走る言葉たち
トタトタ ドタドタ ドスンドスン
目を覚ましたのは間違いなくこの音だった。
私には三種類の音が聞こえた。
例えるなら、
犬が、散歩することを喜んでスキップする音。
幼児が走っているような足音。
そして巨人が歩いているような音。
寝苦しい夏の日だったせいだろうか。
私にとって最悪の目覚めだった。
田んぼしかないド田舎でネズミが歩いても、こんな大きな音をネズミが出せるはずがない。
ただ嫌な予感がする。
ロフトから床に目を向ける「なにこれ。」と思わず声を出てしまった。
味気ない私の部屋は、黒い物体に占拠されていた。
普段、ホコリすら落ちていないフローリングは
わしゃわしゃと芋洗い状態で、底すら見えない。
これが目が悪くてもわかる範囲の限界値だ。
そうだ、これは夢の中だ。そうに違いない。そうじゃなきゃやってられない。
手探りで棚においてあったスマホとメガネを探す。メガネは枕の横にあったのですぐ見つかった。だけど、スマホが見つからない。
黒縁薄いフレームのメガネをすると さらに目を疑うものが出てきた。文字が歩いている。
彼らが歩いてきた方向を辿れば、発生源はまさかのスマホの中からであった。
両手で、スマホから出てくる文字を押し込めるが、指と指の隙間から文字達が出て来ようと必死に押し上げてくる。
「ねぇ、待っててば。」文字達は言うことを聞かない。
飛び出た文字達は数メートルあるところからロフトから文字が蟻のように壁をつたって降りていく。
「本当に意味不明なんだけど!」と
私は布団をバンと1度叩いた。
なんだか、幼なじみにドッキリを仕掛けられている気分だ。
とりあえず、スマホが機能するのかタップをしてみる。画面は着いたが、いつもの画面とは明らかに違う。
まず、パスワード入力画面が、真っ白だ。最初、何かしらバクったのかと思い、電源を3回ぐらいつけ直したが、真っ白だ。スマホが命の私にとってこれは心理的ダメージが大きい。
まぁ、画面の中から白服の女が手を伸ばしてくるよりはマシか。と思い画面を何回かタップする。祖母なら叩いて治すだろうか。
いや、今の時代でこの方法を使うのは良くない。
そういえば、昔。
いじめっ子にパスワード変えられて
スマホが開けなくなったことがあったけ。
電気屋さんに聞いたら、
電源付けた時に数秒間で設定画面にいき、
パスワード設定を消すということだった。
五年前に購入した古いスマホだ。
このスマホなら解除できる。
最新機種を買わなくてよかったと初めて思った。
設定のアプリを開いた画面にあるのは、枠とアイコンだけだった。
あ、またパスワードかかった。
無駄なことを私はやってしまったことに気がついた。これ、パスワード解除するのは
数字がなくたって、いつもの感覚で打てば開けるんじゃないか説。パニクっていた私もだいぶ冷静になってきた。二回パスワードを打ったらひらいた。スマホの中にあるのは、画像とアプリのアイコン無理やりでも使うとしたら、写真と感覚で
ナウスター写真投稿アプリーぐらいだろうか。
もう、こればっかりはどうしようも出来ない。
私はおそるおそるハシゴを使って床へ降りた。黒い物体を目を凝らしみる。友達 感情、人生 、無意味、孤独感の言葉達が足を生やしてうごいている。
それらは手をつないでいてそれぞれグループ行動をしているようだ。床に足をつけると黒い物体は、さぁぁと避けてドアまでの道を作る。
どうやら彼らは優秀らしいが…少し歩くとブチッと音がしたのと同時に「ぎぁあ!」という叫び声が聞こえた。振り返って足元をみるが、何かを踏んだ後は残っていない。
部屋のドアを開けて階段を降りようとするが、黒い物体ー文字達ーが足の甲を渡っていてくすぐったい。これでは足を滑らせてしまう。
階段の壁にかけてある箒を使い文字たちを払った。何万字以上もある彼らは我が我がというように階段から降りていこうとする。こちらも慎重に階段をおりていく。五分かけてようやくリビングにたどり着くとロッキング・チェアに座り祖母はいびきをかきながらぐっすり寝ていた。仕方ない。ブランケットでもかけておこう。きっとこの文字の大軍を祖母が見たら退治するだろう。祖母は理解できないものは嫌う。
祖母が起きていないことが不幸中の幸いだ。
机の上に置かれた小さな鳩時計は朝五時半を指す
カーテンを開け、湯沸かしポットでお湯を沸かす。机に置いてあった小説は、真っさら
ガチャンと新聞が投函される音がしたため、パジャマのまま玄関に行く。ガラガラと扉を横にずらせば、横から黒い物体たちは勢いよく飛び出して
波に足を持っていかれたように外へ外へ出る。
結局は膝を着くように転けて擦りむいた。。
顔をあげれば無数の単語達が、街を埋めつくしている。
もう何も感じなかった。
ただ、夢であって欲しいと願った。
初めまして、根霧と申します。
初投稿作品です。
なかなか、行き届かない点もあるかもしれませんが、よろしくお願いします。