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5-5 冥府

 数日後。

 邪神討伐隊の5人は、冥府の巫女エフェルレメリアのもとへ着いた。ノーシュの躯は「冷却」を使った状態でバッグパックに分担して入れて来た。


 訪れた5人を、エフェルレメリアは驚きつつも迎え入れた。「生き返らせたい人の死体を持ってきた」と聞き、更に驚く。

「……代償は、高いですよ。具体的には神に聞いてみないと分かりませんが」

「なら、まずは聞いてくれ」

 隊長が言った。エフェルレメリアは頷き、目を閉じる。冥府を司る神と交信し、尋ねているのだ。

 少しして目を開けたエフェルレメリアは、言いにくそうに口を開いた。

「代償を5人で分担するなら、神の加護全てと寿命の5分の1だそうです」

「そんなところだろうと思ったわ」

 フィリーはこともなげに言った。その横でアレアとジャンが、

「結局邪神と戦わなかったのに神の加護を持ってちゃ、バチが当たりそうで嫌だったんでね。代償として消えてくれるなら本望さ」

「ノーシュが邪神を倒してくれてなきゃ、おいら達全員死んでたかもしれねーんだ。それを思えば、寿命の5分の1なんて安いもんだよな」

 考えを確認し合うように言った。レイスはこくこくと頷いている。

 4人の意思を確認し、隊長はエフェルレメリアに告げた。

「俺たち5人で代償を払う。ノーシュを生き返らせてくれ」

「……かしこまりました。準備をしてきますので、お待ちください」

 そう言って、エフェルレメリアはその場から立ち去った。

 残された5人は、誰ともなしに荷物を降ろして椅子に座る。

「そういえば、前にここに来た時さ」

 ふと思いついたかのように、ジャンが話を始めた。

「生き返らせることが出来るって聞いて皆反応してたよな。誰を生き返らせたかったんだ?」

「ちょっとジャン、それを聞く?」

 苦笑しつつも、フィリーは答える。

「親友の1人よ。3人でよく遊んでた内の、1人。事故で亡くなったの」

「俺は兄を生き返らせたいと……一瞬は思ったが、兄はそれを望まないだろう。自殺だったのだから」

 隊長は特に気にする風もなく答えた。アレアもさらりと答える。

「あーしは両親を生き返らせたいと思ったよ」

 その後、皆の視線がジャンに集まった。「言い出したお前はどうなんだ」と言うように。

「……おいらが生き返らせたいと思ったのは、姉ちゃんの彼氏なんだ。ほとんど面識無い奴なんだけど」

 ジャンは語る。

「村の近くに遺跡があってさ。姉ちゃんの彼氏は、友達何人かと肝試しでその遺跡に入ったらしいんだ。で、運悪くヤバい害獣に襲われたらしくて……姉ちゃんの彼氏だけ死んだんだと」

 4人は口を挟まず聞いていた。

「姉ちゃんはふさぎ込んじまって、しばらくは食事も喉を通らなかった。まあ、なんやかんやで立ち直りはしたんだが……他の男と見合いをしても、彼氏のことを思い出して途中で泣き出しちまう。いつまで経ってもそんなで、未だ結婚できずにいるよ。結婚願望はあるらしいんだけどな」

「……だから俺に」

 隊長が言いかけた時、エフェルレメリアが入って来た。

「準備、整いました。こちらへどうぞ」



 案内されたのは、家の外にある祭壇だった。

 生い茂る草木に隠れるようにして存在する、木製の黒い祭壇。形は教会にあるものと似ているが、どこか異様な雰囲気を醸し出している。

 エフェルレメリアが祭壇に手をかざすと、蔦のような形をした白銀の紋様が浮かび上がった。白が黒を侵食し、祭壇を斑に染め上げる。

 紋様は光を放ちながら、祭壇を伝って地面に至る。そして、その場で円を描いた。

 一際強い光が出て、円の中心から棺が浮かび上がる。

「この中に、いれてください」

 エフェルレメリアはそう言った。5人はいそいそと、ノーシュの躯を棺にいれる。

 蓋を閉めると、エフェルレメリアは

「皆さん、目を閉じてください」

 と指示した。

 言われた通りにする5人。その前に立ち、エフェルレメリアは両手を掲げる。そして、一度、柏手を打った。

 その響きに反応するように、森がざわめく。冷たい風が吹き荒び、辺りに木の葉を舞い散らす。

 森が静けさを取り戻した時、棺がガタリと動いた。




 時は少しさかのぼる。邪神討伐隊の5人が冥府の巫女のもとへ向かって歩いていた頃、ノーシュは……ノーシュの魂は、冥府を歩いていた。

 仄かな紫色の光が、明滅しながら足元を照らしている。洞窟のような湿った空気、遠くが見通せない薄暗さ。その中を、あてもなく歩く。

 変り映えしない景色に飽き飽きしていると、突然、目の前に池が現れた。

 池を覗くと、自分の姿が映る。

(魂だけになっても、姿は変わらないんだな)

