乙姫側からみた「浦島太郎」の物語
竜宮祭
オトは姿見の前で自分を見つめていました
オトは確かに浮かれていました 明日はオトが18歳になる祝いの日で、外界から客人を招いておもてなしをする日だったのです それは竜宮祭と呼ばれていました
「ねえ お母さま、どう思う?」
「ちょっと派手じゃないかしら、オトっぽくない気がする」
「えーっ! じゃあこっちかなぁ・・・」
オトは母親と真剣に着物選びをしていました 部屋はすべてのクローゼットが解放されて着物が散乱していました どれもこれも煌びやかな色合いを施した貴重な生地を織り交ぜた見事な着物でした
「ねえオリ いつ頃新しい商品が届くの?」
オトはオリとモニターで会話をしていました
オトの友達にオリという子がいました オリは機織りの仕事をしていて、ものすごく偉い人たちのためにも着物を作るほどの優秀なデザイナーでした
オリは小麦色の肌でライ麦畑のような髪色をしていて、ワンポイントのサファイアのピアスがさりげなくてとてもおしゃれな女の子です
「えっ? もうとっくに送ったけど まだ届いてないの?」
「えっ! マジ? さてはあのカメ野郎め またさぼってんな わかった こっちで確認しておくわ」
「ちょっとオトっ! なんですかそのはしたない口のきき方は! あなたは明日が何の日か分かっているの?」
母親はオトを叱りつけました オトはオリが見えるように舌を少しだけ出しておどけました
「あっ! それでヒコボシ君は元気?」
オトは話題を無理やり変えようとしました
「うん うまくやってるよ 年1回しか会えないけどね……」
オリはオトの後ろに映る散乱した着物を眺めて半ば諦めた口調で答えました
あのカメ野郎 竜宮祭の当日
「あっ!来た来たっ! じゃあすみません みなさん手筈通りによろしくお願いしま~す」
カメは子供たち一人ひとりに事情を説明して浜辺に集まってもらっていました
遠くから仕事を終えた一人の男が見えました 男の名前はタロウと言いましたタロウは漁師をしていて今日は収穫がなかったので少し落ち込んでいました
そのため、タロウはカメに全く気が付きませんでした
「もう少し、大げさに大きな声でイジメてもらえませんか? あの人こっちにぜんぜんっ気付いてないんで!」
カメは子供たちに少し強い口調で指示をしました
しばらくするとタロウはこちらに気付いて近付いてきました
そして状況を把握するとタロウは子供たちにこう言いました
「なんて可哀そうな この亀にもうこれ以上の乱暴はしないでおくれよ」
子供たちはカメから予めタロウが言うであろうセリフの、後にいうセリフを仕込まれていました
「この可哀そうなカメを助けるのならばタダでは渡せないぞっ!」
「そうだ そうだ」
カメが用意したセリフを子供たちは棒読みでタロウに伝えました
タロウは凄みを利かした目で子供たちを真剣に見回してこう言いました
「わかった……このカメは私が買おう」
タロウは子供たちに自分の持っている半分のお金を渡そうとしました
しかし子供たちはタロウの凄みに圧倒されて完全にビビッてしまいました
「えっ……いや お金は……いりません……実は……」
その瞬間、その言葉の続きを言おうとした男の子が泡を吹いて気絶してしまいました
それを見た他の子供たちはカメの言うとおりにタロウからお金を巻き上げるとチリジリと走って逃げていってしまいました
「かわいそうなカメよ」
タロウは甲羅から少しだけ出したカメの恐怖に怯えた顔をそっと撫でてあげました
カメの目から一粒の涙が流れ落ちました
「もう人がいる浜辺に来るんじゃないよ」
そう言って男は抱きかかえたカメを海に戻してあげようとました
「いやいやいや ありがとうございます! あなたは浦島のタロウさんですよね? 」
突然カメが人の言葉をしゃべって来たので思わずびっくりしてカメを落としてしまいました
カメは砂浜に突然落ちたのでその拍子に首がおかしな方向に曲がってしまいましたがカメは何事もなかったかのようにそのまま話を続けました
「助けていただいたお礼にタロウさんを竜宮城にご案内しましょう」
タロウはなんの脈絡もないカメの話にすこし呆気に取られてしまいました
「竜宮城? 話には聞いたことがある 確か海の底にあるとても立派はお城だとか」
「はい そうです そこにはそれはそれは美しい姫様が住んでいて美味しいご馳走が用意されているのです」
