4-3 機関
「そんな訳で、この情報を最も活かせるのはノーシュだと判断したんだ。神の加護を持っているのはノーシュだけだとフィリーから聞いているからね。昨日までは、雷翼会を潰してくれって依頼するつもりだった」
「その依頼も受けますよ」
「助かる。第二部長には色々世話になったから、遺志を継ぎたいと思っていたんだ」
「リュドさんが今命を狙われてるのって、その第二部長が遺した情報のせいですか」
「ああ。第二部長が僕とフィリーに情報を遺していたことを、管理統括官に知られてしまった」
リュドは溜息を吐きながらそう言った。
そこへ、黙って話を聞いていたアレアが口を挟む。
「行くべき場所は決まったね」
「そうだな。……リュドさん、オレとアレアは今から機関の建物に行きます。一緒に来てください」
「拠点に乗り込むのか」
「はい。確認しておきたいんですが、遺跡管理統括官を殺すことになっても構いませんか?」
その質問に、リュドは目を見開いた。だが、すぐに覚悟を決めたように頷く。
「ああ、構わない」
「それは良かったです」
ノーシュは力強い笑みを浮かべた。
リュドが先頭に立ち、ノーシュ、アレアの順に歩く。
すんなりと機関の建物に入った3人は、遺跡管理統括官を捜していた。脅して地下への行き方を吐かせるつもりだ。
「管理統括官の仕事部屋はここだが……いないな」
リュドが、扉についた小さな窓を覗いてそう言った時。
「っ!」
ノーシュは横からリュドを突き飛ばした。途端に扉が爆発し、破片が腕に突き刺さる。
幸いリュドは無傷だ。
「……爆弾でも仕掛けられていたのか?」
顔をしかめて問うリュドに、ノーシュは首を振る。
「爆弾らしい臭いがしないので違うと思います」
「悪魔の力だよ」
少し離れた位置にいたアレアが、確信めいた声音で言った。彼女は辺りを警戒しながら言葉を続ける。
「爆発の直前、黒い雷が見えた。ノーシュもそれを見てリュドを守ったんだろう?」
「言われてみればそうかも。視界に入ったのが何か考える間も無かったから何が起きたかよく分からなかったけど」
「腕は大丈夫かい?」
「平気」
突き刺さった破片を抜きながら、ノーシュは苦笑した。血が滲む程度の浅い傷だ。もし爆弾だったら、この程度では済まなかったに違いない。
吹き飛んだ扉の向こうには、散らかった仕事部屋がある。先ほどの爆発で散らかった訳では無く、人の手で棚の資料を床にぶちまけたような有様だ。
「アレア、リュドさんを頼めるか?」
「任せな」
アレアの快諾を受け、ノーシュは一人で部屋に入る。
注意深く部屋を見渡すと、棚に違和感があった。そして、その棚の向こうに人の気配がある。
「そこか!」
斧を出して振り下ろす。棚で隠されていた扉が砕け、隠し部屋が露わになった。
中にいたのは、見知らぬ若い男と、レイスだった。2人は武器を手にして睨み合っている。男の持つ剣は黒雷を纏っていた。
男はノーシュを見るなり舌打ちする。
「ちっ、殺し屋のせいで威力が落ちたか」
「扉の爆発はあんたがやったのか?」
ノーシュが確認すると、男はレイスを睨んだまま頷く。
「貴様の相手をしている暇は無い。誰だか知らんが失せろ」
「オレが退散したところで意味無いと思うけど」
何故なら、もう勝負はついている。男は気付いていないが、既にレイスの鞭が彼を捉えている。
「悪魔の力を得ていても、雑魚は雑魚だな」
挑発的なノーシュの言葉に、男が思わず振り向いた。その瞬間、彼は絶命した。
レイスは一つ息を吐き、勢いよく頭を下げる。
「ノーシュさん、この間は、その、すみませんでした!」
「いやいや、お互い様だから。どっちかというとオレが、依頼受けるかどうかの判断ミスったせいだし」
「ところで、えっと、どうして機関に?」
「仕事で。そうだ、ちょっと待ってて」
ノーシュは踵を返し、部屋を出る。そしてリュドとアレアを隠し部屋へ招き入れた。そして、先ほどレイスに殺された男を指さして
「こいつが遺跡管理統括官ですか?」
と尋ねる。
リュドは首を横に振った。
「違う。だが、名簿に書かれていた貴族だ」
「名簿って、あの?」
「ああ」
そこでレイスに気付いたのか、リュドは納得したような顔をした。
「お前が、第二部長が依頼した殺し屋か」
「……」
レイスは不安そうにノーシュとアレアに視線を向けた。ノーシュは笑顔で頷く。
「大丈夫、味方だから」
「……」
「あ、そっか。この人数じゃ喋れないか」
その言葉に、レイスは意を決したように口を開いた。
「……あ、あの……何とか、喋れるように、なりました……」
か細い、耳を澄まさないと聞こえないような声だった。それをしっかり聞き届けたノーシュとアレアは、驚いたように顔を見合わせ、改めてレイスを見る。
レイスは俯いて、もごもごと口を動かした。
「最近……その……違うスタイルの仕事をしたおかげで、ちょっと……わたしの中で、何かが変わったというか……そんな感じです……」
「あー、何か分かる。そういうことあるよな」
理解を示すノーシュ。一方アレアはよく分からなかったが、
「良かったじゃないか」
と破顔して言った。
リュドは、レイスに尋ねたいことが沢山あったが、彼女の性格を察して遠慮した。質問を一つに絞り、離れた位置から声をかける。
「地下へ行く方法は知っているか?」
レイスは無言で首を横に振った。それから、大きく息を吸い、決然とした瞳でリュドを見据える。
「あのっ、わたし……遺跡管理統括官がどこに行ったか、知ってます」
「本当か!」
「は、はいっ。この、標的が言ってました。……誰もいないと思って、独り言で」
斃れた男を指さして、レイスは告げた。
「第三資料室、と」
「……? そんな部屋、無いぞ?」
「え⁉ でも、間違いなくそう言ってました」
「どういうことだ……資料室は第二までのはず……そもそもこいつは、機関員でもないのに何故ここに」
難しい顔で呟くリュドに、レイスは頑張って言葉を紡ぐ。
「えっと、この標的は、機関員と一緒に入ってました。あなたがノーシュさんとアレアさんを連れて入ったみたいに。わたしは、気配を消して、この標的の後をつけました。そうしたら、ここに来たんです。この標的は、部屋に誰もいないと分かると、舌打ちをして『奴は第三資料室か。帰ってくるまで待つしかないな』と言っていました」
「詳しく教えてくれて助かるよ。そうか……第三資料室は隠語の可能性が高いな……」
リュドはそう言って、ノーシュに目を向けた。
「来てくれ。いくつか心当たりがあるから、順番に探ってみる」




