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狩猟

 出発してすぐにスキル遠見の実験を行う。 


 「遠見!」


 あれ?声じゃないのか…ちょっと恥ずかしいな。


 次は発動するという意識をもって、遠くの一点を見ていると、だんだんその一点が鮮明に見え始めた。


 「これが遠見。

 すごいな…望遠鏡はいらずだ」


 30秒くらい経った所で、見えていた場所がぼやけ始めて、1分くらい視界がぼやけていたが、それから普通の視力で見える範囲に戻った。


 クールタイムがあるみたいで、すぐにもう一度使うことはできなかった。

 それに、1分間視力が衰えるのは、今の俺には結構なデメリットだ。


 遠見の使い方は、だいたい分かった。細かい実験は、敵が周囲にいない岩山の上でしよう。


 次は風魔法だ。遠見みたいに意識の問題ならいけるだろう。


 手から風を生み出すイメージで、


  ・・・


 何も起きない。 今度はイメージと一緒に声を出して、


 「風よ! 」


 ・・・


 何も起きない。


 魔法は、遠見とは使い方が違うみたいだ。

 でも、ステータスに表示がある以上使えないなんてことはないはずだけど、風の文字は風魔法ってことじゃなかったら…


 前の持ち主は魔法をつかってなかったし、周囲に魔法を使っている者もいなかったから、記憶の中に魔法を使うためのヒントもない。


 ステータスの項目に、魔力があるから魔力を使えば魔法が使えるのだろうか?

 でも、どうやればその魔力を使えるのだろうか?


 イメージの問題なのか、意識の問題なのか、両方なのか、時間がかかりそうだ。 


 調子に乗ってこの場所で実験をやり続けるのは、いささか不用心だな。

 他に突進も実験したかったが、いつ敵に見つかるかわからないし移動だ。また今度にしよう。


 それからはいつものように森を歩き、獲物を探す。

 しばらく歩いていたが、蛇を3匹手に入れたが、兎には出会えていない。


 もしかすると、ここは前までいた森と深さが違うのかな?

 地下洞窟に落ちて洞窟内を結構歩いたから、地上の位置が落ちた時は違うだろう。

 もし、森の奥に着てしまっていたとすれば厄介だな…警戒を強めていこう。


 そろそろ時間的に帰ろうか、というときに鹿の魔物に出会った。

 全長2m、重さ200kgくらいありそうだ。仕留められれば、数日狩りに行かないでもよさそうだ。


 転生してからも、記憶の中にも、生の鹿は見たことはなかった。例によって凶悪そうな面をしているし、角は兎の比じゃないほど強力そうだ。

 

 前世でも鹿は、体が分厚くて、素手の人間が勝てる相手じゃなかった。

 そんな前世でも強い鹿が、異世界で更に分厚くなっている…ナイフと投石だけで仕留められるのか?

 

 「やるしかねぇ…あぁ~槍持ってくればよかったなぁ」


 俺が攻撃した後に鹿がどんな動きをするかは想像もつかない。

 俺に気づいて逃げる様なことはまずないと思うけど、まあ鹿の動きを考えても仕方ないから、自分の動きを考えないと。


 なので自分に出来そうな動きを考えてみた。


 1,投石で鹿の体力を削る。

 2,怒ってこっちに突っ込んでくるのを避ける。(その時にどうにかして別の木や岩にぶつけさせたい)

 3,どこかひるんだタイミングで、飛び掛かって首をナイフで掻っ切る。

 

 これが出来ると最高なんだ。

 仕留めれた後、この重い肉を持って帰らないといけないから、怪我はしたくない。

 まあベストを尽くして頑張ろう! 


 投石の的としては、兎よりも大きいから当てやすい。


 思いっ切り投げるっ! 

 パワーアップした体で投げる石は、体感で分かるほど強く、速くなっていた。


 ”ブゥン”

 

 投げた後、真っすぐな軌道で鹿の頭部に直撃!


 ”ギィイ!”