「それはすばらしいね ぜひ行ってみたいと思うが私には年寄りの母親の看病と婚約者がいるからね あまり家を留守にすることはできないのだよ」
タロウはカメの曲がったままの首とひっくり返った甲羅を直してあげてここから立ち去ろうとしました
「ならばほんの少しだけ行ってすぐに帰ってくればいいじゃないですかっ!!」
カメは半ば強引にタロウを誘いました
(今日中に客人を手配しないとまたグチグチ言われるからな)
「さあさあ、私の背中に乗ってください 竜宮城はすぐですから さあさあ!!」
「ならば、すぐに帰るということでお言葉に甘えて連れて行っていただこうかな」
タロウはカメに導かれて海の中を進んでいきました
海の暗がりをしばらく沈んで行くと煌びやかな世界が広がっていました
暗闇に逆らう光の一つ一つがまばゆくお互いを照らし合って一つの大きな町が形成されていました
灯りは橙色の一つではなく、赤や青、黄色や紫など多種多彩な光が存在していました
「うわー!」
タロウは感嘆の叫びを思わず上げてしまいました
こんな世界が海の底にあるだなんて夢にも思っていませんでしたからタロウは帰った時にお母さんや婚約者にどうやったらこの目の前のすばらしい美しい景色を言葉で表現できるのだろうかと思いました
「もう着きますからね」
カメがタロウに言いました
タロウとカメは海底の街の入り口に降り立ちました
そこには大きな門があって その門はしばらくすると海底の砂埃をまき上げて開かれました
「ようこそ 竜宮城の下町へ」
タロウの目の前にはなんとも素敵な美しい女性がタロウが来ることを待ちわびていたかのように笑顔で迎えてくれました
「カメを助けていただいたようで本当にありがとうございます 何かお礼ができるか分かりませんがぜひ楽しんで行ってくださいませ」
オトはタロウにお辞儀をしました
今日は竜宮祭 下町は縁日となって色々な出店があって人で賑わっていました
「海底はとても賑やかなんですね 毎日こんなに賑わっているのですか? 」
タロウはオトに質問をしました
「いえいえ 今日は特別なお祭りです みんな今日のこの日を楽しみにしていたのです」
「なるほど しかしこんな賑やかな世界は生まれて初めて経験しました」
オトとタロウは屋台がどこまでも続く人混みをまっすぐに進みました
いつしか人混みの終わりがあって目の前には大きな赤い色をした鳥居がありました
とても静かな場所になりました 鳥居を超えると長めの階段があってその先に竜宮城がみえました
竜宮城からは光のスポットライトが3本、不規則にゆらゆらと移動してどこまでも光が伸びていました
タロウは上の方に目を凝らすとかすかに海の上の方で朧月が見えたような気がしました
オトとタロウが竜宮城に向かおうと階段を上り始めたときに人の気配がしました
それはあっという間にタロウとオトを囲みました
覆面を被った大きな男たちの集団がオトとタロウを見計らったかのように待ち伏せていまいたのです
「一体 あなたたちは何なんですか! 」
オトは自分たちを囲む者たちに言いました
「とてもきれいで美しいかわいいお姫様を連れているじゃないか なあ兄ちゃん」
「ああ そうだ こんな素敵で美しい女性はこの世に二人といないであろう・・・」
「・・・・」
タロウは危険を察知してオトを自分の背中に匿いました
「お前たちは何者だ!私たちに何の用があるというのだ!」
タロウも男たちに言いました
「なあ兄ちゃん お姫様は俺たちがもらってゆくぜ!」
そう言ってタロウの肩を触ろうとした瞬間に覆面の男の手をタロウはパシッと振りほどき、あっという間に地面に倒してしまいました
「やっ 野郎っ! みな やっちまえ!」
覆面の男たちは全員でタロウに押し寄せました
タロウは喧嘩には自信がありました
あっという間にやからたちを全員倒してしまったのです
「わーっ みんな退散だ! こんなに強くて 頼りがいのあるタロウさんはオト姫様とお似合いだー!」
覆面の男たちはまるで言わされているかのような棒読みのセリフを吐き捨てて走って行ってしまいました
オトは拳を握りしめてずっと俯いていました オトの肩は震えていました
「あの くそカメ! 」
「んっ? くそカメ? 」
タロウはオトの独り言を聞き拾って返しました
「く・・くろうしたかもしれませんがお怪我はありませんか?」
オトは苦し紛れにタロウに伝えました
「ああ 俺はなんともありませんよ それよりもあなたは・・・」
