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1-1 月夜の交戦

 丸い月が王都を見下ろしている。

 その明かりに照らされた街の一角で、2人の強者が対峙していた。

 一人は緑髪の少女。立ち並ぶ民家の屋根の上から路地を見つめ、鞭を構えている。

 もう一人は少年。路地に立ち、少女を見上げている。風に揺れる金褐色の髪が、月の光で煌めいた。

 レイスとノーシュだ。邪神討伐隊の仲間だった2人は今、敵として再会している。

「もう一度だけ言います。引いてください、ノーシュさん」

「無理だ。オレは、受けた任務はきっちりやり遂げる。君こそ引いてくれ、レイス」

「引けません」

 レイスはきっぱりと告げ、ちらりと視線を路地の奥へ向けた。そこには走って逃げていく標的の姿がある。

 邪魔さえ入らなければ、とっくにその男を殺せていた。何の因果かその男はノーシュを護衛に雇っており、こうして足止めを食らっている。標的を追おうとすれば、即座にチャクラムが飛んでくるのだ。

「……ノーシュさん。わたしの仕事の邪魔をするなら、あなたを殺さなければいけません」

「そうか」

 あっさりとした返事だった。笑みすら浮かべるその様は、勝ち目のないナンパでもして案の定断られたかのようだ。当然だという諦念を感じさせる顔をしている。それでいて、全く油断も隙も無い。

 レイスは感情を消し去って、冷たい瞳でノーシュを見据えた。


 殺し屋と傭兵。互いに矜持がある。引けないし、譲れない。


 鞭が路地に向かって音も無く伸びた。ノーシュはそれを転がって避けざま短剣を生み出し投擲。何本もの短剣がレイスの腕へと飛んで行く。

 レイスは鞭を引き戻し、短剣を全て弾いた。その時にはノーシュが石畳を蹴って屋根に上り、距離を詰めようとしている。

 しゅるり、と鞭が屋根を這った。

「っ!」

 ノーシュは咄嗟に跳び上がり、宙返りしてレイスの後ろへ着地。大きく息を吐く。

 その隙に、レイスはノーシュと距離を取った。

「流石ですね。あのまま向かって来てくれていたら、鞭で絡め取れたのに」

「だと思った。さっきの、完全に殺しに来てたよな」

 苦笑しながら言ったノーシュ。その背に冷たい汗が流れる。

(ヤバいかも……)

 流石は殺し屋と言うべきか、レイスからは全く殺気を感じない。対応するには鞭の動きが頼りだが、どこまで見切れるか怪しい。

(……集中しろ。本気を出せ)

 どこかで迷いがあった。任務とはいえ、レイスを殺すことに躊躇いがあった。それを消さなければ、()される。

 ノーシュはゆっくりと剣に手をかけ、すらりと抜いた。

(——今だ)

 駆ける。踏み込む。鞭が伸びてくるのが一瞬遅れたその隙に。

 だが——剣がレイスに届くことはなかった。

 伸びた鞭もまた、ノーシュには届かなかった。

「何やってんだお前ら!」

 2人の間に割り込んだ青年が怒鳴る。彼の右腕には鞭が巻き付き、左手に握られた槍が剣を受け止めていた。

 ノーシュは呆けたような顔で彼の名を呼ぶ。

「ジャン」

「どういうつもりだ、ノーシュ! さっき完全に、レイスを殺そうとしてただろ!」

「それは……」

 言葉に詰まるノーシュ。その向かいで、レイスは淡々と告げる。

「邪魔しないでください、ジャンさん。仕事の途中です。邪魔をするならあなたも殺しますよ」

「はあ⁉ お前……本当にレイスか⁉」

 雰囲気がまるで違う彼女に、ジャンは戸惑った。

 レイスはこくりと頷く。

「分かったら退いてください」

「ざっけんな! お前がその気なら、おいらはノーシュにつくぜ!」

「……それは困ります。あなたたち2人を相手にしては勝てません」

「だろうな! だからもうやめろ!」

 ジャンはレイスに怒鳴りつけた。そこへ、ノーシュが口を挟む。

「ジャン、声大きすぎ。何時だと思ってるんだ?」

「知るか! 寝付けなくて散歩してたらお前らが戦ってるの見えて慌てて来たんだ、時間なんて確認してるわけねーだろ!」

「いやオレも正確には分からないけど、深夜だぞ。外で騒いでたら迷惑に決まってるだろ」

 そこでようやくジャンは自分の失態に気付いたようだった。バツの悪そうな顔をして、声量を思い切り落とす。

「とにかく一旦、話し合おうぜ。外が駄目なら、店で」

 その言葉に、レイスは目を瞬かせた。

「店?」

「オレとジャンの武器屋」

「おいらは店で寝泊まりしてるんだ。ノーシュは借家暮らしだけど、あそこ3人で話すには狭いから、店の方が良いだろ。レイスの家行く訳にはいかねーもんな」

 ジャンはそう言って、ストっと屋根から飛び降りた。ノーシュもそれに続く。

 レイスは少し迷ったが、2人について行くことにした。




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