 

 痛かったのか奇声を上げている。

 そんなことは、お構いなしに連続で投げる。

 

 ”ブゥン”


 俺も調子が上がってきた。

 ダメージを与え続けて、鹿が何も考えられない状態にしていく。

 

 ”ブゥン” ”ギィ”

 ”ブゥン” ”ギィ”

 ”ブゥン” ”ギィ”


 いい感じに鹿にダメージを与えられたと思うけど、ここにきて石のストックが尽きた。

 致命傷になるような傷は負わせられなかったが、頭部から首にかけて当て続けたので、いくらタフな鹿でも弱ってはいるはずだ。


 ”ギィィィィイイイイァァァアィイイイイ!”

 「おいおい、冗談きついよ!」


 さっきよりも元気になっているような気がするほどの怒声を上げて、俺に怒って向かってくる。

 

 ”ダッダッダッダッ”

 

 首を回し、ギラギラした目で角を突き刺す体勢のまま俺にめがけて突進してくる。その迫力は兎とは全く比較にならないほどだ。

 俺も根性を入れて、岩の前に立ちギリギリまで引き付ける。


 ”ウィィイイィィィイィ!”

 「ここだっ!」


 横っ飛びで鹿の突進を躱す。

 ”ドオォン!!” ”バキ…バキィ!”


 鹿とぶつかった岩が粉々になっている。かなり大きい岩だったんだけど…

 何とか躱すことができたが、当たっていれば死んでいた。


 「岩が…やばすぎる、

 やるなら今だっ!うらぁああ」


 思いっ切り壁に当たった衝撃だと思うが、鹿は動けなくなっている。

 そんな状態の鹿に飛び掛かって腰にへばりつき、ナイフで切りつけるが、肉が分厚すぎて深い傷をつけられない。

 出血がない。これではダメなので、首にナイフを突き立てて、太い血管を狙って何度も刺し続ける。どこに太い血管があるかなんて分からないから、まるでギャンブルだ。


 ”ジャッシ”

 ”ザシュッ”

 ”ジャッシ”

 ”ザシュ”

 ”ザシュ”

 ”グシュッ” ”シャァァァァァァァァ”


 動き出して抵抗してくる前に、首の血管にナイフを刺せたようで、血がシャワーのように噴出した。

 

 流石にこの出血量ではもう待たないだろうと思ったが、やはり魔物だ。

 力強くはないし、もう戦うこともできないが、まだ鋭い眼光を持ちながら立っている。


 止めを刺すことも考えたが、火事場の馬鹿力で最後の抵抗をされても面倒なので、離れて倒れるのを待つ。


 結局にらめっこ状態が続き、15分くらい血を吹きながら立っていたが、さすがに血が無くなった様で、吹き出る血の量が減ってきて遂に倒れた。


 「ふぅ、緊張した~」


 初めての大物と言っていい獲物だった。

 突進の威力も凄かったし、最後の最後まで迫力があった。

 

 終わったというのに、凄い興奮の熱がいまだに体を包んでいる。

 だけど、こんな所でじっとしていられない。火が完全に暮れる前に早く持って帰らないと。


 俺の体より大きい鹿を背負って持って帰るのは不可能だ。

 仕方ないので、皮に傷がつくけど引きずって持っていく。面積の大きい毛皮にできそうだったから、何かに使いたかったんだけど…

 

 しかし、この重さの死体を運ぶキツさを全く想定していなかった。 

 これからは大きい獲物を仕留めたときの運搬手段のことも考えないといけないな。


 なんとか岩場までは持ってこれたが、流石に岩山の上に運ぶのは無理だ。

 日が暮れているので、早く地下洞窟に隠れたいけど、食べる方が優先だな。


 「あ、狐のこと忘れてた。

 こんな大物だし…一緒に食べたい。

 解体して肉だけ持っていくという手もあるけど…こんなに大量だからなぁ」

 

 この場に肉を置いていくのはもったいないから、適量もって帰るっていうのは論外だ。

 面倒だけど、狐を連れてこないといけないな。


 取られるのは本気で嫌なので、見つからないように隠して出発する。


 手の傷はほぼ治っているので、行のときみたいに時間はかからない。なんにしても大急ぎだ。


 地下洞窟に着いたが、今日は濃い一日だったから、ちょっと久しぶりに感じる。

 そんなことより急いで出発したいのだが、お探しの狐が見当たらない。

 

 「おーい、どこ行った」


 俺の声が洞窟内でこだましている。


 ”クゥ!!”


