表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラになりたい私の話  作者: 毬谷 朝一
序章
10/35

第10話

 

 山のような仕事を片付けた私は、月が輝く夜空を見ながらワインを片手にソファに沈んだ。



 明日になればまた、大量の仕事と向き合うことになる。本音を言えば浴びるようにワインを飲みたいが、あまり飲みすぎると明日に響く。

 私はグラスをゆらゆらと揺らすと、目の前に座ったソレイユに話しかけた。



「…お疲れ様。明日もやることが山積みなのだから、早く寝た方がいいわよ。」



 私がそう言うと、ソレイユはぐったりした顔を上げ、テーブルからハーブティーを手に取りゆっくりと啜った。



「 言いたいことがあるのでしょう。眉間にしわがよっています。」



 我が息子は賢い。きっと私が言いたいことにも既に気づいているのだろう。



「あなたはライラをどう思った?」



 私がそう尋ねると、ソレイユはため息をついて答えた。



「素晴らしく綺麗な食事のとり方でしたね。きちんとした教育も受けていないにもかかわらず、知識も豊富でした。部屋の本はほとんど読んだと言っていたので、文字も勝手に読めるようになっているのでしょう。正しく神童ですね。まだ私達に見せていない面もあるでしょうし。」



 かちゃり、とテーブルにハーブティーが半分ほど残ったカップを置くと、ソレイユは複雑そうな顔で続けた。



「 なにより、あの子の顔はどんな美姫よりも美しい。きちんとした食事と怪我の手当で、まだ復活しきってはいませんがすっかり綺麗になりました。あの子が王子だなんてまだ信じられません。本当は王女だったりしませんか?」



 私は首を横に振り、ワインの底をじっと見ながらため息をついた。



「残念ながら王子なのよね…。ソフィア様も相当に美しかったけれど、あの子は桁違い。神々が創った芸術だわ、本当に。どうすればいいのかしら…」



 ライラは賢い。ソレイユが神童と呼ばれたように、ライラもまた神童なのだろう。



 それに加えてあの美しさ。夜空のような黒髪に、星のように煌めく金色の瞳。完璧に配置されたパーツはまるで彫刻のようで、見るもの全てを魅了する。



「あの全てを憂いたような諦めたような目はどうしたら輝くのかしら…あれを輝かせるために男達が貢物をしそうね。正直、あの危ない色気は、迂闊に人を近づけられないわ。王家の色より、問題なのは本人の魅力がありすぎる事ね」



「それに離宮で襲われたときも、あれだけ衰弱していたにもかかわらず、大男5人を伸してしまうなんて信じられません。私でも出来ませんよ。」



 私達はソファに沈み込むと、はぁ、とため息をついた。



「派閥を作るわけにはいかないわ、それに迂闊に動くとあの子をまた傷つけてしまう。まずは……対話が必要ね。時間をかけてお互いを知っていかなければ。」



「同感です。あの子はどれだけわかっているのだろうか…。あの目に見つめられると、心の奥底まで透かされているような気分になる。…全部理解しているのだろうな。」



「それでも子供だわ、まだ小さな子供。私達が守らなければ、あの子は直ぐに死んでしまう。貴族は怖い、早く味方を作らないと。」



 うう、と頭を抱える私を見て、ソレイユははぁと息をつくとカップを呷った。



「やることは山積みです。どこから着手すべきか分かりませんが、とりあえず明日に備えてもう寝ましょう。夜中に考え事をすると、次から次へと問題が見つかってしまう。」



 ソファから立ち上がりドアの方へ歩いていくソレイユの背中は、12歳とは思えないほど大人びていた。ソレイユはドアを閉めて出ていき、部屋には静寂が訪れる。あの子はいつの間にあんなに大きくなったのだろう。



 私は重い身体を無理やり立ち上がらせると、のろのろとベッドの方へ歩いていき、ぼふんと倒れ込んだ。

 疲れきった身体には休息が必要だ。明日も早い、もう何も考えずに寝てしまおう。



 私は泥のように眠りに落ちていった。




 ────────────────────




 私の朝は、祝福を使って効果を強めた薬草作りから始まる。




「もう起きているの?もっと寝ててもいいのに。…あら、何を作っているの?」



 部屋に入って声をかけてきたのはマリアで、既にひと仕事してきたのか、手には書類の束を抱え、服をネグリジェから動きやすいシンプルなドレスに着替えている。



「これは、天日干しにして茶葉にする予定です。眠りにくいときに使うといいらしいですよ。疲れもよくとれます。」



 私は、天日干しにして茶葉にしたものを机にあった柔らかな紙で包み、マリアに渡した。



「あら、ありがとう。早速今日の夜、飲んでみるわね。」

 


