3-3 脳筋コンビ?
時は少し遡る。
ノーシュとフィリーはひたすら南に向かって歩いていた。小さな山のふもとを通り、もうすぐ村かと思ったところで、話し声と戦いの音が聞こえた。
「今のって、ジャンと隊長?」
「私もそう思ったわ」
自然と早足になる。山の東を南に抜けたところで、2人は見た。重傷を負いながらも戦い続ける、ジャンと隊長の姿を。
フィリーは、自分の足が震えるのを感じた。
「何、あれ……あんな傷で、動けるの……?」
「絶対頭おかしくなってる」
ノーシュはそう呟いてから、大きく息を吸い込む。そして大声で叫んだ。
「おーい! ジャン! 隊長! こっち向け! 戦うのやめろ!」
それは充分彼らに届く声量だった。しかし。
「駄目だ、聞こえてない」
「私も声かけてみる。ジャン! 隊長!」
フィリーの試みも虚しく、彼らは止まらない。ノーシュは溜息を吐いた。
「やっぱり、全然周りが見えてない。自分の状態すら分かってなさそう」
「状態……って、あれ本当どうなってるの? とっくに死んでてもおかしくなさそうなのに」
「ジャンは神槍の力で死ににくくなってるから。隊長もそんな感じなんじゃないか?」
「何それ……」
混乱した様子のフィリーを横目に、ノーシュは爆弾を生み出す。そして、投げた。
「えっ」
フィリーの驚いた声は爆発音にかき消される。
「あ、ちょっと弱かったか。もうちょっと強めに投げればいけそうだな」
「何してるの⁉」
「何って、あいつらの戦いを止めようとしてる。ってかフィリー、混乱しすぎじゃないか?」
「落ち着き払ってるあなたがおかしいのよ⁉」
「あーそっか。ああいう殺し合いは経験したことないのか」
「経験どころか見るのも初めてよ」
「オレは割とあるんだ。傭兵だから」
「……そういえばそうだったわね」
「ってこんな話してる場合じゃない。早く止めないとさすがにヤバそう」
爆弾を投擲。丁度良い位置で爆発し、ジャンと隊長の動きが止まる。
「よし」
「……ノーシュは医者を呼びに行って。いなければ、とにかく治療できる人を。あの2人は私が止めておくから」
冷静になったフィリーが指示を出した。ノーシュの方が体力に余裕があり足も速い。だから、こうするのが適切だ。
ノーシュは即応し、走り出す。村の中心部へ向かっていると、スーロが天界から戻って来た。
「スーロ! 丁度良かった」
『何だい、ご主人』
「魔法で怪我とか治せたりする?」
『うーん……僕は無理かな。壊したり爆発させたり消し飛ばしたりするのは得意だけど、それ以外はちょっと』
「この脳筋妖精」
『むっ』
「まあ、元からあんまり当てにしてなかったけど。ってか戻ってくるの遅かったな。意外と消耗してたのか?」
『いいや、ちょっと力の使い方を練習してたんだ。僕の思いや願いや望みを、上手く具現化するために』
「大雑把だもんな、お前の魔法」
『まさにそう言って稽古をつけてくれたんだよ、強くて親切な妖精がさ。まあ、どうやっても出来ないこともあるし、得意分野でも細かい調節は思ったより難しくて、未熟さを痛感させられたけど』
「珍しく殊勝だな」
喋っているうちに、村の中で比較的大きな家の前に来た。その家の扉を、ノーシュは思い切り叩く。
ベキィッ。
木製の扉が思っていたより薄く、叩いた拍子に破れてしまった。
「うわっ、ノックのつもりだったのに」
『どっちが脳筋なんだか』
「しょうがないだろ、焦ってたんだ!」
「何事です?」
扉を開けて出てきた女が、騒ぐノーシュを怪訝そうに見る。
ノーシュは取り繕うように笑みを浮かべた。
「ドア壊して申し訳ない」
「大丈夫ですよ、よく壊されるので。それで、何か御用?」
ならそんな薄いドアにするなよ、材質変えろよ、とノーシュは思ったが、もちろん口には出さずに用件だけ伝える。
「医者を探してるんだけど、いるか? いなければ、怪我を治療できる人」
「怪我の治療なら、あそこの緑色の屋根の家を訪ねると良いですよ」
「ありがとう!」
黒っぽい屋根の家が多いこの村の中で、鮮やかな緑の屋根はよく目立つ。その家に向かって走ったノーシュは、家の塀にぶつかって止まってから扉の前に回り、先ほどの反省を踏まえて軽く叩いた。
ろくに音が鳴らない。これではノックの意味が無い。呼び鈴も無いので、強い力で叩くしかない。
「また壊れたら嫌だなぁ」
『それよりご主人、ぶつかる前に止まれるようになりなよ』
「手前で速度落とすことになるだろ」
『そうすれば良いじゃないか』
「何か無理なんだよ、気分的に」
喋りながら扉を叩く。ドンドンと音を立てるそれは、破れるどころかびくともしない。
「良かった、このドア分厚い」
ノーシュがそう呟いた時、扉が開いた。
「何だ、また魚に齧られたか? ……って、誰だお前」
そう言いながら出てきたのは、30代半ばの男だった。
「村の者じゃないな? ノックの仕方からしていつもの奴かと思ったのに。違うなら出なけりゃ良かった」
扉にもたれかかって嘆息する彼は、どこか気だるげな雰囲気を醸し出している。さっさと帰ってくれとでも言いたげだ。
ノーシュは急いで用件を告げる。
「仲間が大怪我したから治療してほしいんだ」
「確かにぼくは治療屋だけど、よそ者はお断り」
「2人いるんだけど、内1人はこの村の人だ。多分」
「多分?」
「見てから考えてほしい。とにかく来てくれ」
そう言って、ノーシュは踵を返した。少し歩いて振り返ると、治療屋は扉にもたれたまま動いていない。
「早く」
「……仕方ないなぁ」
治療屋は大きな溜息を吐き、玄関に置いてあった鞄を持った。そして、渋々といった風にノーシュの後ろを歩き出した。




