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5-4 邪神討伐隊の決断

 丘を登る階段を上がりながら、邪神討伐隊の5人は緊張感を強めていた。

 1歩1歩、足並みを揃え、神殿へと近付いて行く。

 誰かがごくりと喉を鳴らし、誰かが歯を軋ませた。

 階段を上がり切った5人の視界に、美しい神殿が飛び込んでくる。白い柱と石畳が日の光を反射して、眩しさに目を細めた。

「邪神は……?」

 目を細めたまま、隊長が呟く。他の4人も神殿の中を見渡すが、何の姿も見えない。

 しばらくそうして、目が慣れた時、またしても隊長が呟いた。

「誰かいる」

 奥の方の柱にもたれ、俯いて座っている。金褐色の髪がふわりと風に揺れた。

 ここにいるはずのない人物。認識するのに少し時間がかかった。

 5人は彼に近付いていく。

「……ノーシュ?」

 フィリーが呼びかけた。

 その声に反応し、ノーシュはゆっくりと顔を上げる。薄く目を開け、笑って言った。

「ざまぁみろ」

 そのまま瞼が閉じられる。ずるりと倒れ込み、動かなくなった。

 そこでようやく、5人は理解した。

 邪神は、既に倒されていたのだ。先に来ていたノーシュによって。

「ノーシュ! どういうつもりだ!」

 ジャンはノーシュの胸倉を掴み、揺する。

「目え開けやがれ、ノーシュ! この抜け駆け野郎! おい! ノーシュっ!」

「よしな。そいつは、もう……」

 アレアの声で、ジャンはぴたりと動きを止める。そして、ゆっくりと手を離した。

「くそがっ! 言うだけ言って死にやがって……おいら達には何も言わせねーのかよ! 文句も嫌味も謝罪も礼も……っやっぱ、こいつ最悪だ……とんだ抜け駆け野郎だ……」

 パタパタと、熱い雫がノーシュを濡らす。

 それを見たフィリーが声を上げた。

「ちょっと、ジャン! 泣かないでよ……我慢してるのに、つられちゃうじゃない!」

 死なずに済んだのだという安堵、追放した奴に邪神を倒されたという悔しさ、和解できたかもしれない相手が話し合うことも叶わぬまま死んだやりきれなさ……他にも色々なものがない交ぜになって、溢れ出る。頭の中がぐちゃぐちゃになって、何故泣いているのか分からなくなった。

 そんなフィリーの後ろで、レイスはカタカタと震えながら、とめどなく溢れる涙をぬぐい続けていた。

 アレアは拳を握りしめ、

「まったく、自分が嫌になるね」

 とだけ呟く。



 その後しばらく、誰も何も言わなかった。言えなかった。

 静まり返った神殿内。降り注ぐ陽光は暖かいのに、肌寒さを感じる。

 次にどう動けば良いのか考えることも出来ず、5人は立ち竦んでいた。

 少しして、隊長がぽつりと言う。

「生き返らせよう」

 その言葉は、波紋のように広がった。静かな湖面に水滴を落としたように、皆の心を揺らめかせる。

 すぐにアレアが疑問を呈した。揺らぎを止めるように。

「代償は、普通の人間1人じゃ賄えないって言ってたはずだけど」

「俺たちは、普通の人間ではないだろう。神の加護を得た人間だ。それに……もし他にも賛同してくれる人がいれば、1人でもなくなる」

 冷静に告げる隊長の手を、レイスは握り、頷いた。賛同の意思表示だ。

 そんなレイスの手に、フィリーが手を被せる。

「言われっぱなしはムカつくものね」

「言い返せるんなら、乗らない理由はねーよ」

 ジャンもそう言って手を乗せた。その上に、アレアも手を乗せる。

「なら、死体を運ぶ必要があるね。……一旦、バラバラにしようか」

 その言葉に、フィリーは顔を引きつらせた。

「アレア、何気に怖いこと言うのやめて」

「あーしに任せな、解体は慣れてるよ」

「そういう問題じゃないわ! 慣れてる方が怖いわよ!」

「? 本当に、何を怖がってるんだい?」

 怪訝そうなアレアに、ジャンが苦笑いを浮かべて尋ねる。

「何で、死体の解体なんて慣れてるんだ?」

「村で死体が出たら、バラバラにして埋めるだろう? その役を小さい頃から手伝ってたんだよ」

「マジか……そんな習慣、おいらの村には無かったぞ……」

「……まさか、あーしのこと殺人鬼か何かかと勘違いして怖がってたのかい?」

 フィリーとジャンが小さく頷く。アレアは大笑いした。隊長は呆れたような顔をする。

「アレアが殺人鬼なはずが無いだろう」

「分かってるわよ、そんなことは。けど、死体の解体に慣れてるなんて聞いて、そう思わない方が無理だわ」

 反論したフィリーに、隊長は渋面を浮かべた。

「そう、だな……」

「さあ、退いた退いた! 解体を始めるよ!」

 斧を担いだアレアが言った。4人はそそくさとノーシュから離れる。

「……そこまで離れなくても良いよ」

 アレアの呆れた声に、

「お構いなく!」

「何か、気分悪くなってきた……」

「見るのはやめておくとしよう」

 フィリー、ジャン、隊長が順に言った。疲れたような声だった。

 レイスは誰よりもアレアから離れて、晴れていく空を見上げた。






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