1-4 路地
「……って訳で、おいらは神槍の使い手になったんだ」
そう言って、ジャンは背負っていた槍を手に持って回して見せた。
ノーシュは納得したような顔をする。
「村に帰ってるだけにしては遅いと思ってたんだ。魔力操作の訓練に時間かかってたのか」
「そうそう」
ジャンが王都に戻って来たのは1か月前だ。それから物件探しや開店の手続きをしていたので、武器屋を開いてからまだ1週間も経っていない。
「にしても神槍かぁ……生み出せたりするかな」
ノーシュの呟きに、ジャンはけらけらと笑う。
「さすがに無理だろ。神が作った武器だぞ」
「普通の槍との違いは何だ? 単に丈夫で鋭いだけなら生み出せると思うんだけど」
何しろノーシュの持つ〝武器を生み出す力〟は神の加護なのだ。親和性は高いはずである。
「いや、何か色々と機能がついてて……例えば、使い手が死ににくくなるとか」
「あー……そういうの付加した武器は生み出せないなぁ。ってか、死ににくくなるって中途半端だな。どうせなら、大怪我しても一瞬で治るとかの方が良いのに」
「おいらに言われてもな。これ作った神に言ってくれ」
ジャンは槍を背に戻し、軽く溜息を吐いた。
そんな彼を見て、ノーシュは苦笑する。
「結局、ジャンが悪魔って言葉に過剰反応してたのは〈悪魔狩り〉になったからだったんだな」
「……過剰反応だったか?」
「ああ。多分、気負いすぎ。責任感強いのは分かるけど、暴走するなよ」
「お前に言われたくねーよ」
「オレのは暴走じゃない。れっきとした任務だ」
「まあ、そうなんだろうな。レイスにしても……邪神討伐隊に選ばれたのは、そういう奴ばっかだ」
「だな」
どういった場面でそれを発揮するかは違えども、邪神討伐隊に選ばれた者は総じて強い責任感の持ち主だ。そのことを彼らが分かったのは、6人揃って王都に帰還する道中で喋っていた時のことだった。
「……あれ、客か?」
ジャンが遠く前方を見て言った。そこには自分たちの武器屋があり、その店舗正面に若い男がじっと立っているのだ。
ノーシュは目を凝らし、その人物を見る。
「……あ」
声を漏らすや否や駆け出す。そうして武器屋の前に来て、ノーシュは接客用の笑みを作った。
「どうも、こんにちは。あなたを狙っていた刺客は倒しましたよ」
「ああ、そのようだな。昨日の刺客が襲ってくる未来はもう見えないと、占い師が言っていた。だがどうやら、別の刺客が3日以内に襲ってくるらしいのだ。再度、護衛を依頼したい」
「すみません、お断りします」
「は? 何故だ⁉」
「明日から別の仕事が入ってしまっているので……他を当たってください」
その会話を聞いて、ジャンは察した。この男こそが、レイスの標的だった雷翼会の者だと。
だから、彼に話しかける。
「なあ。護衛なら、おいらの知り合いを紹介してやる。こっちだ」
男は戸惑うようにノーシュへ視線を向けた。
ノーシュは微笑んで頷く。
「ついて行くと良いと思います。あいつもオレと同じ、元邪神討伐隊なんですよ」
「おお、そうか。助かる」
あっさり納得した標的は、喜びすら見せながらついて来た。ジャンは神槍に魔力を流しながら、路地へと歩く。
しばらく歩いた所で、ジャンは男に話しかけた。
「なあ、あんた雷翼会のメンバーなんだって?」
「……雷翼会? 何だそれは」
「知ってるだろ? 悪魔の味方してる人間の集まりだよ」
「知らない」
(……嘘か)
神槍は、相手の言葉が嘘か誠か教えてくれる。使い手が悪魔に騙されないためにつけられた機能らしい。
ジャンは軽く笑ってみせた。
「そんな警戒するなよ。おいらも雷翼会に入りたいなって思ってるんだ」
「……そうなのか」
「そうそう。だから、雷翼会の一員であるあんたに口利きしてもらいたくてさ」
「そんな権限、持っていない」
嘘。
「拠点の場所くらい教えてくれるだろ?」
「知らないから無理だ」
嘘。
「そっか。……どうやったら雷翼会に入れるんだ?」
「本気で入りたいと望めば入れる」
これは本当。
(やっぱ警戒されてるな。邪神討伐隊だったってのがマズいのか?)
どうやら情報は引き出せなさそうだ。
男はやや逃げ腰になって、
「どこまで行くんだ? 本当に護衛を紹介してくれるのか?」
などと尋ねてくる。
ジャンは嘆息し、槍を抜いた。
「おいらが刺客だ。残念だったな」
「ちっ」
想定していたのか、一目散に逃げていく。だが、ジャンが神槍を振るえば、男の首と胴が切り離された。手応えすら無く、あっさりと。
(うわ、マジか)
切れ味の良い剣も真っ青なほどよく斬れるとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。神槍、おそるべし。
(これ普段は魔力流さず普通の槍として使った方が良いな)
路地に流れる血を踏まないよう気を付けながら歩く。どんどん男の死体から遠ざかり、武器屋からも遠ざかっている。
(えーっと、この路地、どうやって出るんだ?)
来た道を引き返せば帰れるのだが、死体のある場所には戻りたくない。……そもそも、来た道も分からない。
(やべー。迷った)
ジャンは決して、方向音痴ではない。ただ、都会の入り組んだ路地が苦手なだけである。
彼はそれを自覚していなかった。




