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フラ子、ウル子、ドラ子の3人は花も恥らう17歳の魔界女子だ。
同じく17歳の魔女マジョンヌの家来として、ここ人間界へとやって来た。
「マジョンヌ様、何か用事かなー?」
狼女のウル子が首を傾げる。
ちなみに満月が出ていなくても、ずっとかわいい系狼女状態だ。
「面倒事じゃなきゃいいけど」とヴァンパイア女子のドラ子が眉をしかめる。
フランケン女子のフラ子は黙っていた。
基本、無口なのだ。
3人はマジョンヌが魔法で建てた立派な洋館の廊下を主人の部屋へと歩いている。
窓の外には夜の帳が下りていた。
ドラ子がマジョンヌの部屋のドアをノックする。
「入れ」
マジョンヌの許しと共に、3人は部屋に入った。
豪華な意匠を凝らしたアンティーク机の椅子に、若く美しい魔女は座っていた。
卓上の水晶玉に見入っている。
3人娘は、マジョンヌの前に横一列に並んだ。
「揃ったわね」
マジョンヌの青い瞳が、順に家来たちを見つめた。
「お母様の魔力を見つけたわ」
「「「え!」」」
それを聞いた3人が驚く。
そもそも人間界には、マジョンヌの行方不明の母親を捜しに来たのだ。
「では、今からそこへ?」
「ええ。でも、わたしは行けない」
「え? どうしてですか?」
ウル子が首を傾げた。
母親に1番会いたいのはマジョンヌなのだから、当然の疑問だ。
「まあ、今の段階では、お母様の魔力の反応ってだけだから。本人が居るとは限らないの。しかも、その場所には魔女だけが近付けない結界が張られている。この世界の昔の僧侶がかけた魔法みたい」
「それじゃあ…」
ドラ子が表情を曇らせた。
面倒事が嫌いなのだ。
「あなたたちだけで行くのよ」
ドラ子が肩を落とし、ウル子はコクコクと頷く。
フラ子は落ち着き、黙っていた。
「場所はどこですか?」
観念したドラ子が訊く。
「この近くよ。明日から、そこに通学して」
「「「通学!?」」」
3人が異口同音に驚いた。
翌朝。
神聖学園の立派な校門前でフラ子、ウル子、ドラ子は横に並んでいた。
3人とも、学園のセーラー服を着ている。
「人間の学校だと…!?」とフラ子。
「一緒のクラスかな?」とウル子。
「似合ってるじゃん」とフラ子のセーラー服姿を見るドラ子がサムズアップした。
「ムムム」
短いスカートから飛び出す逞しい両足をフラ子がモジモジさせる。
3人の中で1番、戸惑っていた。
「私たちは転校生よ。マジョンヌ様の魔法で人間たちは必要以上に興味を示さないから。3人とも同じクラス」
ドラ子がウル子の疑問に答える。
「やったー!」
ウル子が、はしゃいだ。
フラ子は、まだ制服に戸惑っている。
「さあ、職員室に行くわよ。隙を見て、マジョンヌ様のお母様の魔力反応を探るの」
ドラ子が2人を促し、歩きだす。
テンションが上がり、ミニスカの後ろの穴から出した尻尾を振るウル子と、緊張でギクシャクした動きのフラ子が続いた。
ドラ子を先頭に、3人は職員室に入っていく。
そこで担任の女教師と合流し、2年K組で転校生として紹介された。
3人は窓際の席に縦に並び、そのまま担任の1限目の授業を受ける。
フラ子は体格と比べて小さな机に窮屈な思いをしていたが、自分に注がれる熱い視線にハッと気付いた。
隣の席の丸メガネをかけた男子生徒が食い入るように、こちらを見つめている。
「厶」
フラ子も見返した。
長髪で痩せ型の男子生徒はポッと頬を赤らめるが、視線は逸らさない。
フラ子はどうしていいか分からず、顔を黒板側に戻した。
結局、男子生徒は授業が終わるまで、フラ子を見つめ続けた。
女教師が教室を出ると同時に、男子生徒が「フ、フラ子さん!」と話しかけてくる。
「ムム」
フラ子が顔をしかめた。
緊張で首のボルトが熱くなる。
「ぼ、ぼくは怪奇研孝といいます、よろしく!」
研孝の鼻の穴が興奮で、おっ広がっている。
「趣味はオカルト研究です!」
「あれ? マジョンヌ様の魔法で、あたしたちって目立たないんじゃないの?」
フラ子の席まで来たウル子が首を傾げた。
「たまに居るのよ、こういう魔法に耐性が強い奴」
ドラ子もやって来る。
「フラ子、いきなりモテてるじゃーん」
「いいなー」
ドラ子がからかい、ウル子が羨ましがった。
「ムムッ」
フラ子が真っ赤な顔で口端から、細い煙を立ち昇らせる。