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5-3 決戦に向けてⅠ

 フィリーが部屋に戻ると、ジャンは険しい顔で告げた。

「『この国の人にだけしか力を与えない』って部分は嘘だが、他は本当だ」

「何でそんなの分かるの?」

「神槍の機能だ。だからまあ、体調整える余裕はある。けど……」

「あまり悠長にはしていられないわね。あんな力を大勢が手に入れれば、国が混乱する」

 倒しに行くのをやめるという選択肢は、もとより無い。先ほどの悪魔の言葉を聞いた後でも、それは変わらない——いや、倒しに行かねばという思いが一層強まっていた。それが元邪神討伐隊の皆の性分だ。

「作戦会議をしておきたいところだな。アレアとレイスをここに呼べれば良いのだが」

 ヴァヘルがそう言うと、フィリーは

「ちょっと頼んでくるわ」

 と言って部屋を出た。

 ジャンとヴァヘルは顔を見合わせる。

「誰にだ?」

「分からん。ノーシュか?」

「ノーシュは寝てるんだろ? ……あ、スーロか」

「ああそうか」

 そう話している間に、フィリーが妖精を連れて戻ってきた。

 緑の光が瞬いて、不満げな声を発する。

「そりゃ僕もさっきの悪魔の声は聞いてたけどさぁ」

「なら分かってるでしょ。急ぐに越したことはないって」

「でも、僕は基本的に人間が嫌いなんだ。ご主人が例外なだけさ。だから、他の人の言うことなんて聞かないよ」

 スーロは頑なな態度を崩さない。ジャンは呆れたように溜息を吐いた。

「ったくノーシュのやつ、どうやってこんな人間嫌いの妖精を手懐けたんだ?」

「失敬な。僕は手懐けられてなんかない」

 ムッとしたように反論したスーロは、そのまま部屋の外に飛び去ってしまった。ノーシュの傍へ戻ったのだろう。

 フィリーは苦笑する。

「ノーシュが起きるのを待つしかないわね」

「大丈夫なのか、ノーシュは」

 心配する隊長に、フィリーは頷いた。

「大丈夫。多分、無理にでも起こせば起きると思うわ。でも、ゆっくり寝させてあげたい。その方が早く治るって治療屋も言ってたし」

「なら俺たちも寝ていよう。な、ジャン」

「……しょうがねーな。寝るか」





 3日後。

 ノーシュは、万全とは言えないまでも短時間ならそれなりに戦える程度に復調していた。寝ている間のことをフィリーから色々と聞いて、嘆息する。

「……スーロ」

『何だい、ご主人』

「オレの仲間の頼みも、なるだけ聞いてやってくれ。簡単なのだけで良いから」

『嫌だよ』

「どっちにしろ、レイスとアレアをここに連れて来てくれるんだろ? いちいちオレを通す必要があるのはちょっと……」

 面倒くさいし、今回のように時間を無駄にするのはどうかと思う。

『じゃあ、ご主人が話せない時限定で、僕の気が向く場合だけ、元邪神討伐隊の人の頼みも聞いてあげることにするよ』

 仕方なさそうにそう言って剣から出たスーロは、〈瞬間移動できる竜巻〉で武器屋へ行った。そしてすぐに、レイスとアレアだけでなくリュドまでをも連れて戻ってきた。

 皆でジャンと隊長がいる部屋に行く。中に入るや否や、フィリーとアレアとリュドが情報交換を始めた。話すべきことが多いためか早口で、淀みない。まさに立て板に水だ。ノーシュは半ば呆気に取られながら聞いていた。ジャンと隊長も同様だ。

 レイスはというと、やはり部屋の隅で縮こまっていた。だが話はしっかり聞いているようだ。

 そうして1時間は経った頃、情報交換が終わった。因みにその中でフィリーが男爵令嬢だということが全員にバレることとなり、彼女は渋面を浮かべていた。また、ようやく全員に隊長の名前がヴァヘルだということが伝わったが、程度の差はあれど皆にとって発音が難しく、結局「隊長」と呼び続けることになった。

「悪魔だけじゃなく、悪魔の力を得た人間とも戦うことになるかもね。熱心な信者なら、私たちを悪魔のもとへ行かせまいと立ち塞がりそう」

「あーしもそう思うよ。その場合の役割分担を今のうちに決めておこう」

 フィリーとアレアの言葉に、ジャンが

「その場で決めれば良くね? 人数にもよるだろうし」

 と反論する。

 ヴァヘルは難しい顔をした。

「そもそも、特殊な武器を持っている俺とジャン、それから神の加護と妖精の助力があるノーシュ……この3人くらいしか、〝悪魔の力を得た人間〟にすら対抗できないのではないか? レイスが倒した雷翼会のメンバーは、悪魔の力を得ていたといってもほんの僅かだったのだろう?」

 その確認に、レイスはこくこくと頷く。一方、ジャンは不満げだ。

「前に倒したじゃねーか。特殊な武器も無く、神の加護……はあったけど、ほぼ無いも同然で」

「あの時は、相手は一人だっただろう」

「だから人数次第って言ってるんだ。敵が多けりゃ全員で片付けようぜ」

「悪魔と戦う前に全員が消耗してどうする」

 言い合う2人をよそに、フィリーはリュドへ視線を向けた。

「お兄様。私に、遺物0521号を使う許可をください」

「0521……あの双剣か! だが、僕にそんな権限は……」

「どさくさに紛れて権限をぶんどってきてください」

「確かに機関は混乱していると言ったし、うまくやれば権限も手に入るが、時間がかかる。1週間やそこらじゃ済まないぞ」

「ふふっ、冗談です。私はあの双剣を使いたいだけなので」

「……そういうことか」

 ちらりと、アレアの持つ斧に目を向けて。リュドは笑みを浮かべた。

「ノーシュに複製してもらえということだな」

「はい。私はあれが保管されている場所を知りませんが、お兄様なら知っているでしょう?」

「ああ」

 会話を聞いていたノーシュは一言。

「スーロ、頼む」

「しょうがないなぁ」

 〈瞬間移動できる竜巻〉が出現。ノーシュとリュドを巻き取り消えた。



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