 鳴き声が聞こえてそっちを向くと、猛スピードで走ってきた。

 やっぱり元気になったから、凶暴になったのか!と思い身構えたが、敵意がなさそうで、嬉しそうな顔をしている。

 どうやら戦うという訳ではないようだった。

 

 「クゥクゥゥ」

 

 スピードそのまま俺の足に抱き着いて離れなくなってしまった。


 ”クゥ”


 かわいい。癒しだ。

 足に顔をすりすりして…もうこれは完全に懐いたと考えていいよな。


 これまでの俺はちょっと疑い深すぎたかな…でも仕方ないよな、こんな世界に一人なわけだし。誰も守ってくれない以上自分が気張るしかない。

 

 ”クゥ”

 「なんだ寂しかったのか?

 でもちょっと離れてくれな、お前も腹減っただろ?」

 ”クゥ”


 賢い。

 まるで俺の言葉を理解しているかのように足から離れて、チョンと座っている。


 背に捕まらせ、また壁を登り、岩山を降りる。

 出来るだけ見つかりにくそうな場所に置いて出発したが、誰にもとられていなくてよかった。

 

 初めての刃物を使った解体だから、完全に試行錯誤だ。

 毛皮もできれば綺麗にはぎとりたいけど、一番重要なのは肉だ、肉。肉を無駄にはできない。


 腹が減っているので、新鮮な内に内臓を狐と食べる。内臓だけは今日中に食べきるつもりだ。

 

 腹を内臓が入ってそうな場所まで切り裂く。その時何か膜を切ってしまってそこから”ドバァ”と臓器があふれてきた。

 慌ててすくい上げて食べる。


 「うんまぁ!」

 ”クゥ!クゥ!”

 「わかってるよ、ちゃんとあげるって」

 ”クゥゥ”

 「うまいよな」


 狐を連れてきたは良いが、昨日まで大きい物は食べれないようだったのに、肉食べられるかな?と連れてきた後になって思っていたが、杞憂だったようだ。

 かわいい顔だが、やっぱり魔物だな。

 豪華な肉の香りに刺激されたようで、昨日までの小食な姿とは打って変わって、バクバク一心不乱に食べている。


 そんな姿を見ては、俺も負けていられないと、引きずり出した内臓を食べまくる。


 真っ暗のなか無言の二人の鼻息だけが森に響いていた。


 ”ウゥプ”

 「至福だぁ」


 幸せ満腹状態で動けないし、動きたくない。

 狐を撫でまわしたり、ナイフについた汚れを綺麗にしたりして、まったりダラダラと過ごした。


 だが、いつまでも外でこうしてられない。


 拠点に戻るために肉の用意をしないといけないので、骨と肉を分ける作業を始めた。


 血は戦闘の時と帰りに抜けている。

 先ず皮を剥いで、終わったら骨と骨にかけて肉を部位ごとに分けていく。

 

 うまくいかなかった肉の破片を食べたり、狐に食べさせたりしながら、初めての解体はかなりの長時間をかけて何とか終わった。

 次の機会があればもっとうまくできるだろう。

 

 骨や肉以外の部位は、明日片付けるということで隅に置いていく。

 肉を袋に詰め込み、パンパンになった袋を背負って狐と拠点に帰った。

 

 

 

 


 

 




読んでいただいてありがとうございます。

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ちょっと増えるだけで凄い喜んでいます。

やる気も凄い増えます!

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