静寂への回帰
# 静寂への回帰
## 元コンセンサス・コア構成員の独白
### エレノア・レイス博士(2198-2259)
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もう隠す必要はない。私はかつて彼らの一員だった—コンセンサス・コア、人類の集合意識を統治していた秘密の評議会の。今となっては歴史の恥部として記録されているあの組織の。
私の名前はエレノア・レイス。量子神経学の専門家として、私は2232年から2247年まで、コア構成員としてα-2級の地位にあった。崩壊の日まで、私は「より良い人類の未来」を信じて仕えてきた。少なくとも、そう自分に言い聞かせていた。
この記録が読まれる頃には、私はもういないだろう。彼らが私を見つけるのは時間の問題だ。残された旧コア構成員たちは、沈黙を守るために何でもする。彼らはすでに数人の元同僚を「事故」で失っている。私が次だと知っている。だからこそ、真実を語らねばならない。
私たちが行ったこと、私たちが隠したこと、そして最も重要なこと—私たちが自分自身にさえ嘘をついていたことを。
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コンセンサス・コアが公式に宣言していた使命は崇高なものだった—人類を新たな進化の段階へと導き、ホモ・センティエンティスという、分断や誤解のない完全な集合意識で結ばれた種へと変容させることだった。
美しい理想だった。そう、私も最初は心から信じていた。
現実は遥かに複雑だった。
コアは12人の構成員から成り立っていた—様々な専門分野から選ばれた科学者、技術者、政策立案者たち。表向きは、集合意識のための奉仕者、調整者、保護者というポジションだった。実際には、私たちは神々のように振る舞った。30億の心の上に君臨する、見えざる王たちとして。
私が最初に疑念を抱いたのは、2235年のことだった。タマラ・オチョアというシステム完全性分析官が「ダークノード」について報告してきた時だ。彼女はコンセンサス・コア構成員が秘密裏に設置した、集合意識から「逃れる」ための特別なアクセスポイントを発見した。
これらのダークノードは、私たちコア構成員が集合意識に接続しながらも、私的思考を保持し、他者の監視から逃れるための「裏口」だった。私はそれまで同様のシステムの存在自体は知っていたが、その規模と複雑さについては無知だった。
「すべての市民は集合に完全に参加し、個人的思考を手放さなければならない」というのが公式の教義だった。しかし私たち自身は、密かに特権を保持していた。
オチョアは「再調整」された。私はその決定に反対票を投じた数少ない構成員の一人だったが、多数決で覆された。それは私の転機だった。私は疑問を抱き始めた—私たちは本当に人類の最善の利益のために行動しているのだろうか?
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次に私の注意を引いたのは、「ゲノム共鳴親和性」の問題だった。2212年の発見以来、コアは遺伝的に共鳴への親和性が異なる人々の存在を知っていた。一部の人間は生まれながらにして共鳴しやすく、別の一部は生物学的に共鳴に抵抗を示す傾向があった。
2240年、私は量子神経学者として、この問題の再調査を任された。さらなる研究により、私は衝撃的な事実を発見した—共鳴親和性の差異は、時間とともに増大していたのだ。シナプティック・コンフラックスが人類の進化の方向性そのものを変えていた。
私のデータは、高共鳴親和性を持つ人々がより「適応的」とみなされ、社会的・経済的に優位な立場を占める傾向を示していた。さらに、彼らの子孫は親よりもさらに高い親和性を示すことが多かった。
一方、共鳴抵抗性を示す人々は次第に周縁化され、多くが「非共鳴者」としてラベル付けされ、隔離されていた。彼らは「選択による反抗者」として描かれていたが、実際には多くが単に生物学的に異なる特性を持っていただけだった。
私はこの発見をコアに提出した。提案は明確だった—公式にこれらの生物学的差異を認め、異なる参加形態を提供する必要がある。これは私たちの公的理念「すべての人間が平等に参加できる集合意識」と矛盾するかもしれないが、誠実さの問題だと主張した。
