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ツンデレ大魔王は遠慮します①

 毎週水曜日。

 それが祝日だとしても、その日は例外なく世界中の人々がスアルブからいなくなる。


 スアルブの運営方式は独特で、普段のサーバーメンテナンスはゲームに組み込まれた最新鋭の人工知能によって管理されている。

 だが最新鋭の人工知能といっても、まだまだ発展途上の技術。

 それを補うといった意味で、毎週水曜日0時~23時59分の間は決まって定期メンテナンスとなる。


 プレイヤーが一切ログインすることのない水曜日。

 NPCは自分達の役目を放り投げ、解放されたように遊び呆ける1日だ。


 唯一の自由な時間。

 それなのに、セディアは水曜日が大嫌いである。



「ピィーンポォーーン!!」


 クレシレア大聖堂の最奥地にある小さな一軒家。

 プレイヤーが入ることのできないマップ外に、セディアの住居が存在する。


 そんな場所にあるためか、呼び鈴のようなチャイムなどは用意されていない。

 来訪者なんて基本的に来ることがないので、当たり前である。

 それなのに、今日は朝早くから女の子の大声が呼び鈴変わりに響き渡っていた。


「……なんでお前がここにいるんだよ」


 寝ぼけ眼のセディアが玄関から出てくると、最近見たばかりの青髪がニコニコと見つめている。


 澄んだ黒い瞳に張りのある麗しい肌。

 少しだけセディアより低い身長に、腰まで伸びたサラサラな青い髪。

 スタイリッシュな体型に反した豊満な胸元。

 妖精が着ていそうな可愛いワンピースで着飾り、スカートの丈は膝上20センチ。


 改めて見返せば、魅力の塊といっても過言ではない贅沢ボディに、普通の男達なら一目惚れ間違いなし。

 可愛い町娘ランキング1位に選ばれるのも、必然といえるだろう。


 だがそんな来訪者も、セディアにとっては憂鬱になる1つの原因だ。


「旦那様。今日は水曜日ですよ? せっかく自由に動けるのですから、ルナが朝ごはんを作りにやって参りました」


 瞳をハートに光らせた女性が1人。


「いや、だから。お前はどうやってここまで来たんだよ」


 忘れていると思うが、ここは裏ボスが拠点とする超高難易度のダンジョン。

 そこにはセディアが作り出したドラゴンやらガーゴイルやら、それはそれはおぞましい魔獣が大量に配置されている。


 NPC同士の殺し合いがない世界ではあるが、クレシレア大聖堂に配置された魔獣に関しては例外だ。

 魔獣には侵入者を見つけると自動で襲いかかるように、セディアが独自的なプログラムを組み込んでいる。

 いくらNPCでも、クレシレア大聖堂の魔獣を避けて通ることは不可能なのだ。


「ルナは空間転送魔法のスペシャリストでございますよ? 旦那様に会うためなら、ちょちょいのちょーいでございます」


 空間転送魔法。

 プレイヤーが広大なマップを移動する時に使う、画期的な移動手段である。

 しかしそれは、目標物となる女神の像がある場所にしか移動できないのが一般的。


 当たり前だが、セディアの家やその周辺に女神の像など存在はしない。


「転送魔法だぁ? お前のステータス見た時にはそんなこと書いてなかっただろ。そもそも、転送魔法の目標物がないのに、どうやってここまで飛んでくるんだよ」

「それは…………愛の力……ですかね?」


(ですかね? じゃねーよ。ちょっと可愛いのがまた腹立つんだよ)


 真面目に対応するのがアホらしくなったセディアは、その場に座り込んで地面とにらめっこを始める。

 そんな様子を不思議そうに見ていたルナは、視線を合わせるように膝を突き、そのままセディアの顔を覗き込む。


「どうしたのですか旦那様? ルナの朝ごはんが待ちきれず、お腹の虫に食べられてしまいそうなのですか?」


 話の内容はちんぷんかんぷんだ。

 しかし、上目遣いから作られる少しはだけた胸元は、純粋に男心を燻る。

 強引な男ならこの場でルナを押し倒してもおかしくはない。


 謎に信頼されているような、むしろ押し倒してくれといっているような。


「お前さ、なんか口調変わってないか? 俺を殺そうとした時は、もっとキリっとした感じだったよな」

「えっ……だって……旦那さまの……いじわる」


 何を恥ずかしがっているのか。

 ルナは頬を赤くしながら、モジモジと体を揺らす。

 つい先日に命を狙ってきた挑戦者とは思えない変貌ぶりに、ただの天然な娘なのかと考えを変えることにした。


「よしっ! 時間も勿体ないですし、朝ごはんを作りますね! お邪魔しまぁーーす!」

「ちょ、ちょっと待て!! 今日は水曜日だろ?! お前がここに居続けるのは駄目だ!!」


 セディアは咄嗟に玄関を防ぐように仁王立ちをする。

 そんなセディアに対し、ルナは唇をへの字に曲げて半ベソな表情で抵抗をした。


「そんな可愛い顔したって駄目だ! もうすぐアイツがくるんだよ! そこにお前がいたら……」


 今日は水曜日。

 それはセディアにとって、自由な日とは程遠い。


 何故なら、間もなく奴がやってくるからだ。


「セッディアァァーー!!」

「やばい、噂をすれば……」


 遥か遠くから無数の爆発音と共にセディアの名前を叫ぶ声。

 ルナは突然の出来事にビクッと肩を弾ませるが、セディアは慣れた出来事のように深くタメ息を吐いた。


「もう間に合わねぇな。おいルナ! 急いで家に隠れるんだ!」


 セディアが勢い良くルナの手を引くと、そのまま強引に家の中に連れ込んだ。

 そのまま奥にある寝室まで走ると、部屋の扉を閉めて真剣な顔をする。


「いやんっ。旦那様ったら……。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ、た、し? ってやつですね。でも、そんな旦那様も嫌いじゃないですよ」


 ベッドに身を任せると、ルナは胸元のボタンを1つ外す。

 同時に太ももをクネクネと擦り合わせると、恥ずかしそうに目を細めて吐息をこぼした。


「部屋は……暗くしてくださいまし」

「アホか!!」


 1人盛り上がるルナに向かい、セディアは少し頬を赤く染めながら激怒する。

 何を怒っているのだと言いたげなルナに向かい、指を差して命令した。


「いいか? 俺が戻ってくるまで、絶対にこの部屋から出てくるな! 分かったな?」

「……??」


 セディアはそれだけを言い残すと、慌てて部屋を飛び出していく。

 あまりの慌てぶりに、ルナはキョトンと呆けながら、ベッドに寝そべっていた。


「セッ……ディ……アァァーー!!!!」


 気づけば先程遠くから聞こえていた叫び声がすぐそこまで来ている。

 セディアは気を取り直して自分を落ち着かせると、ゆっくり玄関の扉を開けた。


「なぁによ。セディアのくせに私を待たせるとか、生意気じゃないの?」


 家の前には赤毛の女性が1人。

 瞳も髪同様に赤く染まり、頭からは左右対称に角が2本生えている。

 お洒落なマントをはおり、トップモデルのようにスレンダーな立ち姿。

 お姫様というよりは、女王様というべき堂々とした振る舞いに、セディアはぐっと肩を落とした。


「何をガッカリしてるのよ! 大魔王ラナドゥーラ様が遊びに来たのよ! もっと嬉しそうにしなさいよ!」



 ネクストイベント【修羅場】

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