4-2 リュドの得た情報
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崩落した遺跡から単身帰宅したリュドは、泣いて喜ぶ家族との時間もそこそこに王都へ発った。両親も弟も、相変わらずフィリーをいないものとして扱っていて、そんな中で無事を喜ばれることに嫌気が差したのだ。
早く崩落した遺跡についての報告をして、別の遺跡の調査に行こう。そう思いながら王都に入り、機関に着いた。
機関の建物から出てきた同僚が、リュドを見て息を呑む。
「っ、リュド⁉ ここに来たら駄目だ、逃げろ」
「何を言ってるんだ?」
訳が分からず尋ねたリュドに、同僚は声を落として告げる。
「お前の直属の上司が、仕事部屋で殺された」
「なっ……何故? 誰に⁉」
「そこまでは知らない。だが、機関内で噂になってる。あの遺跡に関わったから始末されたって。だから、お前も消されるかもしれない。今ならまだ、崩落に巻き込まれて死んだと思われてるから、今のうちに」
同僚がそこまで言った時、彼の後ろから壮年の男が出てきた。殺された〝直属の上司〟——遺跡探索第二部長の上司の上司である、遺跡管理統括官だ。
「ほう、生きていたか、リュド。良かった良かった。報告は私にしなさい」
そう言って建物に入っていく遺跡管理統括官に、リュドはついて行く。同僚の言葉は無視できないものだったが、もともと「遺跡探索第二部長が殺される可能性」は考えていた。
あの遺跡はずっと調査対象から外れていて、今もそうだ。そんな遺跡に、遺跡探索第二部長は「仕事というよりは個人的な頼みだ」とリュドとフィリーを調査に行かせた。
もちろん2人は理由を尋ねた。返って来た答えは、「お前たちが最も信用できる。もし自分に何かあったら、第五倉庫室に忍び込んで北から2番目の棚の奥を見ろ」というものだった。こっそり作ったという第五倉庫の合鍵も渡された。
だからどの道、機関の建物には入らなければならない。遺された何かを、直属の上司が殺された理由に繋がるであろう何かを、手に入れなければならない。だからリュドは、危険だと分かっていながら遺跡管理統括官の言葉に従った。
彼の仕事部屋に入り、促されるまま遺跡で見聞きしたことを話す。すぐに崩落したからろくな調査が出来なかったこと。何者かに大部屋へ連れて行かれ、そこは儀式に使われる祭壇になっていたこと。死者と生者を融合する儀式の生贄にされそうになったこと。
「他には?」
「これが全てだ」
「結構。ご苦労だった。次の仕事は追って指示するから、今日はもう帰って良いぞ」
「了解」
素直に従うフリをして、部屋を出たその足で第五倉庫室に向かう。誰かに見とがめられないように、慎重かつ堂々と。
こうして目的の場所に着いたリュドは、誰にも知られることなく中に入り、直属の上司が遺した品を入手した。
それは木箱だった。
リュドは帰宅してから自室に籠り、木箱を開けた。中には折りたたまれた紙が3枚入っており、内1枚は手紙だった。
「これは……」
読み進めるうちに、顔が自然と険しくなる。
内容はこうだ。
——あの遺跡が調査対象から外れていたのは、機関の上層部からの圧力によるものだった。機関の上層部に雷翼会の者がいて、調査されると困るのだろう。あの遺跡は悪魔と関りがあるはずだから。それで、個人的に調査を頼んだ。もし自分が殺されたのなら、遺跡管理統括官が怪しい。
「僕、変なこと言ってないよな……?」
あの遺跡について報告した相手が、まさに遺跡探索第二部長を殺したであろう人物だったということだ。彼にとって都合の悪いことを言ってしまっていたら、自分も殺されるかもしれない。
(いや、それならあの場で……そうしなかったということは、僕の発言におかしな点は無かった? それとも、様子見……)
リュドは不安を抱きながら、別の紙を開いて見る。
それは、名簿だった。家名を持たない庶民から高名な貴族まで、共通点など無いような人物名が並んでいる。数は15。
紙の最下部には、こう書かれていた。
——雷翼会の被害に遭った者から得た情報をもとに調べた、メンバーと支援者。殺し屋に依頼済み(被害者経由で依頼したもの有り)。
「これって……第二部長は雷翼会を消そうとしていたのか……?」
ここ1年足らずの間に、貴族の間で話題に上ることが多くなった秘密結社「雷翼会」。謎に包まれたその組織は、凶悪な犯罪組織とも崇高な使命を帯びた組織とも噂される。ひとつだけ確かなのは、悪魔信仰を謳っており、その儀式のために生贄目的の人攫いが起きるということだ。面白がる貴族が多かったが、問題視する貴族もそれなりにいた。
遺跡探索第二部長は平民だが、貴族の親友がいるらしく、貴族の持つ情報に精通していた。だから雷翼会を知っていることに違和感は無いし、雷翼会を問題視することにも頷ける。しかし殺し屋まで使うのは、過剰に思えた。
(取り立てて正義感が強い人とは思わなかったが……考えても仕方ないか)
それよりも、殺し屋だ。先ほどまで頭に無かったが、遺跡管理統括官が殺し屋に遺跡探索第二部長を殺させた可能性がある。
(僕も殺し屋に……なんて考えすぎか?)
残りの1枚を開くと、驚くべきことが書かれていた。
——雷翼会の拠点は機関の建物の地下にある。
「……⁉」
機関の建物に地下は無かったはずだ。どういうことかと読み進める。
——いつの間にか地下施設が作られていたらしい。入り口はいくつもあり、内一つが機関の建物内のどこかにあるはずだが突き止められていない。
——雷翼会には悪魔の力を得ている者がいる。常人では敵わない。
走り書きのようなメモだ。リュドは大きく溜息を吐き、天井を見上げる。
(何故、僕にこんなものを遺したんだ……)
荒々しい筆跡が、途中までは読み手に「雷翼会の拠点への入り方を突き止めてくれ、そして乗り込んで潰せ」と言っているようなのに、「敵わない」という締めくくりには「行けば死ぬぞ、関わるな」という思いを感じさせる。結局、読み手にどうしてほしいのか、よく分からない。
(いや、僕に遺したんじゃない。僕とフィリーに遺したんだ。常人では敵わなくとも、元邪神討伐隊なら……)
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