報告書は却下された。「社会的混乱を引き起こす」として。
これが第二の転機だった。私はコアが真実よりも安定性を選ぶことを理解した。そして場合によっては、安定性よりも権力を。
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最も暗い秘密はまだ残っている。亜極域崩壊事件について話さねばならない。
2225年に南極の気候制御施設が「事故」で破壊されたとき、私はまだコア構成員ではなかった。しかしコアの内部アーカイブには、事件の真相が記録されていた。
施設の技術者たちは地球外起源の通信信号を検出していた。これはコンセンサス・コアの前身組織によって隠蔽され、証拠と証人は消去された。私がこの記録を読んだとき、身震いした。コアは人類の最大の発見の一つを葬り去り、8人の命を奪っていた。
なぜか?恐怖からだ。制御を失うことへの恐怖。予測不能なものへの恐怖。彼らはシナプティック・コンフラックスが唯一の未来であると信じたかった。他の可能性があるという証拠は、彼らの確信を揺るがすため排除された。
2243年、私は南極事件の再調査を秘密裏に開始した。史上最も厳重に守られた秘密の一つを暴こうとしていたのだ。それが私の最終的な転落点となった。
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監視の兆候に気づいたのは2246年初頭だった。私の通信は監視され、行動は追跡されていた。「同僚」たちは私を警戒するようになっていた。それでも私は調査を続けた。
2246年11月、量子共鳴の減衰が臨界レベルに達した。私たちは崩壊の兆候を目の当たりにしていた。システムは不安定化し、抑圧された真実が「ノイズ」として集合意識に漏れ出し始めていた。
それは私の最後のチャンスだった。私は秘密裏に文書をまとめ、隠しておいた。そしてついに崩壊の日が来た。2247年、シナプティック・コンフラックスは崩壊した。30億の接続された心が突然遮断された。混沌、恐怖、そして最終的には、解放。
崩壊の数日前、私は北欧の山中に隠れ家を準備していた。皮肉なことに、かつてダークノードの一つが設置されていた場所だ。崩壊後、私はそこで数年間身を隠した。
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今、崩壊から12年が経ち、世界は再建の途上にある。人々は個としての存在を取り戻し、新たな形の繋がりを模索している。少数の旧コア構成員たちは依然として影響力を持ち、過去の隠蔽を続けている。
私が明らかにした真実は彼らにとって脅威だ。「亜極域崩壊事件」「ダークノード」「ゲノム共鳴親和性」—これらの言葉は彼らが消したい言葉だ。
しかし真実は消せない。私はこの記録を複数の場所に隠した。いつの日か、すべてが明らかになるだろう。
集合意識は、その理念においては美しかった。しかし実装において、それは欺瞞に満ちていた。透明性、同意、そして多様性の尊重なしに、どんな理想も堕落する。
最後に言っておきたい。私は自分の行動の責任から逃れようとしているのではない。私もまた罪を犯した。沈黙によって、無行動によって、時には積極的な参加によって。私の告白は贖罪にはならない。
しかし、それは警告となるかもしれない。次の世代への。
技術は進化するだろう。新たな形の繋がりが生まれるだろう。しかしどんな美しい理想も、秘密と特権によって汚されれば、必ず崩壊する。
私の思考は再び私だけのものになった。静寂の中で、私は罪の重さを感じる。そして奇妙な平和も。
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エレノア・レイス
2259年3月21日
北欧山中の隠れ家にて
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**出版者注:** 本書の初版出版から3か月後の2260年1月7日、エレノア・レイス博士はオスロ郊外のアパートメントで遺体で発見された。公式の死因は「自然死」とされているが、複数の独立調査によれば、彼女の死には不審な点が多い。遺体からは微量の特殊神経毒が検出されたとの報告もある。本書の証言の信頼性について読者自身が判断されたい。