4-6 邪神討伐隊と教会Ⅱ
「おや、先ほどの無礼な女ではないですか。用心棒でも連れてきましたか」
カツンと音を立て教会に入って来た、聖職者の男。アレアとその後ろを見て、そう言った。
ジャンは男を見て、「やっぱりな」と呟く。
「今度こそ逃がさねーぞ、悪魔に身を売ったクソ聖職者」
「……? どこかで会いましたか?」
「おいらは、戦士団ナンバー2のジャンだ」
「ああ、その名乗り、聞き覚えがありますね。あの村の……なるほど」
納得した男は、手を上に掲げた。その掌に、ばちばちと黒い力が集まる。
「なら隠す必要はありませんね。全力でお相手しましょう」
「言ってろ!」
槍を構え疾走。黒き電雷が襲い来るのを、槍を回して弾き飛ばす。
男はふわりと浮き上がり、教会の天井に逆さにぶら下がった。コウモリのように。
そこから黒雷を落とすつもりだ。
男は、ここで3人を始末するつもりだった。
以前にいた村では、悪魔の力を得たは良いものの村人たちの反発を買い、戦士団の襲撃を受けた。戦士団というのは、その村の自警団のようなものだ。20人を超える槍使いで構成され、誰もがめっぽう強く、逃げるしかなかった。
相手がたかが3人ならば、引けなど取らない。ましてや、あの時よりも強い力が使えるようになっている。悪魔の力に体が充分馴染んだのだ。
黒い塊が爆ぜた。
迫る轟雷。ジャンは床に槍を突き立てる。
「飛べ!」
黒雷は槍へ吸い込まれて下に伝い、教会の床を染め上げる。
3人には掠りもしていない。「飛翔」の加護を使って浮いていたのだ。
男は目を見開く。
「これで始末できるかと思っていましたが……」
「降りて来いよ。そんな風にしてたら、威力が落ちるんだろ?」
ジャンは槍を抜きながら言った。
男は応じ、床に降り立つ。そこへ、アレアが肉薄。
斧がうなりをあげて、男の首へ迫った。
「おっと」
手。
首を庇った男の手から、黒い雷が迸る。斧は手にすら届かず押し返され、アレアの体が浮いた。
「なっ」
斥力でも生じたように、勢いよく飛ばされる。アレアはステンドグラスに叩きつけられたが、
「舐めるな!」
即座に体勢を立て直し、男に突っ込んでいった。
「同じことで……⁉」
余裕ぶっていた男は、突如眼前に迫った大剣を慌てて黒雷で受け止めた。押し返そうとするが、まるで手応えが無い。力が後ろに流されている。
「なるほど、ジャンの言った通りだな」
隊長の呟きに、
「だろ?」
と得意気に言ったジャンは、椅子を蹴って跳び上がり、男の頭上から槍を振り下ろした。
男は戦慄した。右からの斧と前からの大剣を防ぐので手一杯になっている。どちらも力を強く込めねば押し込まれそうで、槍を防ぐに足る黒雷を用意できない。
ずぶっと、男の脳天を槍が貫く。
男は驚愕したような顔のまま絶命した。
「いやあ、助かったよ」
教会から宿への道で、アレアは笑って言う。
あの男が教会に来るまでの間、ジャンは熱心に悪魔の力について説明していたのだ。対処法を含めて。
「そりゃ戦ったことあるし」
ジャンは疲れたように言った。隊長も大きな溜息を吐いている。
そんな2人を見て、アレアは苦笑した。
「悪いね、本調子じゃないのに付き合わせちまって」
「むしろ礼を言いたいくらいだ。あいつを見つけてくれて助かった」
ずっと引っかかっていたのだ。どこに逃げたのだろう、見つけたら始末しなければ、と。下手をすると、村が風評被害に遭いかねない。
「……この街の教会はどうなるのだろうか」
隊長の疑問に、ジャンは
「別の聖職者が派遣されるだろ。孤児の人身売買はどうにも出来ねー」
と不満をたっぷり込めて答えた。
「それにしても、悪魔の力なんてどうやって手に入れたんだろうね」
アレアが首を傾げて言う。それに対してもジャンが答えた。
「孤児を生贄に儀式して悪魔を呼び出して、力を借り受ける契約をしたらしい。死後は魂を悪魔に捧げるってことで。何でそんなことが出来たかは分かんねーけどな」
「普通は出来ないものなのか」
隊長が確認すると、ジャンは頷く。
「そりゃそうだ。簡単に出来るなら、もっと大勢が悪魔の力を得てる。そういうの欲しがる輩は多いだろ」
そんな話をしているうちに宿に着いた。ジャンと隊長はさっさと部屋に入って寝た。
アレアは食堂で一人、斧の手入れをしたのであった。