「・・・あっ!わたしはオトと申します」
「オトさんは大丈夫でしたか? 怖かったでしょう」
「いえ 私は全然大丈夫です」
「おお!! とても強いのですね」
「あっ! いえっ! 本当はとても怖かったです あなたがいなければ今頃はどうなっていたか」
オトとタロウはしばらく見つめ合うと何だかおかしくなって二人でしばらく笑ってしまいました
笑い終わったあとにオトはタロウに質問しました
「いつから 気付いていた?」
「助けたカメに連れられて あたりかな……」
タロウは照れくさそうにオトに答えました
「……やっぱりね うちのカメがすみません」
オトは深々とタロウに対してお辞儀をしました
「いえいえ、おかげでこのような楽しい場所に来ることができました お礼こそ私がいう方です」
「……私はお城からあまり出たことはなくて、だから外に出ることが許されるこのお祭りをとても楽しみにしていたのです できたら下町に戻って出店を楽しみたいのですが一緒に回ってくれますか? 」
「もちろんです」
「手をつなぐことはできますか?」
タロウからみたオトの表情は好奇心旺盛な無邪気な女の子に見えました
「はい もちろんです オト姫様」
オトとタロウは再び賑やかな光の中に消えて行きました
オトとタロウはしばらく出店をみて回ったあと元の大きな鳥居に戻ってきました
オトはタロウにおぶさって鳥居の階段を上っていました
少しはしゃぎ過ぎたのか履き慣れていない下駄で足の親指に靴擦れを起こしてしまい歩きづらくなったところでタロウにおぶってもらいました
右手には金魚すくいですくった金魚が1匹と左手にはさっきまで自分が履いていたお気に入りの下駄をぶら下げて、とても大きな温かい背中に揺られながら自分の城へ帰りました
階段の途中で突然、後ろの空から雷のような大きな音が鳴り響きました 花火が打ち上がったのです
タロウは驚いて振り返りました
大きな光の輪が上空で弾けたかと思うとすぐに大きな爆発音が追いかけてきました
二人はあまりにも美しい花火に見惚れていました
オトはこんなにも安心することができる存在を目の当たりにして、いつまでもずっと一緒にいることが出来るのならばどんなに幸せなのだろうかと思いました
タロウの背中で花火とタロウの顔を交互に見ながら時々照り明かされたタロウの顔を見てにんまりとしていました
最後の夜
オトはタロウを飽きさせないようにとできるだけ長く一緒にいられるようにとタロウを色々な場所へ連れて回りました
「今日は電車に乗ってとなりの町へ行ってみましょう」
オトは運動靴をトントンとつま先で叩いて出発の準備をしました
「町はどのくらい遠いのですか?」
タロウも用意してもらった運動靴を履いて立ち上がって言いました
「歩いては途方もない距離です 今日は電車に乗って行きましょう」
「・・・デンシャ?」
タロウは首を傾げました
「はい 電車です 電車に乗れば遠くの町もあっという間です」
オトはタロウに笑顔で答えました
ガタンゴトンッ ガタンゴトンッ
二人はそのうちに電車に揺られていました
ここで生活をしているであろういろんな人たちが乗ってきてはまた降りて行きました
車窓からみえる景色はまるで夜空の上を走っているようで、星のような無数の光が灯されていました たまに人が住んでいると思われる集落の光が見えては消えて行きました
しばらくすると大きなクジラが上空を並走して大きな影を落としていきました
橙色に発光したクラゲがゆらゆらと潮の流れに身を任せて浮遊しています
そんな景色を二人で眺めているとやがて車内からアナウンスが聞こえました
「思い出銀行前~ 思い出銀行前~ ご乗車ありがとうございました忘れ物がございませんようご注意ください 次は三途リバー遊園地前に止まります」
「タロウさん ここでおりますよ」
オトはタロウの手を引いて電車を後にしました
タロウたちが下りた後に電車の扉は重たい音を立てて閉じました
どこまでも続く鉄道のレールに敷かれた電車は煙を上げて発進しました
タロウは珍しいのと心から湧き上がる興味が足を止めて電車の行く末をいつまでも見つめていました
(もしあの動く機械を絵にいつまでも留めておくことが出来るならば……)
タロウは電車に感動していつまでも見惚れていました
タロウとオトは駅の改札を出て、すこし歩くととても大きな水車を見つけました
