5 研究室(2)
彼からすると滑り止めだったのか、他になにか選んだ訳があるのかは知らない。
今までこの大学を受験した理由を訊いたことが無いからだ。
彼にとっては滑り止めでも、この大学は僕からすればかなり背伸びをしたところだ。
偏差値に無理を言ってなんとか入学出来た。
お互いここまでの経路に違いはあれど、こうして再び交遊が始まった。同じゼミで同じようにロボットの研究と製作をしている。
「それでなんの話をした?」
と真吾が訊く。
いざそう言われると、どう答えたら良いか何も準備がないまま、ただ彼女と会って話をしたと自慢したかったのだと気づいた。
「ええと、いろいろ。近況とか」
「永井順一くん、そんなことでわざわざ呼び出すわけがないですよね?電話でもメールでも、チャットでも済む」
真吾は床を蹴って、座っているキャスター付きの椅子をスーッと移動させて、少し離れたところに置いてあるロボットの胴体に近づいた。
FRP樹脂で出来た胸部から何本か束ねられたケーブルが外へ出ており、小さなテーブルの上の基盤と繋がっている。
その基盤についたLEDの点滅具合を眺めていた。基盤にデータを送っていた。
僕は近くに置いてある腕のパーツを手に取り、なんとなく曲げたり伸ばしたりしていた。
その度に中の関節にあるサーボモーターが引っかかりながら、音を立てて回った。
「それなんだけど」
と僕は言いづらいながらも続けた。
「まあ、付き合っていた彼氏のこととか」
「なんだよそれ。別に誰にしてもいい話じゃないかそれ。お前じゃなくても」
「確かにそうなんだけど。でも他の誰でもなくおれに話してくれたのがうれしかったけどな」
そう言ってから僕は机に置いていたデカビタをひとくち飲んだ。ガツンとした甘さが欲しかったからだ。
真吾はそれを見ていて、自分も飲み物を探そうとした。
真吾の座っている床にはエナジードリンクが五、六本置かれており、いずれも蓋が開いていた。
蹴ってこぼすのではないかとか、虫が来るのではないかといつも心配になる。
真吾の持論としては、どのエナジードリンクも人工甘味料だからべとつかないし虫も来ない、とのことだった。
真吾はそれらを順に取り上げて、中身がどれかに入っていないか期待していた。しかしどれも空だった。
「他の人にも同じ話をしているとは思わないのか?」
真吾が鋭いことを言う。
確かにそうなのかもしれない。得意げに話した自分が急に恥ずかしくなった。
「告白された?」
そう訊かれて思わず吹き出した。




