ブサイク令嬢ですけど、めっちゃくちゃに求婚されちゃいまして
まずは自己紹介から!
アタクシの名前はブルット。
十七歳の年頃の子爵令嬢にして、誰一人として婚約者がいない。
その原因は、極めてブサイクであること。おまけに頭も悪い。行き遅れというか、もう遅いって感じ。
だから両親にもすっかり見捨てられて、アタクシは下働きみたいな扱いを受けて毎日過ごしていたんだけど……。
「悪いけどぉ、ワタクシの代わりにパーティーに出てくれないかしらん」
妹のベラドンナが、ある日そんなことを頼んできた。
彼女は、婚約者である第五王子とちょっとお出かけの予定があるらしく、本来なら出席する公爵令嬢の誕生パーティーに、アタクシを出席させようというのだ。
「え、このアタクシが?」
顔だって豚みたいだし、お腹はブヨブヨだし、手足だって短いし……。
こんなアタクシが、パーティーに出席していいの? だってそれじゃ公爵様に失礼でしょうに。
そう言ったのだけれど、ベラドンナは「お願いですわー」と甘ったるい顔と声で迫ってくる。
ベラドンナは誰がどう見ても美人だ。長い金色の髪、綺麗な水色の瞳。そりゃ当然、王子の婚約者になれるって感じの容姿。
性格はあんまり良くないけど。
この屋敷では、妹の意見が絶対。
父も母も、アタクシがパーティーに行けばいいと言う。まあそう言うならそれでいいけど、髪の手入れも一切していないアタクシが行っても恥と思わないんだろうか?
まあ、いい。別にどうでも。
アタクシはあくまでベラドンナの代役。そう思って、公爵令嬢の誕生日パーティーへ向かった。
△▼△▼△
「結婚してください!」
「僕を選んでくれ!」
「いやいや俺を!」
「あなたを幸せにします!」
「私と! 私と!」
……ねえ、これって一体どういうこと!?
アタクシは今、五人の殿方に囲まれていた。
いいや、正確には全員が殿方じゃない。一人だけ侯爵令嬢が混じってる。あなた、もしかして百合?
今、アタクシは一斉に求婚を受けている。
パーティー会場に着き、ひとしきりの挨拶が終わってからのことだ。突然、公爵令息のトーダから花束を差し出された。
そして次は若男爵のアンゴル氏、パケカム第三王子、トレッタ伯爵令息、そしてアンヌ侯爵令嬢。
アタクシは今、なんでこんなことになっているんだろう……。
貴族一のブサイク娘、そう呼ばれるアタクシだ。
長女だからと王子とのお見合いに連れて行かれた時、反吐を吐かれてしまったくらい。だからそれ以降、アタクシは表舞台に立ってこなかったというのに。
トーダ公爵令息が言った。
「あなたの赤茶色の髪、そして焦茶色の凛々しい瞳。私はそれに魅入られてしまいました。どうか、結婚してください!」
アンゴル男爵が負けじと声を張り上げる。
「ブルット嬢、僕を選んでくれ! 僕は爵位こそ低いが、そこそこの生活は約束できる。あなたのそのふくよかな体を愛してしまった。どうか僕の妻になってくれ!」
他三人もそれぞれ、パケカム第三王子は「顔が好みだから」、トレッタ伯爵令息は「とても胸が大きいから」、アンヌ侯爵令嬢は「女として尊敬できる凛々しいお声だから」だそうだ。
特にトレッタ令息、胸が大きいからとか完全にアレだよね!? アンヌ嬢も声で決めちゃうの!? 確かにアタクシ、普通の女性よりは低い声をしているけれど。
っていうか、みんな外見だけで言ってるよね。アタクシの内面とか見てないよね。ってか、今初めて話したばっかだよね。
「どうかしてますよ?」と思わず声が漏れてしまったけど、殿方と百合お嬢様の勢いは止まらない。
「この花束を!」
「僕の愛を!」
「俺と結婚したら妃になれるぞ!」
「幸せにします! 永遠の平穏を保証しましょう!」
「女と女でも、わかり合えることがあると思うの。ね?」
今まで、ブサイクと罵られて、両親に愛されずに生きていたアタクシにとって、この急展開はどうしても受け入れ難いことで。
アタクシってそんなに魅力的? 怒涛の求愛に、どう答えたらいいんだろうと頭を抱える。
そこへ突然、一人の老人が割り込んできた。
「お嬢さん、聞いたところによると、容姿を貶され、家で辛い目に遭っているようじゃな」
「は、はい……」
確かにアタクシの待遇は、ベラドンナと比べたら天と地の差。
そりゃ容姿がこんなにも違うのだから当然だと思ってたけど……。
「可哀想に。なら、ワシの家で暮らさんかね? 使用人もみんな優しいし、実家のようにお嬢さんを貶めるような人間もいない。どうだい?」
アタクシはすぐに頷いた。
「じゃあ、行きます!」
求婚者五人が何やら叫ぶ中で、アタクシは老紳士――ペチャック子爵に連れられて、パーティーを後にしたのだった。
誕生日パーティーの中心人物であるはずの公爵令嬢は、すっかり状況に取り残されている。
そしてただただ口をあんぐりと開けてその様子を見ているのだった。
「これは、何の冗談なのでしょう……?」
△▼△▼△
その後ベラドンナはアタクシにヤキモチを焼いた。
だって、ペチャック子爵は爵位が低い割にとても裕福な貴族だったからだ。
それに五人もの貴人に告白されたことも気に入らなかったんだろうなと思う。
「でもパーティーに出てって言ったのはベラドンナでしょ? 文句は言わせないですよーだ」
アタクシは、ニヤッと意地悪く笑ってやった。
アタクシはペチャック子爵家へ向かい、そこで暮らすことに。
やがてペチャック氏との四十五歳の歳の差結婚をすることになったのだった。
ちょうど妻を亡くして寂しがっていたらしい彼は、アタクシを新たな妻に迎え入れられてとっても喜んでいる。
アタクシも窮屈な生活から抜け出すことができて、子爵からたっぷりの愛を注がれて、とても幸せな気分。
そうそう、ベラドンナはと言うと、第五王子と結婚したものの、王族もろとも滅ぼされたらしい。
なんとペチャックが王国へクーデターを起こし、国をひっくり返したのだ。
その時にアタクシの実家だった子爵家も潰れちゃったけど、別にいいよねー。
そして新たな王として君臨したペチャック。従って、アタクシは知らないうちに王妃になってしまっていた。
相変わらずブサイクなんだけど、どうしてこんなことになったんだろう?
ペチャック曰く、「可哀想だったから」匿って、さらには娶ることにしたらしいけど、いまいち納得がいかない。
「まあいいか。何はともあれ、こうしてブサイク令嬢ブルットは、幸せになれましたとさ」
おしまい