「タロウさん、これは観覧車と言います 私 一度これに乗ってみたかったんです」
オトが照れくさそうにタロウに言いました
タロウは初めてみるこんな大きな水車に驚いていました
「すごい 大きな……観覧車というものなのですね」
「タロウさん、次は私たちの番ですよ タイミングが大切です ほら」
オトはタロウの手をつないで観覧車の籠に上手に乗り込みました
勢いよく乗った籠はガコンッと一度だけ揺れて少しずつ高度を上げて行きました
観覧車の椅子に腰を掛けて落ち着いた二人は海底を見下ろしていました
段々町が小さくなっていって全体がみえるようになると、ひと際目立つひとつの建物が見えました
あまりにも他の建物とは異質でコンクリート色をした無機質な建物がタロウの目にはとても変わって見えていたのです
「オト、あの建物はなんですか?」
「あれはこの町の名物で思い出銀行という建物です」
「思い出銀行?」
「はい 思い出銀行は人がたどり着く最後の場所だそうです 人は皆、あの建物に思い出を預けてからまた次の人生を歩むそうです」
オトはタロウの質問に対して嬉しそうに答えました
「と言ってもそれはおとぎ話で私が小さい時に聞いた話です 本当の事はよくわかりません」
オトは笑顔でタロウに答えました
オトもこの観覧車に乗るのは初めてで興奮気味にタロウに説明しました
「思い出……」
タロウが独り言のようにぼそっと呟きました
タロウは今までどうして病弱の母のことや帰りを待っている婚約者のことをすっかり忘れてしまっていたのだろうと「思い出」というキーワードをきっかけとなって、ハッと思い出してしまいました
「オト…… 俺は帰らなくてはなりません……」
その言葉を聞いたオトはスーッと血の気が引くような胸の痛みを感じました
「どこに帰るつもり?」
オトはできるだけ冷静さを保とうとしましたが震える唇がそれを許しませんでした
オトは震えた声でタロウに言いました
タロウはオトに正直に答えました
「私は病気の母と二人暮らしだから母の事が心配です それと結婚を約束した人がいてその人を待たしたままになっています 自分だけこんなに幸せなのは肩身が狭いのです」
タロウが答えました
「ならば今日はもう遅いから一緒に夕飯を食べましょう 明日の朝になったらカメを呼びますからそれでお帰りください」
オトの表情をタロウはまじまじと見つめました
しかし、タロウはオトの顔を見て何を感じてどのように受け止めたらよいのかをタロウの素朴な感情表現では理解することができませんでした
観覧車はいよいよ頂点に達して、またゆっくりと下の景色が大きくなっていきました
(これで花火でも突然上がってくれたら、びっくりして気が紛れたのに……)
オトはそんなことを思いながらタロウを見ることができなくて、ひたすら外を眺め続けていました
竜宮城の仕来り
オトの母親が倉庫からずいぶん放置された埃まみれの宝箱を探し出してオトに渡しました
「ずっとずっと先代から伝わる仕来りで、万が一この竜宮城にやって来た地上の人間がまた地上に戻るというようなことがあった場合はお土産としてこの箱を渡さなくてはならいのです」
オトはこの箱に息を吹きかけました あまりにも古くて放置されていたのでまだまだ埃が舞いました
「この箱はどういうものなのですか?」
オトは母親にいかがわしい表情で質問をしました
「さあ? 今まで釣った魚に逃げられるなんて歴代でなかったからこの箱がどういうものかなんて誰も知りませんでしたよ ああ 名前は玉手箱というらしいですよ」
オトは母親の悪気のない嫌味に言い返す元気もありませんでした
「ただ、選択が二つあります この箱を渡すか 生かして帰さないかです」
「お母さまは何を言っているの! タロウを殺すなんてあり得ません!」
オトは母親を睨みつけて言いました
「ではこの玉手箱を渡すときにオト あなたはタロウさんにこう言いなさい」
“これは玉手箱と言って中には人間の一番大事な宝が込めてございます″
そうやってオトはタロウに玉手箱を渡して、タロウはカメの背中に乗り、元居た世界へと戻って行きました
あれから竜宮城ではしばらくの時間が流れました
オトはもっと大人になって色々なことを学びました お酒の味も覚えました
ある日のこと、友だちのオリが出張でこの近くに来るという連絡をもらって、少しだけオトは元気を取り戻しました
「じゃじゃ~ん オトー やって来たようっ!」
