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1-3 遺跡最奥

「クラゲのようだな」

 分霊を見るや否や、隊長は呟いた。それに対し、ノーシュが首を傾げる。

「クラゲって何だ?」

「海にいる、ああいう奴だ」

 隊長は分霊を指さして答えた。その言葉にジャンが反応する。

「海かー。行ったこと無いや」

「俺の村は海に面していて、毎年クラゲが打ち上げられる。……色は、分霊と少し違うが」

「どんな色?」

「もっと白っぽいというか、透明というか……あんなに紫がかってはいない」

 全く緊張感の無い男3人を、フィリーが睨む。

「ああいう色のクラゲもいるのよ? それより、触手がおかしいでしょ! 刃が付いてるのよ、刃が! クラゲにはそんなの付いてないわ!」

「あ、分霊の色が変わったよ。これは……何色って言えば良いんだろうね」

 アレアは目を丸くして言った。それから、首を傾げる。

「ところで、大きさは……クラゲはあんなに大きいのかい?」

 フィリーは首を振った。

「まさか。分霊はクラゲよりずっと大きいし、触手もやけに太いわ。……分霊を見ていて分かったんだけど、てっぺんは武器が通らないようね」

「見て分かった?」

「どういうことだ?」

 ジャンとノーシュが聞き返した。フィリーは少し考え、答える。

「占いの力よ。といっても、占い師と言えるほど強い力じゃないけれど……武器が通る場所が分かるの。ただ、武器が通る場所が少なければ少ないほど分かるまでに時間がかかるから、攻撃してみた方が早いわね」

