不幸の手紙
「これを六日以内……もし……不幸……」
……ああ。読んでいるうちに声を出してしまうのは俺の悪い癖だ。
だが幸いにも今はアパートの部屋に一人。気味悪がられることもない。
しかし、まさかこの時代に不幸の手紙の類が届くとは……。
六日以内にそっくりそのまま誰かに回さないと俺は不幸になるらしい。
が、当然無視だ無視。不幸になるなんて馬鹿馬鹿しい。
自慢じゃないがそもそも中々に不幸だ。
いや、世の中にはこんなものを送る馬鹿がいると知れた今は幸福かもしれないな。
まあ、馬鹿のほうが人生は幸せだともいうが。
……そう思っていた。だが、期日を過ぎたその日から
俺の身に次々と不幸が降りかかった。
どこからともなく石が飛んできたり
真夜中、アパートの部屋のドアを激しく叩かれ、外の様子を窺うも誰もいなかったり
ドアの前に犬の糞を置かれたり。
一体いつまで続くのか。終わりはあるのか。
どんどんひどくなっている気がする。終わりとはつまり、俺の命が……
【ご相談は下記の電場番号まで】
ふと手紙の内容が頭によぎり
たまらず俺は手紙に書かれた電話番号にかけることにした。
電話に出たのは男。ただ、どこか冷たい声。体温も、温情も感じないような。
俺はその声の主に必死に弁解し、謝った。
相手はその間、ずっと黙っており、五分位喋り続けていただろうか
声が震え、足が震え、俺は咳き込んだ。これも不幸なのか。呪い……死……。
いやだ、いやだ……たすけて……。
『あー、話は分かりました。でしたら二百万、振り込んでください。
ええ、期日は先延ばしにしますので』
「へ? え、え、でもあの現金書留、は、入っていたのは三十万……」
『賠償ね賠償。使ったんでしょ? 駄目じゃない。自分のお金じゃないのに。
不幸になりたくなかったらそっくりそのまま他の人に回してって書いてあったよね?』
「え、でも」
『なに? 何か間違ったこと言った?』
「あ、いえ……」
『まあきみ、お金ないよね? じゃあ一度、事務所に来てくれる? うん、そうしよう。
いいお仕事も紹介できるしさ。逃げたら……不幸になるよ』
電話が切れてから数十分後。ドアを叩かれた。
聞き覚えのある叩き方であった。