侯爵令嬢のご親戚
侯爵令嬢シリーズ3作目です。前作を読まないと分からない部分もあります。読んでくださいね。お豆腐メンタルなので優しい目で見てください。
私は侯爵令嬢サリアナですの。
今日は王宮にいらっしゃる王妃様にアップルパイを届けに参りましたわ。
王妃様は私のお父様の妹、つまりおば様に当たります。実家である侯爵家のアップルパイが大好きなエマおば様に、定期的に差し入れを持って伺っておりますのよ。
「エマおば様、ご機嫌いかがですか?アップルパイをお持ちいたしましたわ」
「サリアナ!いらっしゃい、楽しみにしていたのよ。ふふっ、人払いをしてあるから、好きにくつろいでね」
いそいそと自分でお茶を淹れ始めるエマおば様と一緒に、アップルパイを切り分ける。サクサクした音が食欲をそそる。
いつも二人のときは気楽にエマおば様、サリアナと呼び合い、お話しをしていますが、他の人が居るときはきちんと王妃様と呼びかけていますわ。
お茶の支度が終わるとお茶会の始まり。
「サリアナ、私、最近貴女の噂を聞いたの。なんでも、貴女と婚約した後に解消すると(肉体、精神が1度ヤられるけど)幸せになる、て話が流れているんですってよ」
「その噂、私の幸せは何処にありますの?」
「ないわね」
さすがエマおば様、ハッキリとしたお答え。気持ちいいですわ。
『トントン』
扉を叩く音が聞こえる。
「また来たわね~、あの子暇なのかしら?いいわよ、どうぞ~」
入ってきたのはこの国の王太子殿下であるカルザン、いわゆる私の従兄弟で愛称はカール。3つ歳上になりますの。
「やぁ久しぶり、サリー。アップルパイ食べに来たよ」
さっさとソファーに座り込み、エマおば様と私がお茶の支度をするのを見ている。
「カール、貴方公務を放って来ているわけではないわよね?」
おば様が紅茶を注ぎながら、問いかける。
「もちろん、ここに来る前に必要な仕事は終えています。ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。母上」
「それなら良いけれど、せっかく私とサリアナの二人だけのお茶会に毎回来なくてもいいと思うのよ?」
「嫌だな~母上。私にとってもサリーは心のオアシス(別名オモチャ)なんですから交流くらいさせて下さいよ」
伏せ字の気配を感じますわ!カールは爽やか笑顔を張り付けた腹黒大魔王です。人は疲れさせても自分は疲れなさそうですがオアシスは必要でしょうか?
「またまた婚約解消したんだって、サリー?」
「またが多くありませんこと?」
「婚約解消の数に合わせてみたよ」
爽やか笑顔で言い切る腹黒、もといカール。ムカつきますわ~。優雅に紅茶を飲む所作も無駄に美しいですわ~。
「他に女性が居ましたのよ、仕方ないではありませんか」
「うーん、まぁ仕方ないね。でも、これから婚約者をどうするの?国内の貴族は難しくないかい?」
「え?そんなに難しいですか?」
「うん、絶望的じゃないかな?」
はっきり言い切る腹黒、もといカール。
「そ、そこまで絶望的なわけでは…」
「だってサリー、学園時代も色々やらかしてたじゃないか。君は本当に有名人だよ」
「???私、何かしましたかしら?」
訳が分からず、きょとんとする。
「無自覚って怖いね。無自覚小悪魔は可愛いけど、無自覚破壊神は全く可愛くないよ。むしろ大迷惑だよ。まぁ、学園時代の一部は僕にも責任があるけどさ」
アップルパイを一口食べ、紅茶を飲む。
「覚えてる?君が入学した年、私は最高学年の4年生で1年間だけ君と2人でチームを組んだよね。そのチーム名『混ぜるな危険!!』」
「ええ、そんな時もありましたわね」
「あのチーム名は初回の課題クリアの後、先生方がつけるんだ。普通はチームリーダーの属性をチーム名にすることが多くて、火1、水2とかシンプルな物が多いんだよ、気づいてた?」
「あまり気にしていませんでしたわ。そう言われればそんな気も…」
「初回の課題、正式名称は忘れたけど、通称『チ○チキ・バンバン、ゴールすれば全て正義』で君は初っぱなからやった」
「あれは貴方の指示どおりに動いただけですもの。何がいけなかったんですの?」
「うん、そうだけどね。あのゲームは魔道車を走らせ、他チームより早くゴールするという単純なゲームだった。魔法使用あり、妨害あり、駆け引きありで、学園はそれらをどう展開させるか見定めるためにおこなったものだったよね」
アップルパイ美味しいですわ。我が侯爵家パティシエ、グッジョブ!モグモグ!紅茶も美味しい…。
「聞いてるかい?サリー」
「もちろん聞いておりますわ。あの時カールが言ったのは『ちまちま面倒くさいことしなくても、すれ違う他のチームを全てなぎ払えばトップだよね!』と、笑顔でおっしゃったんですのよ」
「うん、確かに言った。冗談半分で出来ると思っていなかったけど言ったね!」
「それ、やり遂げちゃったの?サリアナ…」
「はい、身体強化を使って邪魔者を排除しましたわ」
それが何か?と言いたげにエマに首を傾ける。
「どうやって他のチームを撃退したの?」
こめかみを揉みながらエマおば様が聞いてくるけどあの動作、お父様がやっているのをよく見ますわ!さすが兄妹ですわね。ソックリ!