「この分霊はてっぺん以外なら武器が通るからすぐに分かった、と」

 アレアの確認に、フィリーは頷いた。

 いつの間にか、隊長は大剣を構えている。

「とりあえず、様子を見てみよう」

 一気に分霊へ迫った。触手が一斉に隊長を襲う。大剣に当たった触手の刃がカンッと音を立てた。フィリーは横から勢いよく駆け、双剣を奔らせる。

 何本もの触手が斬り落とされた。

 レイスが鞭を振るい、残り全ての触手を絡め取る。鞭がしなった。触手が持ち上がり、レイスの体がふわりと浮く。

 その時、大剣が触手の根元を斬り上げた。

 分霊の背後からは、斧と槍と剣が迫る。

 残っていた触手が、全てを弾き飛ばそうと伸びた。

 たった5本。アレアは斧を振るって落とし、ジャンは槍を当てて裂く。ノーシュは剣で斬ろうとした。

「……っ」

 うねる触手を捉えきれず、弾き飛ばされ壁にぶつかる。背に受けた衝撃で息が詰まった。

 触手はノーシュを仕留めるべく動くが、割って入ったジャンに貫かれて消えた。

「おいっ、何やってる!」

「う……やっぱ剣だけだとやりにくい……」

「訳分かんねーこと言ってないで、さっさと立て!」

「ごめん」

 人間相手なら戦い慣れているが、分霊相手は勝手が違う。他の5人が対処できているのは、その技量はもちろんのこと、使い慣れた武器を使っているからだ。

 ノーシュにとって、剣「だけ」で戦うことは、それなりに不慣れであった。少なくとも、強敵相手には絶対にしない程度には。

 ノーシュは立ちながら、チャクラムを構えようかと思った。だが、空間の狭さから考えて皆を巻き込む恐れがある。やはり、剣でどうにかするしかない。

 分霊からは新たな触手が伸びている。再び皆で触手の対処をした。さっさと仕留めないのは、分霊がどんな動きをするのか、弱いうちに確かめておくためだ。

 しばらくそうしていた6人。連携の精度が上がっていき、分霊の動きも掴めた。

「そろそろ終わるか」

 隊長が言い、皆は頷く。6人それぞれに向かってくる触手。ノーシュ以外の5人は、触手を落とすなり動きを止めるなりしていたが、ノーシュは違った。ただ避けて、前に走る。

 触手は誰かが何とかしてくれる。そんな確信が、ノーシュに大胆な動きをさせた。

 追ってくる触手を無視し、分霊の下に潜り込む。そして、剣を突き上げた。

 同時にジャンも横から槍を刺していた。

 触手の刃がノーシュに届こうとした時、アレアと隊長が触手を切り飛ばす。

「ったく、危ないね」

 アレアが呆れたように言いながら、分霊の横を斧で殴った。

 それがとどめとなって、分霊は消滅した。

 同時に、扉が現れる。分霊の力で隠されていたらしい。

「あの向こうが最奥なのね」

 フィリーが扉を見つめて呟いた。

 アレアと隊長が扉を押すと、ギギ、と音を立てて開いていく。中は小さな部屋で、中心に下へ続く階段があった。下の様子は見えない。随分長い階段のようだ。

 ノーシュは走った。何となく、早く下へ行ってみたかったからだ。

 階段を駆け下りると、そこは円形の部屋だった。中央には石板がある。

 石板は、人1人が立った状態で隠れられそうな大きさで、くすんだ緑色をしていた。

 勢いよく部屋に入ったノーシュは、止まり切れずに石板にぶつかった。その様子を、追いかけてきたレイスだけが見ていた。

 直後、ノーシュの身に力が付与される。

「うおっ」

 ノーシュは驚きの声を上げた。

 石板に、文字が浮かび上がる。「1名に付与済:武器を自在に生み出す力」と。

 慌てて石板から体を離したが、時すでに遅し。

 この遺跡に来るまでの会話で、石板には皆で同時に手を触れて全員で加護を得るという予定になっていた。それを、ノーシュは1人で触れてしまったのだ。


「へー、ここが最奥か!」


 そう言いながら歩いてきたジャン含む邪神討伐隊の面々は、石板の文字とそばに佇むノーシュを見て、怪訝そうな顔をした。

「……まさか」

 フィリーが呟きながら石板に触れる。

 何も起こらない。力は得られず、文字も変わらない。

「いきなり走って行くからおかしいと思ったのよ。力を独り占めするためだったのね⁉」

「え⁉」

 フィリーの言葉に驚いたノーシュ。そんなつもりは無いと弁明しようとした時、胸倉を掴まれた。

「そんな奴だったとはな! 見損なったぞ、この抜け駆け野郎め!」

「ちょっ、誤解だ、ジャン! オレはただ……」

 ノーシュは慌てるが、

「誤解と言うのは無理があるんじゃないかい?」

 というアレアの冷静な声に遮られた。その横でフィリーが、ノーシュを睨みつけて口を開く。

「そうよ。明らかに抜け駆けして独り占めしてるじゃない! それをまだ言い訳しようと……最低ね!」

「……っ」

 何も言えないノーシュを見て、アレアが嘆息する。

「謝りすらしないんだね。こんな自分勝手な抜け駆け野郎、これから先信用できるはずも無い。そう思わないかい、隊長」

「……そうだな」

 隊長は頷き、告げる。

「今後も力を独占されるかもしれないと思うと、隊に置いておけない。よって、ノーシュを邪神討伐隊から追放しようと思う」

「賛成!」

 即座に言ったのは、ジャンとフィリーだ。アレアは

「力だけじゃないさ。食糧や旅費までも、奪い取られかねない」

 と厳しい声音で呟く。

 ただ1人、レイスは賛成も反対もしなかった。階段の隅で震えるばかりだ。

「……ああ、そうか。そう言うんなら、出てってやる。オレの言い分も聞かずに勝手に決めるような隊、こっちから願い下げだ!」

 ノーシュは言い捨て、階段をずかずかと上がった。侮蔑と怒りの混じった視線を後ろに感じながら。




「くっそ!」

 階段を上っていくノーシュを見送ってから、ジャンは床を蹴った。

 裏切られた気分だった。

 仲間だと思っていたのに。

「……全部、演技だったのね」

 フィリーはぽつりと呟く。

 この遺跡に来るまでの間、普通に仲良く話していた。少なくとも悪人ではないと思っていた。

 そう思わせたノーシュの態度は、皆の信用を勝ち取り神の加護を独占するための、演技。今となっては、そうとしか思えなかった。

「もっと警戒しておくべきだったかね……」

 アレアは嘆息とともに言った。

 疑わしい要素はあったものの、むやみに仲間を疑うのは良くないかと思い、なるべく考えないようにしていたのだ。その結果が、このザマだ。

 神の加護を独占し、あまつさえ言い訳して見逃してもらおうとしていた。すぐに謝ったなら、言い分くらいは聞いてやったものを。

「……6つの加護を得られるはずが、5つしか得られなくなった」

 隊長は淡々と事実を告げた。

 まだ頭の整理がついていなかった。皆の態度から、ノーシュを隊に置いておけないと悟り、追放を言い渡したものの……本当にそれで良かったのか、あまり自信が無い。

 神の加護を、持ち逃げされたようなものなのだから。

「あれ、レイスは?」

 フィリーが辺りを見回して言った。階段で縮こまっていたはずのレイスの姿が見えない。

 4人で階段を上がると、そこにレイスがいた。茫然としている。

「どうしたの?」

 尋ねたフィリーに、レイスはびくりと反応し、口を開きかけた。

 だが、その後ろに他3人を見て、何も言えなくなってしまう。何でもないと示すように首を振ることしか出来なかった。





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