじて君と繋がっているのに気づいたから。この線だけは子供の頃から強く繋がってるって感じられたから。だからやっぱりもっと知りたいんだ」
こんな街中で、こんな話をしている自分が滑稽だった。彼女も同じような心境だったようで、
「・・・ねえ、場所変えよう」
と立ち上がった。




