エピソード1 出会い
エピソード1 出会い
やがて道の先に点々と明かりが見えてきた。
そう、町のあかりだ。
俺たちは町中を歩いてゆく。
道行く人々は俺を見ては「やぁねぇ…あー汚
い汚い」などとひそひそ話していた。
町並みや人々の服装は、まるで歴史の教科書で見た江戸時代のものそのものだ。
なるほど、俺はどうやら未来の記憶を持ってるらしい。
そこでは人々は光る端末を使いこなしてを空飛ぶ機械があってとにかく便利な世界だった気がする…。
俺は転生したのかもしくは夢を見ているのかタイムスリップしたのか…それか頭がおかしくなったか…。
途切れ途切れになる記憶をかき集めてそんなことを考えた。
とりあえず俺がどこの誰か知ることが最優先だ。
「あの、すみません ちょっといいですか?」
「…」
「あの!」
「うるせぇなぁ いいから黙って歩け」
俺の前後を歩く彼らに話しかけるも無視されるか怒鳴られるかのどちらかだった。
仕方ないので言われたとおり黙って連行されることにした。
そうしてようやく目的地についたようだ。
ここは町で一番高い丘の上で、後ろを振り返ると町のイルミネーションが美しい。
そこには大きな木の門がそびえ立っている。
門の後ろには建物がある。
天までそびえるほどの大きな建物だ。
俺はこの建物を知っている。
城というのだ。
その城は夜なのにとても明るくてそして城の一部は宙に浮いていた。
ファンタジー世界にありそうな城だ。
門番に頭を下げ、男に連れられて俺は城に入っていく。
それから、ずっーと上まである階段をひたすら上らされた。
エレベーターとかないものか…。
首輪が擦れて痛い。
半分ぐらい上ったところで今度は、風呂場に連れて行かれた。
そこで湯船に突き落とされガシガシと洗われた。
痛い痛い…
風呂から出たあとタオルで体をふかれた。
脱衣室 目の前には大きな鏡がある。
それを見て俺は息を飲んだ。
そこに映っていたのは少年だった。
そして犬の耳が生えていた。
目はクリクリと大きく肌は陶器のように白くつやつやしていた。
ただ体には生傷が多くアザが多数見られた。
身長は160ぐらい。
年齢の程は16ぐらいだ。
なんで動物耳があるのかまったく不思議で仕方なかった。
それからまた凄い数の階段を上らされた。
おそらくここが最上階である。
そしてとても広い部屋に通された。
部屋に灯はついていない。
そして床には畳がびっしり敷き詰められていた。
南側には大きなバルコニーがあり町のイルミネーションを一望できそうだ。
そして東側つまりこの部屋の入り口から最も遠いところに誰かいた。
周りの人の態度や空気感からこの城の主であることは容易に想像できた。
首輪を引かれてその主のもとに連れていかれる。
そして這いつくばるような形で座らされた。
「光さま こちらが例の犬でございます」
やっぱり俺は犬なのか…
「ご苦労だった。さがれ」
低くよく通る声が暗い部屋に響く。
この人が主、 光さま らしい。
二人だけになった部屋の空気は重かった。
俺はいったいこれからなにされるんだろうか。
解剖?暴力?それとも…
「おい」
「ひぇっ」
「こっちに来い」
そういって手招きしている。
正直めっちゃ怖い。
暗くて顔はよく見えないしどこか分かんないし…
俺は身がすくんで動けなかった。
すると暗闇からぬっと手が伸びてきて手首をぐっと引っ張られた。
すごい力だ。
城主様の顔がすぐ近くにある。
それはとても美しく整った顔だった。
前髪は目にすこしかかっている黒髪。
その下には深い紅色で透き通った目がこちらをじっと見ている。
鼻は高くすっとしていて唇は薄い。
「……」
え、歴史の教科書の殿様ってこう髷とか作ってなかったけ?城も宙に浮いてたしやっぱり異世界なのかな。
なんてことをぼんやり考えながらしばらく彼に見とれていた。
そうしているうちに殿が手を俺の首筋に伸ばしてきた。
とっさに目を閉じた。
そしてガチャンと音をたてて首輪が落ちた。(へ?外してくれたのか…)
「ありが」
ありがとうと言おうとしたのにその口は塞がれた。いきなりのキスに物凄く動揺する。
「ん…っむっ…はっ…ちょっと!!」
手をバタバタさせたり顔を背けたり抵抗するが後頭部をがっしり捕まれ
また濃厚なキスをされる。
静かで暗く大きい部屋に水音がする。
…っ!なるほどそういうことか。
あまりにも美少年なこの少年を食うためにここまで連れてこさせたって訳か。
この…変態め!
俺は必死に藻掻くが力では敵わなさそうだ。
だから鋭い犬歯で男の唇に噛みついた。
がぶっ
「つっ…」
男はびっくりして手を離し唇を抑えた。
その薄い唇には血が滲んでいる。
その一瞬の隙をついて俺は後ろに下がり四つん這いになって尻尾を逆立ててうううっと唸った。
精一杯睨んでやったのに
男はふっと笑った。
ゾッとして本能的に逃げなきゃやばいと感じる。
だが遅かった。
また手首を捕まれ
今度は押し倒された。
手首もがっしり固定されて逃げられない。ぐうっっ…!
男は噛みつかれたのににこにこしている。
そして
「いい歯してるな…みせろ」
そう言って俺の両手を頭上でまとめ上げ押さえつけた。
そして反対の手で、さっきのキスで少し湿った唇を撫でてくる。
ぞわぞわ 鳥肌が立つ
「お前いい加減にしろよ!気持ち悪いだろ…!離れろよ変態!」
俺は必死に抵抗する。
しかし無駄だった。
力が強すぎる。
俺が声を出した瞬間歯の間に指を突っ込まれた。
「ほい はにふふんあ!」
指を噛んだりしてみたが効果はないらしい。
「歯…えろい」
「はぁ?!」
やばいやばいホントやばいやつだこれ。
そして今度は俺の耳をさわってきた。
「なっ…!」
意に反して体がビクッと反応してしまう。
「やめろ 触るな 気持ち悪い」
「ふさふさしてる 動物とのハーフは初めて見た」
ハーフ?成る程だから耳があるのか
どうやら俺は犬とのハーフらしい
そんなことより
「んんっ…やめっっ…くすぐった…い…!」
耳はすごく敏感なようだ。
「尻尾はどうなってる」
そう言ってズボンに手が伸びてくる
「ほんと やめろ…!!」
気持ち悪さやら恥ずかしさやらで頭がパニックになって涙が頬をつたった。
泣いてるのを見られたら俺はもう立ち直れない。
だから腕で目を隠したのにそれも簡単に剥がされてしまう。
男は目元にキスを落として謝った。
「泣かせるつもりはなかった。もう怖いことはしないから… ごめんな」
うぅっ…
DV男ってこんなやつのことではないのだろうかと思った。
謝るぐらいなら初めからやるなよ…!
泣いたあと俺は眠ってしまったらしい。
長旅で疲れたのだ。
ああもう目覚めたくはない。




