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5話 ネルの誕生

 朝、教室へ到着して、机の上に鞄を置くと、目の前の席に陸が座る。



「何か良いことがあったみたいじゃないか。玲は表情に出やすいからわかりやすい」



 確かに昨日は遅くまで亜美と話をすることができた。

それで心がウキウキしている。

しかし、表情にまで出ていたか……気を付けないといけないな。



「何があったか言ってみろよ」


「昨日……夢の中で女子と会った。ずっと会話が弾んでさ。楽しかったんだ」


「ほー段々と重症になっているな……お前、大丈夫か?」



 陸には亜美が『スピーカーJacks』の亜美であることは伏せておこう。

陸と瑠香が知ったら大騒ぎだ。



「夢じゃないんだよ……本当に寝ている時に異世界転移していたんだ」


「そんな小説のような話が現実でおきるか。現実ではあり得ない」


「だから、それを証明しようと、2人で同じ時間に寝て、異世界で出会ったんだ」


「マジか」



 玲は陸を見ながら大きく頷いた。


 陸はまだ信じられないような顔をしている。

誰でも、すぐには、この話を信じることはできないだろう。



「玲は嘘をつくタイプじゃないしな……信じてやるよ……それで可愛かったか?」



 もちろんだよ。『スピーカーJacks』の亜美だぞ……絶対に言わないけど。



「可愛かった。すごく可愛くてさ……俺好みだった」


「クッ。夢の中の話だとしても腹立たしい。お前ばかりが可愛い子と出会うなんて許せん」



 陸も知っていることだが、玲は4歳の頃に遭った神隠しの話を陸に言う。

その時、一緒に神隠しに遭っていた女の子が、今回異世界転移で出会った女の子だと説明する。



「じゃあ、13年振りに幼馴染の可愛い女子に出会ったというわけか……とても信じられん」


「本当のことだから仕方ないじゃん」



 ふと陸は心配そうな目で玲を見る。

その眼差しはどこか寂しそうだ。



「お前……また、いなくなるんじゃないだろうな。瑠香ちゃんを泣かせたら承知しないぞ」


「何処へも行ったりなんてしないよ。今も現実にいるだろう。俺も家族を泣かせたくないからな」


「それならいい……困ったことがあったら、俺に相談しろ」


「困ったことがあったら、陸に頼むよ」


「おう……」



 HRのチャイムが鳴ったので、陸は鞄を持って自分の席へと戻っていった。







 夜0時になる。

最近は勉強は早めの時間から始めて、既に終わらせた。

玲はいつもの外着に着替えてベッドの中に横たわる。

目をつむってすぐに睡魔によって眠りの世界へ誘われた。







 洞窟の中では既に亜美が待っている。

玲が現れると亜美は嬉しそうに手をつなぐ。

これが最近の亜美のお気に入りだ。



「洞窟の奥でおもしろいものを見つけちゃったの……ついてきて」



 洞窟の奥には真紅の輝く水晶みたいな塊が沢山あるだけのように思っていたんだけど……


 亜美に連れられて洞窟の奥へ進んでいくと、やはり真紅に輝く水晶のような塊が沢山ある。

その間をすり抜けて、亜美はその奥へと入っていく。


 すると直径50cmほどの大きな卵が置かれていた。

それも小さくだが揺れている。



「これって何の卵かな? やっぱり何かの卵だよね?」


「ああ……俺にもそう見える。もうすぐ孵化するんじゃないか。何だか卵が揺れているし、中からコツコツと音も聞こえてきてるような気がする」


「面白そうだから見ていきましょうよ」



 どうして、こんな時に女子は強気なんだろう。

中から魔獣でも生まれたら、自分達の身が危ないかもしれないのに。


 亜美の目をみると、興味津々で目を輝かせて卵を見ている。

こうなったら仕方がない。

玲も腹を決めて、卵の様子を亜美と2人で近くから観察する。



「バリバリ……バリバリ」



 バリバリという音と共に卵の頭の部分が破れ、卵全体にヒビが入る。

そして卵の中から生まれてきたのは竜だった。



「あ……生まれた……竜の赤ちゃんだよ……可愛いね」



 亜美は爬虫類を見ても可愛いと言える系なのか。

女子というのは、時々、好みがわからなくなる。

小さくても竜だぞ。

羽を広げているぞ。



「キュァ キュァ」



 竜の赤子は、生まれたばかりなのに、もう玲と亜美を見て羽を広げて威嚇の姿勢を取る。



「大丈夫……大丈夫だからね……竜の赤ちゃん」



 亜美はとても愛おしいモノを見るように竜の赤ちゃんを見て、手を伸ばして竜の赤ちゃんの頭をなでる。

怖くないんですか……母性本能とは偉大だ。

玲も近づいて竜の頭を優しく、そっとなでる。



「キュァ キュァ」



 竜の赤ちゃんはもっと頭をなでてほしいらしく、羽を閉じて、目をつむって気持ちよさそうにしている。



「名前を決めなくちゃ……玲が決めて……玲がパパなんだから」



 はあ? いつの間に自分は竜のパパになったんだ。

自分がパパだとすれば、亜美がママなのか。



「そうだな……ネルってどうだ? 洞窟の中で寝てたから」


「意味はいい加減だけど……ネルって可愛い名前。これからあなたの名前はネルよ」


「キュァ キュァ」



 ネルという名前を聞いて、赤ちゃん竜は嬉しそうに口から火炎を吐いた。

口から火炎のブレスを吐くなんて、やっぱり竜じゃん。


 ネルは羽ばたいて、玲の胸の中へ飛び込んでくる。

とっさに抱きしめる玲。

ネルは玲に抱かれると目をつむって眠ってしまった。


 亜美はそれを見て、小さく手を叩いて、優しく微笑んでいる。

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