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7.魔法使いは、避ける

「あれ、何で海が水野さんの事を知ってるの?」

「ああ、うみつながり」

「ザックリ過ぎてわかんないよ! というか水野さん!」

「はい?」


いきなり呼ばれ、じっと見つめられて。


「私も名前で呼んでいい?!」

「ど、どうぞ」


なんだ、そんな事か。もっと深く聞かれるのかと思ったから、焦った。


「空ちゃん…なんか甘ったるいな。すっごい馴れ馴れしいって分かっているうえで、呼び捨てでいい?」

「え、はい」

「じゃ、改めてよろしく空」


なんの嫌悪感もない表情で。


「…よろしくお願いします」

「かったいよー。いや、わかるけどねー」

「おーい、待ってんだけど」


海が扉がによりかかりブツブツ呟いている。


「休み時間がなくなる、投げるぞ」

「わっ、乱暴だな! 海は、空にも雑でしょ? 文句をどんどん言っていいからね!」


平和な光景。この中に自分もいるなんて違和感だな。


「ありがとう」


私が、魔法使いと知ったら、どうなんだろう。海みたく、普通に接してくれるのかな?


……期待して、またガッカリしたくないな。

違う、もう傷を深くしたくない。




* * *



「空ちゃんー」

「はーい」


階段の下から五月さんか呼んでいるみたい。壁に掛けた時計を確認すれば、ランチの時間はとっくに過ぎている。今日はたまに来るパートの春日かすがさんが入っていた。急な用事でも発生したのかな。


「お店ですよね? 今、行きます」


使用していた工具を箱に入れ、ドアノブを掴もうとしたら、扉が開き手が空をきる。


「よっ、元気そうじゃん」


目の前にかいがいた。


見つめ合っていたのに気づいた私は、叔母に確認をとろうと彼の横をすり抜けようとしたら、引っ張られた。


「ゆっくりしていってと言われたけど」


手首を軽く掴まれていた手が私の視線により離れていく。


「叔母に何か言った?」

「海にこないから、様子を見に来たとだけ」


じっと観察して嘘をつかれていないと判断した私は、この状況を落ち着かせる為にも深く呼吸した。


「入っていい?」

「もう、いるじゃん」

「確かにー」


海がへらりと笑いながら私の部屋をぐるりと見ているのに気づき居心地が悪い。


「どうして、ここに住んでいるのを知ってるの?」


担任にでも聞いたのだろうか。でも、クラスも違うし学年も私は一年で海は二年だし。


「んー、カフェという洒落た店は田舎では数件しかないわけよ。もれなく家の親もここに来てるし。最近、同じくらいの店主の親戚の子が手伝ってるとか言ってたなと思い出した」


確かに自分は毛色が違う。


「そう。って、まだ作りかけだから触らないで」


海がテーブルに広げてある紐に手を触れていたので、思わず彼の袖をひっぱった。


「あ、まだヤスリかける前で…欠片とか危ないから」

「了解。拾うだけじゃなくて作ったりもすんだ」


彼は、あっさり手をひっこめ、触れはしないものの珍しそうに眺めている。


飾り気のない木のテーブルの奥には種類分けをしてある瓶が並んでいるし、出したままのクリアケースは、さっきまで使っていたルーターが丸見えだ。


「……うん」


以前から長い休みの時は、五月さんの家に遊びに来ていた。部屋が空いているからと、訪れる度に貸してくれた部屋は、すこしずつ、海の世界に変化していった。


まさか、長く住む事になるとは思わなかったけど。


「なぁ、これ頂戴?」


彼が指をさしたのは、作りかけのアクセサリー。小さな陶片、昔の陶器の欠片を拾ったものを編み込んでいる。


「まだ試作なんだけど」

「あっ、やっぱ、下に売ってるの空が作ったやつなの?」


うっ、これじゃあ自爆だ。悪意のない海の声に嘘もつけず正直に話す。


「……あまり上手くないけど」

「そうか? ざっとしか見てないけどコレといいセンスいいと思う」


小さくなりたい。恥ずかしすぎる。どうしてこういう流れに。


「あ、タダとは言わないから。ほらっ」


ケースをポンッと乗せられた。


「ナミマガシワと…ネジガイ?」

「集めてたやつだよね? あ、それは俺の好み。デザインが好きで拾った」


円形の透明なケースには色鮮やかな物とは対象に白い小さめの巻き貝が数個底にいた。その名の通り強いひねりがあってなんとも可愛い。


「私もそれ好き」

「お、空もそう思う? ちっこいけどいいよな」


何で二人で笑っているのかな。

でも、楽しい。


「よくわかんないけど、あんたがアレ、魔法使いなのは言わないし、だから来いよ。好きなんだろ? 海」


ふと、真面目な顔をして言われた。


「うん。海は、怖いけど好き」

「なんか、それ、分かる」


手が伸びてきて、反射的に身をすくめたら、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。


「空ちゃんー、ココアいれたわよ。お友達も飲むかしらー? あ、サンドイッチもあるわよー」

「ラッキー、腹減ってんだよね。ああ、でも甘いのはなぁ」


ハの字になる眉毛に笑った。


「甘いの嫌い?」

「嫌いじゃなくて苦手」

「おんなじじゃん」

「いいや、だいぶ違うね」



言い合いは、食べている間も続いた。






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