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2 駅前で伝えられたこと(1)

彼女と二人で並んで歩くのはどこかこそばゆい感覚だった。


昔は小柄だったが今は意外なほど背が高く、並ぶと彼女の前髪はすぐ目の前だった。


さらさらとしてふわっと揺れる薄茶色の髪が、歩く度に広がったり収まったりしていた。

なぜだかそれだけでお姉さんという感じがした。


それを言うなら自分も十分お兄さんなのだろうが、毎日の変化は坂道を途切れなく登ったり降ったりするような生活だから、改めて自分の成長の度合いを測ることもないし、自発的に知るのもむずかしい。


こうして彼女を通して自分の姿を客観視できることに、彼女との親しみを覚えた。


人生の坂道の中で彼女がどのようにして生きてきたかは知らないけれど。少なくとも今日は同じ道を歩いていた。


踏切に差し掛かったところで遮断機が降りた。ふいに甘く身体が軽やかになる匂いがした。


この時期が花期の花はなんだろう。それとも彼女の香水なのか。日差しが彼女の髪の毛で輪を描くように輝く。


僕は訊いた。


「最近はどうしてるの?」


話しかけられてふっとこちらに振り向く彼女のしぐさが、どことなく幼く感じられた。


「今は大学に行ってる。短大だから来年にはもう就職。あっという間。今はバイトしながら、私も家から通ってる」


「そうか。家族はみんな元気?」


「うん、弟も相変わらず」


電車が通り抜けた。僕は声がかき消されないようにするため、声を大きくして彼女に顔を近づけた。


「看護系だっけ、学校」


「うん」


踏切が上がり、彼女が先に歩き出す。


寒くはないのだろうけど、彼女の着ているものが寒そうなのでどうも姿がそう見える。追い付きながらさらに訊いた。


「就職したら家を出る?」


「私はどうかなあ。まだ決められないかな」


「おれも。どうなんだろうね、みんなこんな感じなのかな。まあ、わからないもんな。どうしても家を飛び出したいって言うならいざ知らず、おれはどっちでもいいからなあ」


こうしてまた彼女と接点を持ってたわいない会話をしていると、どうしてか胸のごく近くをこう、彼女の着ているもこもこのジャケットで包まれるような感触がした。


何でもないことから彼女の優しさに触れている気になった。久しぶりに会うからいつもより浮ついていただけかもしれないが。


狭い道が続く商店街を抜ける。車が一台通ろうとすると、道行く人がすべて脇に寄らなければいけないぐらい狭い道だ。


途中で何度も自転車が通り過ぎてぶつかりそうになった。止まって避ける度に二人の距離が縮まった。


商店街には途中からアーケードの屋根がつく。少し錆びた鉄の枠組みの屋根を過ぎると、高架の駅の開けた広場に出た。


ちょっとした憩いの場になっており、高架の柱の周りを囲うようにベンチが付いていて、ぽつりぽつりと人が座っていた。その周りに数羽の鳩がうろついている。


彼女はカードにお金をチャージすると言い、少し駆けてきっぷうりばへ向かった。


その間改札の前で待ちながらぼうっと彼女を見守っていた。彼女も僕もいつもの景色の中で、気づかれないうちに紛れ込んでいた。


僕らにとってはいつもと違う、そう、とても違うことが起きていた。二人以外の誰も知らない出来事がこの微妙な距離を隔てた二人の間にある。


知らないうちにこうして彼女と頻繁にすれ違っていたのかもしれない。世界は見えてない物で成り立ち、彼女の姿と僕との間にも見えない世界のもやを感じた。


彼女が見た目より遠くに見えた。

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