5 研究室(4)
キャンバスには陽光が差し込み、隅から隅まで穏やかであった。
いくつもの校舎が囲む大きな広場は、地形に合わせて段々が作られていた。
そのいくつかに学生が座って、おのおの昼を過ごしていた。
横目にその様子を眺めながら、僕らは広場を横断して学食へ向かった。
学食はパッとしない。今時の流行りなら高い天井で開放感を求めそうだが、むしろ教室よりも天井が低い。そして暗い。
濃い茶色のレンガの壁と、床もまた黒っぽく光沢のある石が使われている。
実際年代物らしく、シックといえば聞こえが良いが、受験に受かって喜び勇んだ入学生の気分を落ち込ませるのに十分なぐらい、どんよりとした雰囲気に満ちていた。
ただそれでも人気が高いのは、どの料理も量が多くて安いからだ。
大学の周りには飲食店がないため、いずれにせよ学生は多く集まっていた。
食券を購入して定食をピックアップしてから適当な席を見つけて座った。
少し食べ始めてから改めて真吾が物知り顔で言う。
「小学生の頃、あいつのとなりの席になると色々と物がなくなるとうわさがあった」
小学生の頃の記憶の解像度が低い僕は、それが何年生の頃の話かも判然としなかった。でもそういう事件があったような気がした。
「そう言われると、そういう話もあったなあ。よく覚えてるな」
真吾は咀嚼しながら
「あれ、本当だぞ」
と言う。
「なんで分かる?」
「見たから。高良の筆箱の中」
「どうやって見たんだよ。勝手に開けたのか?」
「落ちたときに。あいつ、筆箱から飛び出した物を慌てて拾ってた。みんな気づいていなかったけど、普通よりも随分慌てた感じがした。それでよく見ていたら、隣の席のやつがなくしたと言っていた消しゴムや定規があった」
「それ本当か?」
僕にはにわかに信じがたかった。
「本当だ。返すのかと思って見ていたが、結局返さなかった」
食べながら、少し真吾は眉をひそめる。
「高良は嘘をつくときもあった。息を吸って吐くように嘘をつくやつが時々いる。高良がいじめられていると、学校でちょっとした問題として上がってきた事件があっただろ?」
「確かにそれは記憶している。いじめはひどいことだと思った」
「あの時は先生がかばっていたが、先生も知っていたんだ。高良が嘘をついているって。そういうのが火種になっているって」
「高良さんはそんな人じゃない」
昔のことであれ、好きだった人をそんな風に攻撃されて急に腹が立ってきた。
いやそれは、知ってはいけないものを知ってしまったような、艶やかな記憶に墨をかけられるようで、動揺と表現した方が正確だ。
僕は懸命に否定した。




