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8話 洞窟を出る

 ネルは夜の23時まで、瑠香の部屋で、瑠香に遊んでもらっていた。

瑠香の部屋からは嬉しそうな声が聞こえてくる。

あまりうるさくすると両親が覗きにくるから控えてほしい。

0時に近づくと瑠香がネルを連れて部屋へ入ってきた。


 玲は外着に着替えてネルを胸に抱いてベッドに横たわる。



「ネルをまた連れてきてね……絶対にだよ……」


「それは約束できないかもしれない……ネルは向こうの世界の竜だからね。どんなことが起きるかわからない」



 そういうと瑠香は少し寂しい顔をして、ネルの頭をなでる。

ネルは気持ちよさそうに目をつむっている。



「そっか……ネルは向こうの世界の竜だもんね……また遊びにきてね」


「キュァ キュァ」



 瑠香はネルと離れるのを寂しくしていたが、割り切ったように自分の部屋へと戻っていった。

瑠香を異世界に連れていくわけにもいかないし……

兄妹で抱き合うにも問題がある。

これで良かったのだ。


 玲はそう思いつつ、目をつむる。

腕にはネルを抱いて、スムーズに夢の中へと入っていった。







 洞窟には亜美が先にいて、心配そうな顔をして、玲とネルを見る。

そして可愛い手で、ネルを抱き上げて、自分の胸に押し当てた。



「現実へ連れて帰ちゃったの?」


「寝て起きたら、ネルも一緒にいた時はビックリしたよ」


「今度は私もネルを連れて帰りたいな。でもダンスのレッスンや歌のレッスンもあるから無理かも……」



 ネルを抱きしめながら亜美が小さい声で呟く。

亜美の1日は忙しい。

ネルを普通の家へ連れて帰るのは無理だろう。



「ネルを連れて帰ってどうなったの?」


「妹の瑠香にバレた。後、親友の陸にネルを見せてやった。すごく2人とも驚いていたけど、ネルと楽しそうに遊んでたよ」


「ネルは可愛いから、どこに行っても人気者になるのね」



 あの亜美……ただの翼のついているだけのトカゲだぞ。どうして竜だと愛らしくみえるんだ?

