エピソード2 犬扱い
エピソード2 犬扱い
翌朝目覚めると布団の中だった。
隣には勿論あの変態やろうが寝ていた。
スヤスヤと寝ているその爽やかな表情をキッと睨みつけ布団から飛び出た。
辺りを見回す。
ここは昨日の部屋ではないらしい。
昨日の部屋よりずっと小さい。
そして本棚がたくさんだ。
だがそのどれも見たことない文字だった。
しかしなぜかその意味がわかる。
政治学だとか商学…法学なんてものもある。
とにかく仕事で使うであろう資料や本がぎっしりだ。
この部屋にも大きめの窓が南にあって朝日が差し込んでいる。
朝日に反射して男の髪の毛がキラキラ光っている。
光が当たると茶色に見える髪の毛らしい。
まつげは長く目を閉じていても美しい。
しかし顔だけだ。
性格はとんでもない。
俺はどこからか逃げれないかとキョロキョロする 。
すると、
俺は気づいた。
自分が裸だということに
「なっなっななな!」
なんで!
その声で目覚めた男と目があった。
かぁっーーっと顔が熱くなる。
いつもなら別に男に裸なんて見られてもなんとも思わない。
ただこいつはだめだ。
とっさに布団をつかむとその場にうずくまった。
男は平然とした笑顔で
「よく眠れたか?」
そう言って近づいてくる。
俺は壁まで後ずさって男を睨み
「ふっ 服を返せ…!」
と言った。
「服?あぁあの雑巾か 汚いから捨てた。
今代わりのもの持ってこさせるから少し待ってろ」
そう言って頭をポンポンと叩いた。
男は言葉通り服を持ってきてくれたし朝食だって用意してくれた。
その間、変なことはなにもしなかった。
そこまで悪いやつではないのか…?
前言撤回。こいつはやはり変態だ…!
俺たちは昨日の大きな部屋で朝食を取ることになった。
朝食は白米にたまごやき 海苔 鮭 味噌汁 the朝食だ。
本当に美味しそうだ。
こいつがいなければ穏やかな朝食なのに…
男は俺の分の朝食を床においてほら食えと差し出してくる。
「犬じゃあるまいし箸がないと食べれない!」そう抗議するが
「ほぉそんな立派な耳生やしてよく言うな 犬だろ 早く食え料理が冷める」
そんなこと言ってやがる。
今日は随分と偉そうだ。
数十分間こんなやり取りを続けたが、全く折れない頑固なやつだった。
俺は昨日長いこと歩かされたからかすごく腹ペコだった。
だから仕方なく俺が折れてやることにした。朝食をくれたことには感謝してるから。
朝食はまだ温かい。
とても美味しいのだが、ただ食べにくい。とてつもなく。
こんな惨めな思いをさせるこいつを許さない絶対に隙を見て逃げてやる!
俺はそう固く決意する。
ご飯を食べ終わると男は皿を回収した。
そして俺の顎に手をやると頬についていた米粒を親指で拭ってそれを食べた。
子供扱いされたみたいで、恥ずかしくて顔が赤くなる
俺はフンッとそっぽをむいた。
それをみて男はとても楽しそうだ。
それがまた気に食わない。
男は俺のことを完全に犬扱いした。
ボールを投げて拾ってこいというのだ。
俺は嫌だと最初は反論していたものの夕食抜きと言われてはたまらない。
ここの食事は本当に美味しかったから。
俺はしぶしぶ男が放り投げたボールを取りに行った。
「おい、ちゃんと歩いて取りに行け」
「ちゃんと歩いてるけど?」
「そうじゃない四本脚で歩け」
イラッ
「ボールは口にくわえて来い」
本当にやりたい放題だ。
俺は仕方なく嫌々ながらも従った。
ボールを渡しに行くと男は俺の髪の毛をく
しゃくしゃと撫で回して
「よーしよーし」
と満足そうに頭を撫でた。
「わん は?」
「は…?」
「わん」
「…わ…ん」
「偉い偉い」
俺は本当に犬になってしまうかもしれない…。
そのやり取りを何度か繰り返していると、たまたま投げたボールが窓から出ていってしまった。
「え、ここ最上階…」
俺はバルコニーに急いで駆け寄り下を見る町が微かに見えるほどの高さだ。
ボールは遥か下だ。
どうすればいいのか男の方を見ると 変態野郎は顎で取りに行ってこいとジェスチャーした。
ええ…まじか…あの階段また降りて登るのかヤダな…いや?でもこれはチャンスなのでは?ボールを取りに行くふりをして逃げよう!
そんなことを考えながら街を俯瞰しているといつの間にか後ろまで男が来ていた。
そして俺をヒョイッと抱き上げた。
「へ?」
男はニコニコしている。
「いや…ま…まさかここから落とす気ですか…?」
こいつならやりかねないそう思い
涙目で恐る恐る聞くと
「ああ、そっちのが早いからな 上手に着地しろよ」
「いやいやいやいやムリムリムリぺっちゃんこ!!いくら犬でも無理!! 動物虐待反対!!」
男は意地悪そうな笑顔を浮かべている。
「や、やだって!」
俺はとっさに男の首に手を回してギュッと目を瞑った。
すると
唇に柔らかいものがあたった。
またキスされた
?!?!
「…ん…なっなに?す …むむっ」
突然のことで驚き手足をバタつかせようとするが下にはジオラマのような町が広がっている。
ヒヤッとした。
この男が本当にわからない。
なぜペット扱いしている相手に突然キスするのか この国ではペットとこんなキスをするのは当たり前なのだろうか?
それと初日もそうだったがこの人のキスは長い呼吸をするのに一苦労だ。
「んんっ…はぅ はぁはぁ」
ただこの状況で暴れでもしたら落下しかねない。
俺はできるだけ大人しくじっとしていた。
すると男は満足したのかようやく口を開放してくれた。
にやっと笑うと
「今日は抵抗しないのか」
と尋ねた
「はぁはぁ…っもう、諦めたし…慣れたのでっ」
俺がそう言うとやっと地面におろしてくれた。
「へぇ?」
男が少しつまらなさそうな顔でそう言った。
少し嬉しい。
部屋にまた戻ろうとした。
ところでまた口を塞がれた
いきなりのことでまだ呼吸を整える余裕がなく酸欠で苦しくなってくる。
「…はっ…んんんんんう」
目にはじんわり涙が滲んだ。
苦しい
俺は精一杯の力で男を押し返した。
「…ぷはっ はぁはぁはぁ」
そしてその場に座り込んだ。
ひどく呼吸を乱し自分をにらみつける俺を見て男はとても気分が良さそうだ。
本当にこの男がわからない。




