表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの夜の月  作者: アキ
6/8

エピソード5 許嫁

エピソード5 許嫁


あの日から俺は光に心を許すようになった。


ここへ来てもう一ヶ月ほどたっただろうか。


光は変態だがいいやつだ。


ご飯もくれるし。


殴ったりもしない。


俺はペットとしてこの人に仕えるのも悪くないなと思っている。


今日も光は忙しい。


色んな人と面会したり話し合いしたり書類を片付けたりしている。


俺はいつもどおり自室でのんびりしようかと思っていたが、今日は光に呼び止められた。


「おいサク、今日は少しお前を連れて寄りたいところがある」


「ん、いいよ! 仕事か何か…?」


「仕事ではないが…ずっとお前に会わせろと言うやつがいる」 


俺に?誰だろうか。 


まぁよくわからないがついていくことにした。


光の後ろを歩き長い廊下を歩く。


階段で建物の半分ぐらいまで降りる。


本当にここの建物は高い。


ここに来た日に見上げたが月までありそうだ。


エレベータがほしい…。


と思うが実はあるのだ。


ただ光が使わないだけ。


というのも仕事してる使用人の邪魔になるのが嫌なんだとか。


光はいつも偉そうで俺様だけどこういうところは謙虚だ。 


そしていくつにも廊下を曲がりひたすら歩く。


ここは建物のちょうど半分ぐらいに位置するエリアだ。


なんと庭がある。


庭はよく手入れされていて小さいがたくさんの植物が生えている。


平安時代の造りそのものだ。


ようやく目的の場所についた。


大きな部屋だった。


とても簡素な部屋でほとんど何も置いてない。


ただ部屋の端に御簾がある。


その御簾の前に光は腰をおろした。


俺もその場に座る。


とても心地のよい部屋だ。


障子は撤去されていて外から涼しい風が吹き込んでくる。


昼の光をいっぱいに浴びてすぅーーっと深呼吸をする。


いい天気だなぁ。


もちろん、御簾の中にいるのは女性だろう。


光は彼女に 


「美羽。お久しぶりぶりです。こいつがサクです。」


美羽さん?誰だろうか。


「まぁ なんて可愛らしいの」


そういった声の主の手が御簾の間から伸びてきて俺の頭を撫でる。


「あなたが光のペットなのね」


とてもか弱くキレイな声だった。透き通るようだ。


「はい…」


ペット?まぁペットか… 


否定するわけにもいかないのでこう答える。


「こんにちは お耳ふさふさね〜 私は光の許嫁の美羽 よろしくね」


許嫁…許嫁いたのか まぁ殿様だしそりゃいるよな。


ん…?ってことは婚約相手がいながら俺にチュッチュしてたってことか?


俺の常識からすれば立派な浮気になるのだが、この世界の常識がわからない。


それに光は俺のことをペットとか言ってるしノーカウントなのか?


それとも俺はただ光の暇つぶしとか…?


少し胸がチクッとした。


というか許嫁さんもこの屋敷にすんでいるのか本当にこの世界の仕組みがわからない。

そんなことをぐるぐる考えながら


どうしていいのかわからず無抵抗に撫でられていた。


すると光がぐっと俺を自分のところに引っ張った。


「触りすぎですよ サクが困ってます」


「あら、ごめんなさい」


押し出したり引っ込めたり自分勝手だなとか思いながらその後は二人の話を聞いていた。


光も敬語を使うってことは身分高いとこの姫様なのかな…


天気の話だとか体調の話だとか当たり障りのない会話が俺の上を飛び交う。


その間光はずっと俺の頭を撫でている。


なんかポカポカするし眠くなってきた。


そこへ一人の男が慌ただしくやってきて光に耳打ちした。


光の顔色が少し変わった。


「申し訳ないのですが急な仕事が入ってしまいまして、そろそろ御暇させていただきます」

 