 そんなことを思っていると、背後に別の何かが映りこんだ。黒い狼のような姿の、「何か」だ。

(……害獣? けどここ、遺跡じゃないしな……)

 振り向くことなく槍で刺す。「何か」は、音もなく消えた。

 ノーシュはまた歩き始めた。池の周りを進んでいると、先ほど倒したのと同じ「何か」が人を襲っている。

 襲われているのは、20代半ばの男だ。よく見ると、「何か」は数え切れないほど多くいて、それを男が片っ端から倒しているようだ。襲い掛かってくる「何か」に大剣を叩きつけている。

 そんな男の背後から、「何か」が跳びかかる。男が対処できないようなタイミングで。

 ノーシュは斧を投擲。「何か」の頭をかち割って、地面に突き刺さった。


 男は驚き振り向いて、ノーシュを視界に捉える。大剣を振るいながら話しかけた。

「手伝ってくれるのか」

「……この黒いの何?」

 ノーシュが尋ねると、男は意外そうな顔をする。

「知らずに倒したのか?」

「害獣の類かと思って」

「これは、魔物だ。倒せば倒すほど寄ってくるぞ」

「え、何それ……」

 倒したのは失敗だったかと後悔するも遅い。男に襲い掛かっていた魔物たちの一部が、ノーシュを標的に定めていた。

「群れを全滅させればしばらく寄ってこない。ここは協力すべきだろう」

 男がそう言うので、ノーシュはチャクラムを出した。

「オレ1人で充分だ」

「何だと?」

 男の怪訝そうな声を無視してチャクラムを投げ、魔物の群れへと飛び込む。その手には、既に武器が握られていた。

 右手で槍を振るって魔物を殲滅していき、接近してきた魔物を左手の短剣で屠る。その間にも、跳び続けているチャクラムが遠くの魔物を消し去っていく。

 男はそれを唖然と見ていた。

 たちまち魔物はいなくなり、ノーシュは振り返って男を見る。得意気な表情で。

「な?」

「凄いな」

 男は感心して言う。

「もしや、お前も天界を目指しているのか」

「……?」

 ノーシュは怪訝そうな顔をした。それに対し、男は補足する。

「俺は天界を目指すため、自ら命を絶った。村に来た旅人から話を聞いたのだ……天界への行き方を」

「行き方なんてあるのか……」

「知らないのか? てっきり、知った上でここに来たのかと」

「いや、オレは……死にたくて死んだ訳じゃない」

「そうか……それはすまなかった」

 詫びてくる男に、ノーシュは首を振る。

「言い方が悪かった。別に、病気とか不幸な事故とかじゃなくて……死ぬと分かってても復讐したくて、その結果だから。それより、天界への行き方を教えてほしいな」

「……魔物に喰われなければ良いだけだ」

 男は苦笑して言った。ノーシュは目を瞬かせる。

「それだけ?」

「それだけ、といっても、それが難しいのだが……お前ほど強ければ問題無いだろう」

「ふーん。教義通りなんだ」

 ノーシュは嬉しそうに言った。天界に行けるならスーロに会えると思ったからだ。

「教義……確か、強者の魂は死した後天界へ至る、だったか」

「そんなやつ。半信半疑だったけど……そういや、それ、チョーカー? 珍しいな」

 ノーシュは男の首元を指して尋ねた。男は頷く。

「ああ、生前は着けていなかったのだが、ここに来た時に何故か現れたのだ」

「へえ、そんなこともあるのか。……あんたは何で天界へ行きたいんだ?」

 ノーシュの問いに、男は少し考えてから答えた。

「自分を試したかったのだ。天界へ至るに足る実力があるかどうか」

「……大剣だと不利じゃないか?」

 少し呆れたような声でノーシュが言う。それに対し、男は

「ここに来て痛感しているよ」

 と肩を竦めた。




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