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第5話 探索開始です!

「それで、裏釘町までやってきたけどこれからどうやって探す? 手分けしてやった方が早いとは思うんだけど、なにせ有力な情報が無いからなぁ」


 織部親子が住む祭堂町から電車で四駅。裏釘町に降り立った織部雅人、和夫、そして黒稜院美冴は駅前商店街ショーウィンドウとその前を行く人混みを眺めていた。


「あ! そういえばもう一つ情報があります!」


 雅人のぼやきに美冴がポンと手を打ちながら言うと、織部親子から歓声が上がった。困難を極めるであろう捜査活動に、新たな情報は心強くありがたい。


 その新情報を出し惜しみするかのように一つ咳払いをした美冴。絵本の続きをせがむ子供のような顔二人を前に、ビシッと指を立てながら彼女が口を開く。


「お絹お婆ちゃんって、雪とか白とかって呼ばれる事もあるって言ってました」


「まるで連想ゲームだ」


 美冴の絹婆新情報に間髪入れずツッコむ雅人。


「そんなこと言ってもお絹お婆ちゃんは先生のお客さんで、私が直接親しくさせていただいていたわけではないんですよぉ。私だって、お婆ちゃんの額に三日月の傷跡があるとかピンクのモヒカン刈りとかモノスッゴイ特徴があったら教えてますよぉ。お婆ちゃん、どう見たって品の良いお婆ちゃんーって感じしかしなかったんですよぉ」


 膨れっ面で反論する美冴。


「とにかく絹か雪か白と呼ばれている小柄で猫背な白髪の品の良いお婆ちゃんを探し出せばいいわけだね。そういえば苗字はわからないのかい?」


 和夫が美冴に問うと、膨れっ面の少女はふるふると首を横に振る。


「先生はいつもお絹さんと呼んでおられましたし、先生の顧客名簿にも絹としか書いていませんでしたし……」


「顧客名簿って、そんなもんがあんの?」


「先生は売れっ子の大魔女ですから、お薬の注文もいっぱいなんです。誰が何を頼んでいるのか記帳しておかなくちゃわからなくなっちゃうんです。何を隠そう記帳は私がやっているんですよ」


 膨れっ面を中断し、今度は胸を張って自慢する美冴。


(そういう事務処理ばっかりしているから、箒で飛ぶ練習も満足にできないんじゃないのか?)


 雅人は思わずそう口にしそうになってやめる。


 彼女の顔を見る限り充実した生活を送っているのだ。難癖をつけることもないだろう。


「さて、とりあえず手分けして探そうか。それらしい人を見つけたら美冴君に写メ送って確認してもらえばいいんじゃないかな?」


 和夫が自分の携帯電話を見せながら二人に提案する。それに対する二人の反応は対照的だった。


「父さんにしては考えてるじゃないか」


 ちょっと失礼ながら感心してみせる雅人。対する美冴は……。


「すみません、携帯電話持ってないんです」


 申し訳無さそうに言う。


「まあ、魔女さんが携帯持つってのも違和感があるものなぁ。なんというか、通信手段は伝書鳩ならぬ伝書烏みたいな……」


「いえ、魔女だからって携帯を持たないわけじゃないんですよ」


 勝手に納得しかける和夫に、美冴がさらに申し訳無さそうに訂正する。


「私は、その……機械との相性が全然ダメな人なので、ボタンが三つ以上あるものは触ると壊しちゃうんです」


 なかなかに筋金入りの機械音痴である。


「そうか。なら二手に分かれるということでいいんじゃないかな。美冴君は、私か雅人君のどちらかに付いて行く、と」


「そうなると美冴ちゃんは僕とか」


「お父さんとしては美冴君と一緒にいられない事よりも、雅人君に即答された事の方が腑に落ちないなぁ」


 ちょっと不機嫌な顔で言う父親に、息子の雅人は父と美冴を見比べる。


「なんとなく、二人を一緒に行動させるのは非効率的な気がするんだ」


 織部邸内でのケーキ争奪戦を思い出しながら溜息一つ。


 この二人は精神的なレベルが近い。しかも低レベル。二人を組ませて作業に従事させるという事は、低レベルな争いに磨きをかけさせるような気がしてならない。


「ふーむ。良くわからないが、ここで考えているだけでは時間の無駄になってしまう。美冴君は雅人君と組むということで、お父さんが先に絹さんを見つけるか雅人&美冴コンビが先か、勝負といこうじゃないか」


 いや、勝負って……。


「望むところです!」


 和夫の差し出した拳に、自分の拳を打ちつけて言う美冴。そんな二人の横で雅人は頭を抱えていた。


 少なくとも、父とこの娘を組ませるべきではないという雅人の意見は間違っていないようだ。雅人はそう確信した。


「まあ、なんにしてもやる気があるのはいい事だよな。とりあえず、僕達はこっちの通りから調べてみるよ」


「それじゃあ、お父さんはこの通りからだ。って、あー! 絹さん発見!」


「え?」


 和夫の言葉に、思わず彼の指差す方へ視線を向ける雅人と美冴。


「フハハハハ! 油断大敵! 青いな、二人共! 絹さん探しの勝負はすでに始まっているのだー!」


 笑いながら自分の担当する通りへ逃げるように走り出す和夫。そんな彼の背中を雅人と美冴は呆然と眺めていた。


「しまった! 先手を打たれてしまいました!」


 彼のフェイクに引っかかった事にようやく気が付いたらしく、美冴は和夫の背中を見ながら悔しそうな声を上げる。


「雅人さん! こんなところでボケボケッとしている場合じゃないですよ。私達も急いで探しに行きましょう。絶妙なコンビネーションを見せ付けてやろうじゃないですか!」


「誰に? 誰が? 誰と?」


 引っ張られるように歩く雅人。彼の問いは美冴に聞こえていない。


 なぜだろう。雅人は父と別れてなお、父と歩いている気がした。



ケーキ同盟、探索始まりました。……しかし、この面子でうまくいくとは思えません。心配です。

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