 マリアと朝食を取り、少しお茶を楽しむと、マリアは私に部屋を出る許可をくれた。



「そろそろ慣れないといけないかと思って。

 でも、あまり遠くに出かけちゃダメよ。」



 しばらく談笑して、マリアは再び仕事へ戻って行った。



 マリアには悪いが、あまり出歩くことはしたくない。まあこの髪と目で何か言われるのは分かっているし、結局マリアとソレイユに迷惑をかけてしまうだろう。既に庭には薬草を取りに出ているが、庭にはあまりメイドがこない。忙しいのか、はたまた私が居るという噂が広まっているのか。



 はたとテーブルをみると、そこには先程マリアが持ってきていた書類がそのまま置かれている。置き忘れてしまったのだろうか。



「でもなぁ……。重要そうでなければ、あとで来た時に渡そう。」



 私は、重要ではありませんように、と祈りながら書類の束を手に取った。



 その書類には、1番上に『重要』と書かれている。



 …そんな気はしていた。いや、マリアが気づいて引き返してこないだろうか。


 私はドアをほんの少し開けると、廊下の様子を覗いた。



 誰もいない。誰かに頼んで渡してもらおうとも考えたが、居ないようだ。そして、マリアが引き返してくる様子もない。



 私は書類を前に途方に暮れた。



 マリアは困るだろうか。でも私が行って迷惑ではないだろうか…。



 腕組みをして考えるが、いい方法はさっぱり思いつかない。

 いや、行くなら今しかない。廊下に誰もいない今、さっと届けてさっと帰ってくる。



 私は覚悟を決めて、震える手でドアを開けた。



 確かマリアとソレイユが居る執務室は左だったはずだ。そう、さっさと行ってさっさと戻ってくるんだ。



 私は、部屋の外へいっぽ踏みだした。





 窓は美しく磨かれ、廊下には埃一つ落ちていない。絨毯は音を吸収し、私の心を落ち着かなくさせる。私はおそるおそる廊下を歩き進めた。



 長い廊下を歩きながら、執務室はどこだろうとキョロキョロする。書類の束をぎゅっと抱え込み、なるべく目が見えないように俯いて歩く。すると、前の方から走ってくる足音がして、私は慌てて壁の隅に寄った。足音の主は私のことを気にする様子もなく、私が今来た道を走り去って行った。



 ほっと息をつき、私はまた前へ向き直り歩き始めた。



 その瞬間、横から飛び出た若い男性に大きな音を立ててぶつかってしまった。油断していて、私が手に持っていた書類と、若い男性が手に持っていた書類は床でごちゃごちゃに混ざってしまった。



 私が持っていた書類も、男性が持っていた書類もそれなりに数があり、床一面に広がってしまい、かき集めるのは時間がかかりそうだ。



「ああ〜!!どうしよう、きちんと仕分けしたのに〜!また1からやり直しだなんてゴメンだよ!」



 私は小さな声ですみません、と謝り、書類をひとつずつ集めていく。



 私がふいに顔を上げると、男性もふと顔を上げたところで、男性とバッチリ目を合わせてしまった。その男性は見てはいけないものを見てしまったような顔で、ぱっと目を背けてまた書類を拾い始めた。先程より幾分か早いスピードで拾い集めている。



 私は重く暗い気持ちになり、震える手でまた書類を拾い始めた。部屋から出なければよかった、と思いながら書類を拾っていくうちに、私はあることに気づく。



 でも、これを言っても迷惑だろうか……



 私は、彼に伝えるべきか悩みながら、書類を拾い集めていく。全て拾い集め、彼と私の書類に分けると、ぶつかった若い男性は急いで私から離れようとする。



 その様子に胸がキリ、と痛んだような気がしたが、私は意を決して、声を震わせながら彼に声をかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