そう言いすくっと立つ。


確かに、光はいつもなんかしらの仕事に追われているしトラブルでも起きたんだろうな。


「あら、お忙しいのにお時間取らせてしまいましたね。またいらしてください」


「はい勿論です。サク行くぞ」


光が俺の手を引くが…、


「サクちゃん?はまだ時間ある?」


と姫様に呼び止められた。特に用事もないのでとっさに返答してしまった。


「あ、はい…!」


「なら、もう少しお話しましょ」


光の顔を見る。とても複雑そうな顔をしている。


後ろの従者が光を急かす。光は渋い顔をして


「あまり長居して迷惑かけないようにな」

といい部屋に戻ってしまった。


え…俺どうすればいいの 何話せばいいの

お話苦手なんだが…



ここに来てから光以外の人とは喋ったことがない。

俺が呆然と立ち尽くしていると御簾の中から手が伸びてきた。ぐいっと引っ張られる



御簾の中は涼しかったそして少し暗かった。


そこにはキレイな女の人がいた。


黒い髪は長くつやつやしていてとても上品な香の匂いが立ち込めている。


着物はカラフルで美しい。


どうしようどうしよう ええ


高貴な女性って姿を見せないんじゃないのかここの世界はそういうのないのか?ならなんで御簾があるんだ?


軽くパニックになって口をパクパクさせていると綺麗なツリ目の女性は口の端を少し上げてまた頭をなでた。


「光がねペットを飼ったって聞いてすごく会いたかったのよ。あのなんにも興味なさそうにしている光が飼ったんだもの驚きなのよ 確かに可愛いわね」


姫様は俺の耳をもふもふしている


「あ、あの…」


「前に犬も飼ってたみたいだし本当に動物が好きなのね」


へぇ前にも飼ってたのか。意外だ。

でも今はそんなことより


「あの!」

俺が声を上げると美羽さんは首をかしげた。


「んー?」


「俺、御簾の中に…入っていいんですか?‥」困惑した表情で問いかける。


するとと姫は


「大丈夫よだってあなた犬でしょう?」


そう笑顔でいった。


「…」


姫様は何気なく言うが、

この言葉に差別的な意味が含まれていることを知っていた。


記憶の断片をかき集めてわかったことだが、この世界では動物×人間は男しかいない。

メスは殺されてしまうのだ。


そして基本売られる予定のオスの犬は子孫繁栄ができないように薬を投与される。 


勿論例外はないから俺の精子も子孫を残すことはできないようになってる。


それを姫は知ってるようだ。


そしてどうせ襲われても妊娠しないから御簾の中に入れるのだろう。


やはりこの世界では動物への差別の壁が大きい。


もしくは、姫様には悪気はなく犬が襲うなどとは考えていないのかもしれない。


しかし、俺も良い年した男だ。


まぁ光の許嫁さんだし手を出したらどうなるかなんてわかってるから絶対しないけど。



そして


「ケン来て頂戴」


と姫様が呼ぶとすぐに少年がやってきた。


少年は御簾の前に膝をついている。


俺と同い年ぐらいの見た目の人間の男の子だ。


少しタレ目の髪の毛がふさふさした美少年だ。


この世界の男性顔面偏差値高くね?


そして俺は御簾の中から開放された。


ケンと呼ばれた美少年は俺を見るなり少しびっくりした様子だった。


そりゃそうだよな。


城に卑しい犬がいるんだから…それも姫様の部屋に…


俺たちの気まずい空気なんて知らずに姫様は


「ふふ、ケン、この子はサク。光のペットなの。年が近そうだから仲良くしてあげて」と嬉しそうに言った。


「はい、わかりました姫様」


「早速遊びに行ってらっしゃい」

そう姫様が言うと、ケンは続けて 行こう といい俺の手を引いた。


俺たちは姫様の部屋をあとにした。


ケンというやつは俺のおもり係にされたわけだ。




その後ケンに連れてこられたのは中庭だった。


この中庭は少し荒れている。そして周りの部屋もすこしぼろぼろだ。


「ケン…くん?ここは?」


「呼び捨てでいいよ ここは城内でほとんど使われていない場所 僕たちぐらいしか多分いないよ」


そう言いながらケンは草をむしっている。


この中庭のお手入れをしているようだ。


俺はよくわからず立ち尽くしている。


もしかして仕事の途中だったのかな…?俺邪魔?帰ったほうがいい?