「普通に魔道車を攻撃して、リタイアして貰いましたわ」
「抵抗されたでしょう?」
「はい、でも私には全くノーダメージですわ。相手が怪我をしたらイケないな、と思いまして人には攻撃しませんでしたわよ。あくまでも魔道車のみに攻撃しましたわ」
「そうだね。君の拳の一撃で魔道車がゴミのように粉砕されていたね。まるで風船が割れるかのようだったよ。車の中には人が居るんだけどね。人に恐怖が刻まれる瞬間(別名トラウマ)を私は初めて見たよ」
思い出すようにカールが遠い目をしていた。
なぜかエマとカールの脳裏には、伝え聞いたことのある巨大な恐竜が、蟻にたかられても全く気にすることなく、尾を振り回し、好きなだけ暴れたら悠然と去っていく理不尽な映像が浮かんでいた。
「それで、その後先生方につけられたチーム名が『混ぜるな危険!!』だったんだよ。いやぁ、私とサリーがチームを組むのを学園からそんなに危険視されるとは心外でしたよ、フフフフッ」
「そう…サリアナ美人なのに…頭良いのに…なんでこんな残念な子に…」
エマおば様、目にゴミでも入りましたか?
『バターン』
扉が勢いよく開く。
「「サリー、アップルパイちょうだい!」」
エマおば様の息子、第二王子クライブ愛称イブ(同級生、半分腹黒半分脳筋)、第三王子マチス愛称マーチ(3つ年下、全部脳筋)が登場した。
「あ~お前たち、学園にいるサリーと組んだ時、学園から与えられたチーム名は何だった?」
「ん~『やっぱりヤバかった!!』だね!」
「僕は『ストッパー求む、ヘルプ!!』だったね~」
イブとマーチがニコニコして答える。
「教師たちの苦労が目に浮かびます…」
エマおば様、目が光ってますわ。ハンカチを出してどうして目元を押さえてますの?
「そんなこんなの話が色々有名で、国内で婚約者を捜すのは難しいな。侯爵家の力をこれ以上増大させるわけにもいかないから、私達は君とは結婚を避けたいしね(別の意味でも避けたい!命、大事!)」
今、私は悪意ある伏せ字を感じましたわ。
「軍事大国(別名脳筋大国)の人間とか、人外なんか君と相性いいんじゃないかな?私も気にしておくよ」
「そうねー、もうそこに望みを託すしかないわねー」
エマおば様はどうしてそんな棒読みをしてらっしゃるのでしょう。私の婚約者は人外もありなのでしょうか。皆様も親族になるのですよ。
いえ、考え方を変えましょう。婚約者を捜す範囲が広がったのですわ。おめでたいことなんですわ。あら、不思議!目の前が急に開けて来ました。
「サリアナ…苛ついても、私の部屋の壁を物理的に開けないでちょうだい、風通しが良すぎるわ。私は今夜どこで寝るの?」
「あら、ついうっかり…」
「「「ついうっかりで済ませるな!」」」
こうして賑やかな親族の語らいはまだまだ続く。
容姿端麗、血筋はピカ一、だけどかなり残念な侯爵令嬢サリアナの婚約者探しもまだまだ続く。
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