1 成人式以来の再開(2)
「高良さんの弟も一緒にいたよね。上級生に混じって走り回ってたの覚えてる」
「そうそう。永井君よく覚えてるね。私の弟はいつも私と一緒にいたから。本当はこの公園、学校の学区外だから遊びに来ちゃいけないっていわれてたから、弟はいつもそのこと気にしてたけど。でも来たらすっかり忘れて、日が暮れても遊んでたね」
あの頃のこともこの公園の存在のようにすっかり忘れていたが、こうして話をしていると、タイムカプセルの中身を次々と取り出すように記憶がよみがえった。
「みんなの弟みたいで、すっかりかわいがられてたな。そういえば高学年になるにつれ、段々と習い事とか塾とか行く子が増えて、それで遊ばなくなったんだっけ?」
彼女は少し口をすぼめた。
「どこの子供たちもきっと同じような感じなんだろうね。その時は別にさみしいってわけではなかったけど、自然消滅していって。学校では顔を合わせるから変わりないけど、少しずつ変わっていくんだよね、そういうのって」
と、まるで昨日の出来事のように言った。
公園の奥には幅が二十メートルもありそうな、巨大な石造りの滑り台があった。なめらかなそこから子供たちが一斉に滑り降りるのが見えた。
おとなが一人同じように滑り台の上にいて、なかなか滑り出さないまま「こわい、こわい。上から見下ろすと思ったよりもすごく急だよ」と誰かに訴えかけていた。
カップルでもない僕ら二人がぎこちない空間を生んでいるのは、場違いとまでは言わないが、少し恥ずかしい気がした。
でも案外誰も気にせずそれぞれの世界があるようで、こちらに気づく人はいなかった。
「あそこの木に風船が引っかかってるけど、飛んでいったのかな?」
彼女が指さしながら言った。
「飛んでいかないようにくくり付けたのでは?遊ぶときに邪魔だからとか、そういう理由じゃない?」
「ああ、そうか。そうだね」
時折吹く風の波形を示すかのように、風船が揺れては糸いっぱいに引っ張られて、戻されてまた流された。
僕は彼女に訊いた。
「今日、どうしたの?話があるって」
「うん」
公園に向けていた視線を彼女に向けてみると、彼女が思いのほかまじまじとこちらを見つめていることに気づいた。
「あ、なんかごめんね。これといって用事とか相談があるってわけじゃないんだけれど」
子供たちの声が聴こえる。高い所から飛び降りて一面砂だらけの地面を踏む音が、ザッザッザッと聴こえた。彼らは陸を制覇する海賊だ。
「悩み?」
「うーん。そうでもないけど」
「言いなよ。よかったら聞くよ」
彼女は膝に置いていたポーチをベンチに置く。
「そういえば、今日はどうやって来たの?昔みたいに自転車?」
「そこに置いといた」
「どれだろう。あの赤い自転車?」
「あれじゃないけど、同じようなロードバイク」
「ロードバイク?速そうなやつね」
ベンチの後ろ側にある自転車の列を彼女が振り返りながら見回す。
目がキョロキョロと動く様子が間近で、不思議な感じがした。
冬の陽を受ける瞳が琥珀色で、宝石が白い雪の上に浮かんでいるように見えた。
「ああ、あれね。あの白いの」
家族や子供の多い公園だから他にロードバイクは一つしかなかった。
「あたり」
「へえー。かっこいいのに乗ってるね。私は自転車乗るの下手だから、ああいうの乗ったことないや。・・・高そう」
「普通の自転車よりはするけど、そんなにものすごく高いってわけでもないかな。バイトでちょっとお金貯めれば買えるぐらい」
「いつか乗せてよ」
「そうしてあげたいけど、荷台が無いから二人乗り出来ないんだよね」
「えー。残念」
こうやってたわいもなく、なんとなく話す時間はまるで恋人を演じているようで少しうれしかった。すると彼女が切り出した。
「・・・ねえ実はね、今日ちょっと付き合ってくれない?これからバイト、あるんだけどね、先に近くまで行っておいて、時間まで一緒にちょっとブラついてみない?」
「ああそういうこと。全然いいよ。別に予定もないし。でもすっごく急だね」
「思いついちゃったんだよね、昨日。私思いついたらすぐ実行する方だし。付き合ってくれてありがとう」
そう言って彼女は立ち上がると、短いスカートの端を伸ばした。そしてため息をつき、一度背伸びをした。それでまたスカートの端を引っ張って元に戻していた。
「あ、自転車できてるんだよね。どうする?」
「いいよ、置いとくから別に大丈夫。あとで取りに来ればいいから」




