エピーソード4 お風呂
エピソード4 お風呂
翌日の早朝、俺は光の部屋を訪ねた。
昨日のことについてもう少し尋ねるためだ。
もしも光が俺のことをそういう目で見ているなら少し問題だ。
なぜなら俺は今まで男を好きになったことがないから。
でも光とのキスやスキンシップは嫌ではなかった。
それは多分、光が男でも見惚れるほどイケメンだからそしてキスがうまいからだ。
そうに決まってる…。
夜になった。
俺はいつも光の部屋の近くにある小さい風呂を使っている。
風呂と言ってもとても小さいスペースに作られているため湯船はない。
シャワーがある。
この城の内装や人々の服装は和風なのにこの時代にシャワーがあるのだろうか…?
やはり異世界なのかもしれない。
まぁ、いつもはその小さなシャワールームを使わせてもらっているのだが、今日は違った。
「サク、大浴場へ行くぞ」
光の部屋でくつろぎゴロゴロしていた俺に光が声をかける。
「大浴場…?そんなのあるんだ…」
着替えを持ってフードをかぶって先を歩く主についていく。
「ねーねでもさ光… 風呂だとフードかぶれないし耳と尻尾がまずいんじゃ‥」
「大丈夫だ。今はもう夜も更けているし貸し切りにしといた」
「貸し切り…」
そっか城の主はそんなこともできるのか。
大浴場楽しみだなぁ。
こんな立派なお城なのだからお風呂もさぞかし豪華なことだろう。
久しぶりにお風呂でゆーくりくつろぎたい。
温かいお湯につかってポカポカになる空想を描きながら入り組んだ廊下で迷子にならないように光について行く。
そして大浴場へついた。
そこは本当に 大 浴場だった。
普段は使用人が使うそうで、とても広くてきれいだった。
100人ぐらいなら入れるのではないかと思うほどだ。
脱衣場の壁や床の多くは木でできているが奥の入浴所には白いタイルが敷き詰められている。
予想外の美しさにとてもワクワクする。
無意識に尻尾がパタパタ揺れる。
「光!早く入ろ!」
服をバサバサ脱いで風呂へ向かう俺を光が引き止める。
「先行くな。お前はしゃぎすぎて転びそうだからな」
「うん、分かっ…」
そう言って振り返ると光の美しく鍛えられた体が目に飛び込んできた。
光は俺よりも身長が高くスラッとしているので、もっと細身かと思っていたが、脱ぐとわかるがとてもしっかりした体をしている。
「…」
俺は自分のヒョロヒョロした体と比べてとても恥ずかしくなった。
よし、今日から筋トレしよ!そうしようっ心のなかでこっそり決心をする。
「サク…」
「ん?」
「あまり凝視するな恥ずかしい」
光は口元に手の甲をあてて顔を赤らめている。
「へ? あ! ああごめん…っ」
どうやら美しい体に見惚れてしまっていたそうだ。
ぱっと顔を背けた。
それから髪と体をシャンプーでゴシゴシ洗って最後に桶の水を頭からかぶる。
ちなみに頭をふって髪の毛の水を弾き飛ばそうとした俺を見て光は犬みたいだと笑ってた。
さぁいよいよ入浴できる。
湯船はヒノキでできていて透き通ったお湯でたっぷり満たされている。
足の先をちゃぽんとつけておそるおそる入る。
温度はちょうどよくてとても気持ちがいい。
なにより足を思いっきり伸ばせるのが最高だ。
「気持ちいい〜」
俺は足も手もぐーっと伸ばしてくつろぐ。
「なら良かった」
そう言って光は俺の頭をぽんぽんなでる。
「光はいつもこのお風呂使ってるの?」
「いつもじゃないが時間があるときにはたいてい使ってる」
「へぇ いいなぁ」
こんな素敵なお風呂に時々でも入れるのが心底羨ましい…。
「サクはだめだ」
羨ましがる俺にすかさず光が注意する。
「はいはい分かってるよー。俺みたいな獣耳が入ってきたら皆パニックになるもんね」
俺は口をとがらせてそう言った
「いや、それよりどちらかというと俺以外のやつにあまり肌を見せたくない」
「肌って…あのなぁ! 光ぐらいだからね そんなこと言うの 普通は俺みたいなやつの体をなんて…」
「それは良かった お前の魅力は俺だけがわかっていればいいからな」
そう言ってふっと笑う。
恥ずかしいセリフにまた頬が染まった。
光は俺の首筋に手をやると肩から腕へと手を滑らせていく。
その手付きが優しくて俺はびくっと肩を揺らした。
そのまま手が背中にまわってぐっと光の方へ抱き寄せられた。
湯船の湯がゆれる。
俺はすっぽりと抱きかかえられた。
肌と肌が密着しているせいかすごいドキドキして顔が赤くなった。
いや、違うこれは多分のぼせたんだ。
そうに違いない。
「こぉ…?」
「サク…」
「…?」
「サク、脱衣場でも思っていたがこの体の傷はどうした…?」
「へ?」
光は俺の背中の青あざやら切り傷やらを痛々しそうな表情でさすっている。
体の傷…?あぁそういえばこの城に初めて来て鏡で見たときもそんなのたくさんあったな…。
俺は転生したので途中からしかこの体の記憶はない。
そのためこの傷がどこでいつできたのかはわからないが、おそらく…
「奴隷商にやられたか…?」
光の眉間にシワが寄っている。
「あ、いや、そうだね…多分…昔の記憶はあまりなくて…よくわからないけど」
よくわからないけど予想はできる。
社会的地位の低い動物とのハーフはぞんざいな扱いを受けてきたのだろう。
「そうか…辛かっただろう」
そういってぎゅっと抱きしめてくれた。
それがとても温かくて胸がキュッとした。
すると何故か涙が溢れてくる。
一度あふれると止まらなくなって鼻をすすった。
そのまま光の肩におでこをつけて泣いてしまう。
思えばここ最近大変なことばかりだった。
転生したのかよくわからないし自分もわからない中で環境も大きく変わった。
誰かにこうして抱きしめてもらって辛かったねと言ってもらいたかった。
抱きしめてもらった安心感に俺が泣いている間光は何も言わずに頭を撫でてくれた。
お風呂から出たあと俺たちは光の部屋へと向かった。
部屋につくと棚からドロッとした液体の入った瓶を光が取り出す。
俺は布団の横で上着を脱ぎ光に背中を見せて体育座りで座る。
光はその液体を指に取り、俺の背中や腕に塗る。
一瞬ピリッとして肩がゆれる。
「うっ…」
すると…
傷が一瞬で治った。
「え、すごい…でも光…!この薬高いんじゃ…こんな使っていいの?」
光は瓶の液体をすべて使い切りそうな勢いでペタペタ俺の体に塗りたくっていく。
「大丈夫 いいから後ろ向いてろ」
数分も立たないうちに体の古傷は全て消えた。
「ありがとう!」
「あぁ」
すると光は後ろから俺の腰に手を回してそのまま ボフッと布団に寝転んだ。
「もう夜遅いし疲れた 今日はここで寝ろ」
確かにもう遅い。そして散々泣いて俺も疲れた。
そのまま目を閉じ深い眠りについた。