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9 エッセンシャルワーカー(4)

「なあ、こうしておれたちロボットを研究しているだろう。いつかエッセンシャルワーカーがこうしたロボットと置き換わるかもしれない。でもおれは違う未来を見ている。おそらくロボットはエッセンシャルワーカーの仕事をやらないし、させたくない。なぜなら、そういった仕事は想像以上に細かい作業や思考が必要だ。


「トイレや部屋の掃除も、調理も福祉関係も看護師も。ロボットで簡単にできる仕事じゃない。だからおれはそういった人達を馬鹿にしているわけじゃない。レジで注文を受けて接客するなんておれにはできないしな。そして高価なロボットはもっと重要な仕事を担うようになる。重要というのは資本主義的な価値の高いこと、という意味だが」


そう言ってからため息交じりに息を吐いた。


「現代社会が科学や資本主義の世界だから、おれのような存在が認められる。もしそのどちらもない世界だったら、おれには居場所なんてなくて社会の厄介者だろう」


真吾がロボットを撫でながら語る。


「おれたちのこの行動が将来の誰かを追い詰めているかも知れない。それを忘れてはいけない。人類の技術的な興味が尽きないのは事実だ。おれだってそうだ。だからといって、ただ阿呆のように新しい技術はすばらしいとか、新しいことをしていないと駄目だとか遅れているとか、未来を作っているとか、そう単純に言っている輩はエンジニアとしては半人前だ。むしろ害のある存在だ。


「ダイナマイトや原爆を作った人達もどこかの時点で人類の分岐点に気づいただろう。好奇心からはじめたことが人類の分岐点を生み出してしまう。技術の進歩は人類の可能性を広げる。一方で人類の未来を固定して、つまり可能性を奪ってしまっている。もしその技術がなければ、もっと違う未来になっていたはずだから」


ロボットを触りながら起動させる。


首が動いて頭が上がり、続けて腕も静かに上がった。


そして指先が生き物のように動いた。


握手を求めるような形になった。


真吾はその人工的な手に手を合わせた。


機械は静かに手を包むように動いた。


「人に似たデザインにしても、全く人とは違うさ。今は指全体で動いている。人みたいに指の関節ごと、出来れば筋の一つひとつまで再現できるアクチュエータがあればいいのにな」


と、真吾が呟いた。


「ロボットのある世界なら、ロボットのある世界に固定されてしまう。それは可能性であり、同時に別の可能性の終わりだ。ロボットのない世界なら、人をもっと大切にする世界になるかも知れない。まあ、ロボットがあることで人の尊さに改めて気づくというケースもあるかも知れないが。でもそれはないだろうな。そんなに人類は成熟していないから」


そう言い終わると、真吾は僕に向かって歩いてきて、肩を叩き


「なにはともあれ、あとはお前に託すからな」


と告げた。


「託すって、この実装を続けるのはおれには無理だ。お前だから出来ているんだから」


「心配することないって。引き継ぎの資料は何も用意しないけど、それでもお前が作れる何かしらの形になっていくさ」

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