「君何歳?」

ケンはそう尋ねた


「え、16…」


突然のことに驚きながらも返事した。


「そっか、同い年だ」


ケンはしゃがんで草をむしってるので表情は見えない。


俺は近くの大きな岩に腰を下ろした。


「サク、は光様のペットなんだってね…光様と仲いい?光様のこと好き?」


「え、仲いいのかな…悪くはないと思うけど。好きかって言われたら…」


どうなのだろうか。


光は普段乱暴だが優しいところもある。


光の膝で日向ぼっこしながらお昼寝するのは好きだ。


「まぁまあだよ」

俺は曖昧な返事をする。


「そっか…」

少し安堵したような声色だ。


「サク、動物とのハーフはね結構短命なんだ。それに見た目もこれ以上老けない。」


「え、そうなの?短命って何歳まで生きられるの?」


「んーどうだろね25-30ぐらいかな 」


「短…!」


自分の体のことなど知らなかった。こういう情報はありがたい。


「まぁ人間が都合のいいように改良したからしかたないね」


「改良…」


「そう、動物とのハーフは貴重なんだよ。頭もいいしなによりかわいいからね。メスは法律で作っちゃいけないことになってるけど…」


「そう…なんだ」


「サク 君は本当に運がいいよ。犬とのハーフでこんないい城のペットになれるなんて。だから… だから僕は君に長生きしてほしい」


「え、ああ うん がんばります!」


「ちがうそうじゃなくて、だから城から逃げて」


「んん??」


俺はわけがわからなくて目を丸くしてケンの方をみる。


ケンは俺の目をじっと見つめる。


そして俺の手を引いて中庭の奥へ奥へ進む。


中庭の奥へ行くほど草が伸び放題でとてもあるきにくかった。


中庭の中心部には古い池がある。


水は干上がって一滴も残っていない。


岩で囲まれた池の一つの岩をケンが押すとガラガラと音がして池の中心に階段が見えてきた。


「すご!隠し階段!かっこいい」


「そうだよ ここを通り抜ければ誰にも見つからずに地上に戻れる。だから今にでも逃げたほうがいい」


そう言ってケンは俺の背中を押す。


「ちょっとまってって…!なんで逃げたほうがいいのか教えろ さっき俺はこんなお城に来れて運がいいって言ってただろ」


「…はぁ 確かに運がいいよ君は 普通の犬とのハーフはたいてい風俗に売り飛ばされるからね…でもこの城はだめだよ」


「どうして」


ケンはすこし悲しそうな目をしてこういった。


「あの犬もとても幸運だったよ」


「あの犬?」


「そう、光様が昔飼っていた犬だよ このぐらいのかわいい子犬だったんだ 人間とのハーフとかじゃないよ」


ケンが両手をすこし開いて犬の大きさを説明してくれる。


「光様はとても可愛がっていたよ」


「もうその犬はいないの…?」


ケンの顔を覗き込んで聞く。


「死んじゃったんだ いや殺されたんだよ」


「殺された…?!なんで!」


「シッ声が大きい。」


「あぁごめん」


急いで口を抑える。


「美羽様知ってるでしょ?光様の婚約者様。」


「ああ」


「彼女とても嫉妬深いんだ。それで光様があまりにもあの子犬を可愛がるものだから僕に殺せと命令した」


「そんな…」


「多分次は君がそうなると思う。だから光様に情がわかないうちに逃げてほしい」


「…」


「でもね、本当は子犬を殺してなんかないんだ。」


「え」


「本当はこの秘密の通路から地上に連れて行って飼ってくれる人を探して渡したんだ。旅商人の方だから今頃は遠く遠くへ行って世界中を回ってるんじゃないかな」


「そうだったのか… はぁよかったぁ」


「良かったじゃないよでもどうしよう。君の場合は新しい飼い主探すのも一苦労だし…」


「もしかして売り飛ばされたりする…?!」


「んー普通はそうなんだけれど…。そうだ!まず君はこのままじゃだめだ。もっと力をつけないと。この城をでても生きていけるように」


「どっかで働くのか?それか野生に帰るの?」


「どっちもNO。琴や武芸文字の読み書き商売の仕方を身に着けてまたどこか高貴な人に拾ってもらえばいい。君の容姿なら大丈夫。」


「でも…!文字は読めるだけで書くのは苦手だ…その他はなんもやったことがない…」


おれは少し落ち込んでいた。


胸が苦しい今後の人生を考えると大変だ。


さっきまでのほほんと過ごしていたのが嘘のようだ。


「なら僕が教えるよ 全部」


「ええ、そんなできるの?いいの?」


「一応この城で働いてるからね教養として身につけてるよ。下っ端でも試験に通らないと働けないんだ。」


「ありがどっ」


俺はケンに抱きついた。


「わっちょっと…!」


しゃがんでいたケンを押し倒すようなかたちで抱きつく

「鼻水 え、泣いてるの?」


「だってぇ なんか怖くて不安でさ」


ケンがいいやつじゃなきゃ今頃俺は殺されてた。


「あーごめんね怖がらせて よしよし」


そう言って頭をなでてくれる。


おひさまの匂いがした。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