瑠香もそうだったが、亜美の感覚もわからない。

確かにネルのことは格好いいとは思うけど……そんなに可愛いのかな。

亜美が可愛いと言っているのだからそれでいいだろう。



「キュァ キュァ」


「そういえば瑠香がウインナーをあげると、ネルが喜んでウインナーを食べていたよ。ネルはウインナ

ーは食べるみたいだ」


「そう……ネルはウインナーが大好物なのね。今度、眠る時はウインナーを沢山焼いてくるわ」



 ネルの大好物を聞けて、亜美も嬉しそうだ。


「キュァ キュァ」



 ネルは翼を広げて、空中へと舞い上がった。

今までネルの飛んでいる姿をみたことはなかったが、やはり飛べるらしい。

真紅のように光輝く塊の上に止まると、鋭いくちばしで、水晶の塊を砕いて、それを食べる。

それを驚いた目で亜美と玲が見つめる。



「ネルは何でも食べられるのかな?」


「どうなんだろうね……これから2人でネルの食べ物を探していこう」


「うん……ネルのことはわからないことだらけだもんね。2人で探していきましょう」



 この真紅のように光輝く塊はネルの食糧として置かれていた可能性もある。

真紅のように光輝く塊には、何か秘密があるのかもしれない。


 しばらくすると、洞窟の表から中に入って来る足音が聞こえる。

今までになかったことだ。

亜美と玲は足音をさせないようにして、洞窟の入り口まで向かう。



「オトカル、後少しで助かるからね。もう少しの辛抱だよ」


「シモーネ助かったよ。俺1人では森を抜けて、ここまで来ることもできなかったと思う」


「お礼は怪我が治った後からいいな。後、もう少しの辛抱さ」



洞窟の外から、怪我をして、洞窟の中へ逃げ込んできた人達らしい。

女性に肩を貸してもらってるスキンヘッドの男性は肩に大怪我をしており、重症のようだ。



「あの……大丈夫ですか?」


「うわぁ……ビックリした。洞窟の中に人がいるとは思わなかったよ」



 金髪の女性は玲達を発見して、驚いたように目を丸くする。

その後、警戒するように、腰に差してある剣に手をかける。



「俺達は何も持っていません。それよりも男性の人の治療をしましょう」



 スキンヘッドの男性を洞窟の床に寝かせる。


 どうやって、こんな大怪我の病人を助ければいいのだろう。

玲も亜美も医療の知識は全く持っていない。

すると金髪の女性が玲達に声をかける。



「この奥に古竜様のウロコが沢山あるだろう。そのウロコを煎じて飲ませれば、こんな大怪我は1発で治るから心配いらないよ」



 そう言って、手慣れた手つきで、洞窟の中へと女性は入っていく。

玲と亜美も女性の後ろへついていく。



「キュァー キュァー」



 いつになくネルが警戒の声を出して、翼を広げて女性を威嚇する。



「あれ? なぜここに幼竜がいるんだ?」


「その子……生まれたばかりなんです。警戒を解いても大丈夫ですよ。ネルも警戒しなくていいの。こちらへおいで」



 亜美がネルに声をかけると、ネルは空中を横切って、亜美の肩へと着地した。

女性はそれを見て、安堵の息を吐くと、真紅に輝く水晶のような塊を短剣で削って粉にしていく。

そしてその粉を手ですくって、倒れている男性の元へ歩んでいく。

男性の頭元にしゃがみ込んで、削った粉を傷口へ振りかけていく。

すると男性の肩にあった怪我が見る間にふさがっていく。


 手に残った粉を男性の口の中へ放りこむ。

それを2回繰り返すと、男性の肩の大怪我は嘘のように完治した。

そして男性の顔色も良くなっている。



「これは古竜様のウロコなのさ。粉にすれば万病にも効くと言われている。ここは古竜様の洞窟と呼ばれている。魔巣の森の奥深くにある洞窟さ。そんなことも知らずにここにいたのかい?」



 それを聞いて亜美はあごに手をやり、考えている様子だ。

何か、古い記憶でも思い出そうとしているように見える。



「その森を抜けた所にムント村という名前の村はありませんか?」


「あるよ……私達はそのムント村の冒険者だからね。それがどうしたんだい?」



 亜美の話していた、4歳の頃に神隠しにあった時、お世話になった村の名前だ。

その村の鍛冶屋と道具屋で玲と亜美は預かってもらっていた。



「私達もムント村に行きたいのですが、外の魔獣が怖くて、ここに隠れていたんです。ムント村まで一緒に行っていただけませんか?」


「それはいいけど……どうせ帰り道だし……あんた達、冒険者でもないのに、よく魔巣の森を超えてここまで来たね。運が良かったんだろうけど……」



 男性が起き上がると、金髪の女性に肩をポンポンと叩く。



「深い話は後からでもいいんじゃないか。2人共、困ってそうだし。魔獣と戦わずに森を抜けたらいいだけのことだ。俺の探知能力も戻ってる。シモーネ気軽に行こうぜ」


「あんたはいつも能天気でいいね。大怪我が治ったら、すぐにピンピンしてるしさ」


「俺はオトカル、こいつはシモーネ。ムント村まで一緒にいこう。今はまだ外は昼だから、夕方には魔巣の森も抜けられるだろう」


「ありがとうございます。俺は玲。隣にいるのは亜美。あと幼竜のネルです。よろしくお願いします」



 始めて洞窟を出て、村へ向かう。

それを思うだけで、玲は興奮を覚えた。

亜美は小さく玲の手を握って、楽し気に微笑む。


 オトカルを先頭にして、玲と亜美が中間、シモーネが殿を務めて、森を抜ける準備ができた。

洞窟の外へ出ると、ネルが大きく羽ばたいて、森の中へと飛んでいった。

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