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3-6 屋敷Ⅲ

 扉が、木っ端みじんに砕け散った。外からの攻撃によって。

「……!」

 ノーシュは目を見開く。

 扉があった場所からは、外の様子がはっきり見えた。何十人もの男たちが、手に武器を持って、立っている。

 討ち入りだ。


「突撃!」

「うおおおお!」


 言葉と共に、男たちが入ってくる。屋敷の中へ。

 ノーシュは咄嗟にチャクラムを出し投げた。座り込んだままだったが、腕に狂いは無い。

 先頭の男たちの脚を斬り裂く軌道。その、はずだった。

 びゅおおお、と、風が鳴る。その風は、チャクラムの軌道を大きく変え、ノーシュに向かって飛ばした。

「何で⁉」

 驚きながらも難なく躱し、ノーシュは再びチャクラムを出す。先ほどのチャクラムは、階段に突き刺さって止まっていた。

『駄目だ、ご主人!』

「えっ」

 再びチャクラムを投げようとしていたノーシュは、動きを止めた。スーロが声を上げたからである。人前だというのに。

 男たちの視線が、ノーシュの剣に注がれる。


「今、剣から声が……?」

「気のせいだろ」

「いや、確かに声がしたぞ」


 困惑の声を上げる男たちの前を、風が上へと飛んでいく。そのまま天井へと至り、シャンデリアの釣り具を斬った。

 シャンデリアは真っ直ぐノーシュへ向かって落ちる。一瞬で地に迫るほどの速さで。

「くっ」

 ノーシュは何とか転がって躱し、そばで響いたけたたましい音に顔をしかめた。

 割れて光を失ったシャンデリアが、ガラス片を飛び散らせている。「理不尽な」と不満を表すように。その理不尽を起した相手を、映し出す。

 ガラス片に映りこむ、青い光。

『姿を消したつもりでも、映る分は消せないぞ!』

 青光に向かってスーロが言った。それに抗議するように、風が吹き荒ぶ。

「っ……うわっ」

 勢いを増す風に、ノーシュは大きく吹き飛ばされた。荒れ狂う風が、受け身を取ることも許さない。

 ノーシュはそのまま壁に叩きつけられ、呻く。

「……何が、起こってるんだ」

『分かってるくせに。妖精だよ。あの男たちの誰かが、妖精を操ってるんだ』

「だからさっき、わざと声を出したのか。あぶり出すために」

『そうさ。釣られてくれるほど馬鹿じゃなかったみたいだけどね』

「厄介だな……スーロは魔法使えないのか?」

『剣の中からどうやって使うのさ』

「出られない? 力、回復できたんじゃないか?」

『出たら天界にまっしぐら、下界にはとどまれない、って程度にしか回復してないよ。出たら即消滅だった頃よりは随分回復したけれど』

「そっか。じゃあ、自力で何とかするしかないな」

『あの青い妖精、凄く強引に操られてる。ご主人、ちゃんと妖精使いを殺してね。頼むよ』

「ああ」


 小声で喋っているノーシュとスーロの会話は、男たちには聞こえていなかった。屋敷に置かれている物を物色するのに夢中だったからである。

「おー、これ奪ってくか」

「そんなもの邪魔になるだけだ」

「これなんか良くね?」

「おい、本来の目的を忘れるなよ」

 彼らは、領民だけではない。戦力として引き込んだ盗賊なども混ざっている。

 それ故、求める物に違いが出ている。

 領民たちにとって、伯爵を殺すのは必須だ。

 税の徴収をしている役人を問い詰めた際、聞いたからである。悪いのは、全て伯爵だと。


 ◇


「見れば分かるだろ! 無理なものは無理だ!」

「黙れ!」

 男の訴えに耳を貸さず、役人は怒鳴った。

「不作だろうと何だろうと、いつも通りの税を支払え! 出来ないのなら、そうだな……お前の娘を奴隷に貰おうか」

「な、にを……」

「他の奴らにも伝えておけよ、税を払わなければ何かしらの罰を受けさせるってな」

 役人は嗤いながら立ち去る。それを呆然と見送りながら、男は決意した。

 あの役人を殺そうと。



 税が払えず困っていた者は大勢いた。彼らは相談し、役人を誘い込むことになった。

 何も知らないまま税の取り立てにやって来た役人は、20人ほどの男たちに囲まれた。

「……? 何のつもりだ?」

 怪訝そうにする役人を、1人の男が殴り飛ばす。

「⁉ こんなことして、ただで済むと……ぎゃっ⁉」

