2.魔法使いは、魔法を見られた
逃げなきゃ。
「えっ!」
私は、ゴミを掴み自転車を置いた場所まで走った。背後で何か言っていたけど話す勇気なんてあるわけないよ。
「はぁ、はぁ、とにかく早く離れないと」
無我夢中でペダルを漕げば、小さな公園を見つけた。大きな木の下の影になっているベンチに腰を降ろしたけど、落ち着けるわけがない。
「どうしよう」
いつかは、周囲の人に知られてしまう。でも、こんなに早く人に見られるなんて。
「…気配を感じなかったなんて初めて」
とにかく落ちついて。
「そうよ。念の為にと普段かけない眼鏡に深くかぶった帽子だもの」
なにより。
「私は、会話をしていない」
多分、大丈夫。
「暫く海に行くのを諦めれば、あの遭遇した人も忘れるよね」
少し安心して家にいつものように帰宅した。
*〜*〜*
「先寝るわ……あら? 珍しく外しているのね」
部屋に戻る途中、叔母の五月さんに言われて気づいた。
「どうして」
腕輪がない。違う、正しくはブレスレットに付けていたチャームが。
「つっ」
いつ落とした?
落としても気づくように魔法はかけていたはず。
「海に、かしらね。でも明日にしなさい」
「そんな」
「月も出ていない夜ではあなたの力でも難しいわ。それに危ないわよ。あなたに何かあったら、夏木に申し訳ないわ」
そんな言い方されたら。
「…わかった」
私のせいで逝ってしまったお母さんの話をだされたら動けない。
大人は狡いよ。