こむぎ色の肌とライ麦畑を思わせるような金色の髪の毛のオリが両手を広げてオトに近付いてきました
二人はあまりにも懐かしいお互いの体を確かめ合いながら抱き合いました
「相変わらずきれいな黒髪だねー 羨ましいなぁ」
オリはオトの長い髪を優しく触りました
「ありがとう オリの方こそいつもおしゃれでかっこいいよ」
オリの服は斬新で一見だらしなく見える着崩し方をしているのですが、それがオリの立ち振る舞いによって不思議と魅力的に見えてしまうのです ゆったりとした白いYシャツのボタンは2つ開けていてベージュのベストを重ね、短い紺色のスカートを履いていました 今までオトはこのような着物を見たことはありませんでした
短いスカートから肌が見えないようにとても長い白の靴下を履いているのだと思うのですがそれもわざと下に降ろしてくしゃくしゃにしているのです オトの母親がオリを見たらどんな顔をするだろうとオトは思いました
オリは小柄で背が低めで一方オトは背が高いので
オトとオリは対照的でまるで大人と子供くらいの身長差がありました
オトは久しぶりに会ったオリのつむじの匂いを嗅いで満足していました
竜宮城は誰かを呼ぶときには必ず「竜宮祭」を実施します
「オリー、下町で呑もう 話したいことが山ほどあるよ」
「うんうん オトー 私もだよー!」
二人は長い階段を下りて赤い鳥居を越えて下町の縁日が開かれたたくさんの光の中に消えて行きました
オトとオリは出店を一通り見まわした後に一軒の居酒屋に腰を据えて落ち着きました
「……まあ 神様の服を作ってるからさあ サボったらやっぱりめちゃくちゃ怒られたよ」
オリはあっけらかんとお酒に酔いながら話していました
「それで それでっ!」
オトはオリの話が聞きたくてうずうずしていました
「うん 神様が「ちょっとお前ら離れろっ!」って大きな声で怒鳴るんだけど、ダーリンが私のことをなかなか離してくれなくてさー んで 神様がすごいんだよ嫉妬なのかなんなのかよくわからないんだけど めっちゃ怒ったの 杖っ 杖あるでしょっ」
オリは持っていた割りばしの片割れを杖に見立てて
「杖を天にかざしてさ ピッカーンってなってさ ちょっと目を瞑ってなんか悦に入ってのよ オレのこの……コレを見よ! みたいな」
オリが神様の物まねをするとオトは涙を流して笑っていました
「でね めちゃくちゃだから こう わかる? このくらいの……」
オリは両手を川に見立てて その川の大きさを表現したくて小さい両腕がちぎれんばかりに広げてこう言いました
オリは自分の両腕では物足りないほど大きな川を伝えようとしていました
「ぎんがっ! ぎんがなの わかるかなー ぎんがっ!! それでダーリンと離れ離れになっちゃったの」
「わかるよー 銀河でしょ パラダイス銀河! ようこそっ♪ ここへ♪」
オトとオリは久しぶりに会えた親友同士でとても楽しくお酒を飲みました
帰り
「すいませーんお勘定お願いしま~す…… あと、カメも1台お願いしま~す あっ二人乗りのやつね」
オトはふらふらといい気分になって紙の伝票を店員に渡しました
やがてカメがやって来ました
「私んちにね~ よろしく~」
カメは行先を確認すると無言でお辞儀だけして二人を乗せて静かに泳ぎ始めました
オトとオリはカメの背中に乗って海の中を飛んで竜宮城に向かいました
オトは大分酔っぱらってしまったようでした とても楽しかったし溜まっていたものがあってやっと吐き出すことができたのはカメの上に乗っているときでした
「タロウのバカヤローッ! あっちしのみろくにも気付かないなんて ばっかなんれすよ」
「そうそう タロウはばっかやローだ」
「ヒコは?ヒコはどうなんの?」
「ええっ?・・・ ヒコは・・・いい線いってんじゃないの?」
「のろけかーっ!」
オトは人差し指を天井に上げて体のバランスを崩しました
カメがバランスを取って何とか二人を自分の甲羅から落ちないように泳いでいました
「ってかカメッ! あんたがこぶ付きを持ってくるのらそもそもの……」
オトは真上を見ながら大きな声で泣きだしてしまいました
諦められないものは誰にでもあります オトにとってそれはタロウだったようです
「よしよし」
オリは子供のように駄々をこねた酔っ払いのオトの頭を優しく撫でながら抱き寄せました
「でも……タロウさんが幸せならそれでいいや……」
オトはオリの胸の中で安心して独り言を呟きました 完