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良き友を見つけよう

 嫌な気配を感じて目が覚めた。

 体中を無数の虫が這いまわるような不気味な感覚が、目覚めた後だというのに体にまとわりついてた。周りを見渡すと夜明けの薄明りの中で、部屋と外界を隔てる窓ガラスの向こうに、その不思議な光景は広がっていた。

 それは、巨大な芋虫のお化けが、ぐるりと家を取り囲んで走り回っているかのように見えた。その体は、黒い部分やこげ茶の部分があって、芋虫の背中のように全体的にぼこぼことしているのだが、なんということはない、それは昨日スーパーマーケットで出会った犬たちで、道に残った私の残り香をたどって、家にまで来てしまったようだった。それらが家を取り囲んでぐるぐると回っているのである。私が外をうかがうようにして覗き込むと、向こうもその気配に気が付いたようで、二本足で壁立ちとなって、真っ黒な鼻っ面をガラスに押し付けてスピスピとやってきた。それをなん十頭も一斉にやる物だから、窓ガラスが一瞬にして曇っていった。中が見えないのはいやなようで、べろべろと長い舌でよだれまみれにした犬たちが何を求めているかは簡単に想像できた。

「あさましい奴らめ」

 どうせ、食い物を所望しているのだろう。あるいは水が無くて喉が渇いたのだ。

 これほど簡単に動物の心の内というものが想像できるということに驚きを隠せず、自分の中のメルヘンチックな思い付きに苦笑しながら、床下収納から固形糧食など数点を取り出して、食べやすいように砕き、外へと投げた。バッ、と音を立てて集団が消える。しかし、すぐなくなったと見えて、一瞬で戻ってきた。そのうちに、体の小さい奴が食べ損なって、よろよろと倒れているのを見つける。まだ子供のようで、腕の細さも他の犬と比べて顕著だった。

 仕方がないのでそれを捕まえて鼻先に食料を突き出したのだがこれも食べず、ただ、病気のようなぐじゅぐじゅとした目でこちらを見るばかりのため、仕方なく家に上げるに至る。

 我が家には猫がいる。猫と言っても血統書のあるような猫ではなくて、家の庭でうずくまっていたのを拾ってきたような猫なのだが、外で産まれたにもかかわらず、家から一歩も出ることができないような臆病者で、そのくせ、我が強く、人に抱っこされることも了承しないような猫がいた。彼がパニックになったのは言うまでもない。


 彼が小さいときに使った子猫用牛乳を温めて犬の口を濡らすと嫌そうな顔でなめとる姿があった。なんだミルクは嫌いか。私は一人の方が好きな性分であるので、我が家にいるときも極力飼い猫と接触しない。彼もそれを望んでいるので、この奇妙な関係は成り立っているのだが、この犬というけだものは、あろうことか、私のズボンのすそをかんでどこかに行かせまいと踏ん張ったのだ。面倒だ。と思って外に出すとピーピーと何時間も泣きぬいて、ついには私の方が折れた。あまりうるさいのは得意じゃなかった。


 本当は物資探しのために今日を使いたかったのだけれど、トイレを覚えさせるために一日を消費した。

 体毛が白かったので豆腐と名付けてみた。

 豆腐は本当に人間が恋しいらしく、私が胡坐をかいて座れば、その足の間にとぐろを巻いて眠り始めるようなやつで、トイレに立っただけでパニックになり、ドアの下を掘って中に入ろうとした。一番いやだったのは眠る時だ。豆腐は自分が起きている時間は私にも起きていて欲しいらしく、胸の上に居座っていつまでも顔を見つめてくるような犬だった。


 その日のうちに近所の犬を飼っている人のところに豆腐を抱えていったが、もちろんそこに住人の姿はなかった。いたのはその飼っている犬のところの、食パンから短い脚をはやしたような室内犬が、縁側の方から見ることができたが、その壮絶なる姿は形容しようがない。

 外に出れた犬は幸運だったのだ。そのパン犬は、ガラスを破ろうともがいていた。前足の肉がはがれ、体毛が抜け、血油で赤く染まったガラスの何と無残なことだろうか。ギャンギャンと吠える声も、助けてと言っているように聞こえる。あるいは、お前を食ってやろうかと言っているのかもしれない。少なくともここには預けられないようだ。



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