4 雨のあとの公園(1)
翌朝にはすっかり雨は上がっていたが、空は相変わらずの灰色模様だった。僕は大学へ行く前に、置いたままになっている自転車を取りに公園へ立ち寄った。
早朝だから公園にはまだ誰の姿もなかった。
駐輪場には何台か自転車が置かれたままですっかり濡れていた。
僕の自転車ももちろんそのままの姿であった。
昨日からここにずっと置いていたのだから、あたり前だが昨日と同じままだ。
でも近づいてよく見ればチェーンや金具のいくつかに錆が浮いていた。たった一晩の雨で錆がつく。
錆は意識のある生き物のように、人目があれば決して現れず、人の目がないところで瞬間的に現れる。
そしてやっかいなもので一度付くと自然には剥がれない。
面倒なことになった。誰かが錆を落としてくれないかと漠然と期待をしながら自転車を動かした。苦しそうに軋む音を聞いた。
昨日に戻る方法はどこにもないんだなと改めて知った。
すると、ふっとこれまでの学生時代のイメージが湧いた。
わずかなきっかけで物事が上手く回らなくなる。毎日が同じような生活では特にそうだ。
ちょっとした手違いや勘違いで、その後の学校生活が変わり、元に戻せなくなるようなこと。
ふと目に入った常緑樹には、風船が昨日から括り付けられたままになっていた。
僕は一度自転車のスタンドを立ててから、手を伸ばして、濡れて堅くなった紐の結び目を丹念に少しずつほどいていった。
ほどききった瞬間に紐が強く引かれてぶるんと風船が震えた。そして手から離れて静かに浮かび上がった。
雲の隙間にわずかに広がり始めた青空に、吸い込まれるように風船は上昇した。
公園の前にある線路を特急列車が走り抜けると、強い乱気流を発生させた。
風船は一瞬巻き込まれそうになったが、何事もなくまたゆらゆらと上がった。
僕らもこんな風に周りに巻き込まれながらも、それなりに夢に向かって進んでいる。そんな気がした。
自転車に乗って駅に向かった。今日は踏み切りに引っかからずに着いた。出だしは上々だと満足した。
駅前の駐輪場にはぎっしりと自転車がひしめいており、無理に押して隙間を作り、そこに自転車をとめた。
こんな置き方をしていると自転車に傷がつきかねないから嫌なのだが、安い駐輪場だから仕方がない。
駅の改札に向かうと、昨日の高良さんの姿が目に浮かんだ。




