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9話 ムント村到着

 ネルは皆の前を飛んでいったり、周りを旋回して魔獣がいないか確かめてくれているようだ。


「キュァー キュァー」


 ネルが時々、口から炎のブレスを吐いて魔獣達を追い払ってくれている。


「幼竜を味方につけたのは大きいな。魔獣が皆、逃げていきやがる。本当に大助かりだぜ」


 オトカルは先頭に立って歩きながら、玲と亜美に話しかけてくる。


「幼竜が魔獣を追い払ってくれてるかもしれないけど、警戒だけは怠らないでよ。まだ魔巣の森を越えたわけじゃないんだからね」


「……おう、警戒はしておくぜ」


 魔巣の森の中を、オトカル、玲、亜美、シモーネの順に歩いていく。

ネルのおかげで魔巣の森の中を、魔獣に遭遇することもなく抜けることができた。

飛びつかれたのか、ネルは玲の肩にちょこんと乗って、休憩を取っている。


 森を抜けて街道を歩いていくと、木の柵に囲まれたムント村が見えてきた。

玲は思い出そうとするが、ハッキリと思い出せない。

亜美はしっかりと記憶に残っているようで、木の柵を見て「懐かしい」と呟いている。


 村へ入る門には村の警備員が座っている。

オトカルとシモーネは顔なじみらしく、警備員と楽しく話をしている。

オトカルとシモーネが玲達の身分を保証してくれているようだ。

幼竜のネルを連れているから警戒されたのかもしれない。

しかし、誤解は解けたようで、玲と亜美は名前を聞かれただけで村の中に入ることができた。


 オトカルとシモーネと4人と1匹で村の中央通りを歩いていく。

すると鍛冶工房と道具屋を見つけることができた。

オトカルとシモーネとはここでお別れだ。


「それじゃ、俺達は冒険者ギルドの支部に寄らないといけないから、ここでお別れだ。帰りは楽させて

もらったよ。幼竜に礼を言っておいてくれ」


「ネル……ありがとうだってさ」


「キュァ キュァ」


「本当に人の言葉が理解できるみたいだな……竜は知性があって頭は良いと噂では知っていたけど

……本当だったんだな」


 オトカルは笑って玲と握手する。亜美はシモーネとハグをする。

2人は笑顔で大通りを奥まで歩いていく。


 2人を見送っていると、鍛冶屋の扉が開いて、鍛冶屋の中から大柄な男性と冒険者達3人が外へ

出てくる。

どうも鍛冶屋を追い出されたようだ。

大柄な男性が、冒険者達に大声を放つ。


「ここは腕の良い冒険者用の剣をあつかう店だ。新米が値切るような店じゃねーぞ」


 その大声を聞いた冒険者3人は、慌てて大通りの奥へと逃げていった。


「最近の冒険者達は武器だけ揃えようとするからダメだ」


 大柄な男性はそんなことを言いつつ、玲と目が合った。


大柄な男性からは、なぜか懐かしい匂いがする。

なぜかよくわからないが玲の涙腺が緩むのがわかる。


「お前……もしかすると玲か……玲の面影がある」


「はい……玲です……」


「忘れちまったのか……俺だよ、お前が4歳の時にお前のことを預かっていたグルクスだ。思い出したか?」


「はっきりとは思い出せないけど……鍛冶屋の匂いは覚えています。あの時はお世話になりました」


 玲の涙腺が緩み、自然と涙があふれ出してくる。

玲は深々と頭を下げた。


「昔の話だ……いいってことよ。それよりも隣の美少女は亜美か? 亜美なのか?」


「はい……グレクスおじさん……私は覚えています。グレクスさんのことも、クレアさんのことも……小さい頃はお世話になりました」


 亜美もグレクスに向かって深々と頭を下げる。

大柄なグレクスが近寄ってきて、2人の頭を優しくなでる。


「大きくなったもんだな……そうか、あれから13年も過ぎるのか……俺も年を取るはずだ。急いでミリアにも教えてやらなくちゃな。少しここで待ってろ。ミリアが道具屋で店番をしているはずだ」


 そう言って、グレクスは道具屋の扉を開けて、中へと入っていった。

玲は自分の涙を袖で拭う。

亜美も持っていたハンカチで涙をぬぐっている。


 道具屋の扉が開くと金髪のミディアムカットの女性が現れた。

そして亜美を見つけて、小走りに走ってきて、亜美を抱きすくめる。


「亜美なのね……大きくなって、すっかり美少女になっちゃったわね。私はミリア……覚えてくれているかしら?」


「はい……私ははっきりと覚えています。ミリアさんもお元気そうで何よりです。今日はお二人に、小さい頃のお世話になった挨拶にきました。本当に小さい頃、ありがとうございます」


「詳しいことは、道具屋の部屋に入ってからにしましょう。2人共疲れているんじゃないの? グレクス

も一緒に入ってきて」


 魔巣の森を抜けてきたばかりだから、身体は正直にいうと疲れている。

道具屋の奥の部屋で休ませてくれそうだ。

ミリアを先頭にして、亜美、玲、グレクスの4人は道具屋の中へと入っていった。


 ミリアの道具屋は薬師の役割もしているそうだ。

色々な薬草の匂いが部屋中に充満していて、爽やかな香りがする。


「キュァ キュァ」


 ネルも今は玲に抱かれて、気持ちよさそうに大人しくしている。


「あら、幼竜様も一緒なのね。玲と亜美には古竜様といい、竜には縁が深いみたいね」


 そう言われても、玲には何のことかわからない。

亜美なら少しは記憶していると思うが、ここはミリアさんに聞いておいたほうがいいだろう。


「玲と亜美が4歳の頃、古竜様が召喚魔法を使ったらしいの。それで玲と亜美は違う世界から召喚されたと古竜様から聞いているわ。召喚魔法の効力が切れるまで、この村で預かってほしいと、古竜様に頼まれて、私とグレクスが2人を引き取って育てていたのよ」


 俺と亜美が神隠しに遭ったのは、古竜のしたことか。

少しずつだが、謎がわかってきたぞ。


 グレクスは胡坐を組みながら、玲と亜美をジーっと見つめる。


「古竜様は召喚したのはいいが、人族の子供の育て方を知らなかったらしいんだ。そこで困ってこの村に預けたわけさ。だから2人が消えた時には元の世界へ戻ったんだとわかっていた」


 なるほど……そういう訳だったんだな。


「今日はゆっくりして帰ればいい。ミリア……俺は肉屋と野菜屋へ行ってくる」


「幼竜様にも、お肉が必要だから、少しお肉を多めに買ってきてね」


「おう、わかった」


 グレクスはそういうと大柄な体を揺すって、道具屋の入り口から出ていった。

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