 役人は背を踏みつけられ、地面に這いつくばった。

 男たちは口々に言う。

「税を引き下げないなら、ここで殺す」

「死にたくなければ税をどうにかしろ!」

「前からお前には酷い目に遭わされてきたんだ、楽に死ねると思うなよ」

 殺意の程度には差があったが、一旦は役人を説得するという予定だった。説得に応じなければ殺す手はずである。

 役人は、責任転嫁して逃れようとした。

「待ってくれ、悪いのはフォルン伯爵だ。自分には税を変えたり待ったりする権限は無い」

 嘘だ。そういったことも含めて、任せてもらっている。

 だが、役人の言葉を男たちは信じた。

「それなら、お前を殺してフォルン伯爵と話すしか無いな」

 1人の男が呟いて、役人の脚に斧を叩きつけた。他の男たちも、役人を蹴ったり殴ったり、急所を外して斬ったり刺したりした。

 役人は死に瀕し、伯爵を巻き添えにしようとした。

「フォルン伯爵は極悪人だぞ。別の領地で重い税を課し、逆らう領民を虐殺した。強い護衛を雇い、安全な場所から圧政を敷いた。次は、ここの番だ」

 そう言って嗤った後、役人は息絶えた。


 ◇


「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。早く伯爵をぶっ殺そう。逃げられたら面倒だ」

「オレは伯爵なんてどうでも良いんだよ。勝手に行ってろや」

「協力する約束だろ!」

 今にも仲間割れしそうな会話を繰り広げている。しかし、彼らは案外冷静だった。

「……協力しよう」

「そうだ、悪名高いフォルン伯爵が相手なんだ。どんな厄介な護衛を雇っているか分かったもんじゃない」

 そんなことを言った後、男たちはぞろぞろと奥の廊下へ歩いて行った。


『……ご主人のことは眼中に無かったようだね』

「あいつら舐めやがって……目にもの見せてやる」

 ノーシュは笑みを浮かべ、ゆらりと立ち上がった。

 気分の悪さは闘志で吹き飛んでいた。

 駆ける。

「ちょっと待てぇ!」

 言いながら、男たちの頭上を跳び越え、行く手を遮るように着地。手には槍と剣を握っている。


 男たちは意外そうにノーシュを見た。

「おおぅ、マジか」

「吹き飛ばされて死んだかと思った」

「さてはテメー、伯爵に雇われた護衛か」


 パキパキと音がする。ノーシュと、男たちの間で。

 その音は、ゆっくりと大きくなり……突如、氷の壁を作り出した。

「なっ」

 驚くノーシュを無視し、男たちは踵を返す。階段に向かって走って行く。

「この……割れない⁉」

 槍を叩きつけても、剣を振るっても、氷の壁は傷一つ付かない。

「そうだ、たいまつ!」

 即座に出して、近付ける。

『無駄だよ、ご主人。そんなものでは融けやしない』

「これだから魔法は!」

 嫌そうに言い捨て、ノーシュは逆方向に走った。この先は吹き抜けになっている。階段を使わなくても、2階へ上がれる。

『どうするつもりだい? また魔法で妨害されるだけだよ』

「……」

 ぴょんっと跳び上がり、2階の廊下に着地した。そして、男たちがいるであろう方に向かって、大声で言う。

「やい、腰ぬけども! オレと戦うのがそんなに怖いか! フォルン伯爵の護衛はオレだけだぞ! 討ち入りしておいて、たった1人の護衛とすら戦う度胸が無いのか⁉」


 ノーシュの声を聞いた男たちは、顔を見合わせた。

「おい、あんなこと言ってるぞ」

「どうする、護衛を残しておくのも面倒といやあ面倒だぞ。始末しておくべきだ」

「そんなこと言って、戦いたいだけだろ。無視だ、無視」

 まだ冷静な領民たちは立ち止まって相談していたが、血気盛んな領民や盗賊たちは違った。

「あいつ、言わせておけば……!」

「良いだろう、伯爵の前に殺してやる!」

 額に青筋を浮かべ、今にもノーシュの方へ駆けて行こうとしている。

 そんな中、1人が言葉を発した。

「……仕方ない。先に護衛を仕留めよう」

「は」

「よっしゃ!」

「先生がそう言うなら仕方ないですね……」

 皆が従う意思を見せた。先生と呼ばれた彼こそ、青い妖精を操っている妖精使いである。



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