42話 最近の2人の日常
亜美は普通の大学生となった。
そのことで芸能プロダクションの寮を出ることになった。
今では玲と一緒に阿佐ヶ谷で暮らしている。
所属学部が違うため、単位を取らなければいけない科目は違う。
しかし、大学1年生の時に単位を稼いでおかないと2年生以降、単位を取るのに苦しむことになる。
朝早く起きて、2人で朝食を食べて、電車に乗って大学へ向かう。
都内の電車は通勤ラッシュ以外の時間も混みあっている。
玲は電車の中でつり革を持ち、足を仁王立ちにして、こけない姿勢を取る。
亜美はその玲にしがみつくようにして電車に乗る。
これがいつもの通学風景だ。
電車を乗り継いで大学へ到着する頃には、既に疲れ切っている状態だ。
講義の時間に十分に間に合うように到着しているので、キャンパス内のカフェでコーヒーを頼む。
そして、亜美か玲のどちらか一方が講義に出席している間、もう一方はカフェで待っていることにしている。
亜美はレッスンを止めてから、急激に太ることを気にし始めた。
だから亜美は昼食を抜いている。
玲もあまり食に対して欲がないので、亜美に付き合っている。
「玲だけでも食べていいのよ……これは私の問題なんだから」
「亜美は十分にスタイル良いよ……思い込み過ぎだって」
2人でこういう他愛のない会話をしているのも楽しい。
大学の講義が2人共終わるまで、2人で大学のキャンパス内を楽しんで歩く。
そして1人でいる時はカフェで待ち合わせをする。
大学内の食堂で待ち合わせをする時もある。
「待ったかな? ちょっと教授の講義が遅くなって……」
「かまわないよ……大丈夫。亜美が思っている以上に遅くなってないから」
2人共に大学の講義が終わると、2人寄り添って大学キャンパスを出る。
そして最寄の駅から阿佐ヶ谷まで、また電車で帰る。
1人でいるだけだと詰まらないが、亜美と2人だと一緒に立っているだけでも楽しい。
亜美も同じ気持ちのようで、以前より笑みを浮かべることが多い。
阿佐ヶ谷の駅に着いて、スーパーに寄る。
それが毎日の日課になっている。
作り置きはしない。
買い溜めもしない。
毎日2人でスーパーへ立ち寄るのが楽しいのだ。
カートの上にカゴを乗せて、スーパーの中を歩く。
この時は亜美が指揮権を持ってカートの隣を歩く。
そして野菜類、肉類、魚類などを選んでいく。
今では料理の献立も亜美任せだ。
料理の費用は2人分に増えたが、ラルスの置いていったFXは好調に資産を蓄えている。
そして亜美も今までアイドルをして貯めた貯金が相当あるそうだ。
だから食費がかさんでも困ることはない。
2人でスーパーに寄っていると、多くのお客さん達が亜美を見て、驚いた顔をするが、すぐに慣れた
みたいで、あまり視線も感じなくなった。
「今日の夕食はビーフシチューでいいよね。私、得意なの」
「それは楽しみだね」
スーパーのレジに並んで支払いを済ませ、エコバッグ2つに荷物を入れて、玲がエコバッグ2つを持つ。
亜美が腕を絡ませて、玲に寄り添ってマンションまでの道を歩いて帰る。
大きな夕陽がビルの谷間に落ちて隠れていく。
段々と夕暮れも深まり、街灯が輝き始める。
マンションに着くとダイニングテーブルの上にエコバッグを置く。
そして、コーヒーメーカーでコーヒーを2人分つくり、玲も亜美も椅子に座ってコーヒーを飲む。
「今日も1日終わったなー……大学1年生って案外と忙しいもんなんだな」
「私もそれ思った……でも2年生以降になってまで忙しいのも嫌だし……今、頑張るしかないわね」
確かに大学1年の時に苦労してでも単位は取っておいたほうが良いだろう。
大学2年からは、もっとゆとりのある生活をしたい。
亜美はエプロンをつけて夕飯の用意を始める。
今では瑠香は夕飯の用意をしにこない。
ネルが時々遊びにくる程度だ。
瑠香の気遣いがわかる。
亜美と玲を2人っきりにしようとしているのだろう。
「ビーフシチューを作るわね。少しいつもより時間かかるけど、美味しいわよ」
「ビーフシチューか……昔、自分で作って失敗した思い出があるな……」
ダイニングにあるテレビを点けると『スピーカーJacks』が里緒菜を中心にして歌っている。
里緒菜は今、『スピーカーJacks』のリーダーを務めているということだ。
「里緒菜、頑張ってるな」
「リーダーになったんだから……ソロを目指して頑張るんだって」
「そうなのか」
傍では必ずラルスがマネージャーとして一緒にいるはずだ。
だから何も問題はおきないだろう。
ビーフシチューができあがり、シーザーサラダも付いて、亜美が夕食の準備を進めていく。
その間に玲は部屋のクローゼットに外着を片付けて、部屋着のスウェットの上下に着替える。
「そういえば私も外着のままだったわ。着替えるのを忘れてた」
玲と入れ替わるように部屋に入って、玲と色違いのスウェットの上下を着て部屋から出てくる。
「さあ、食べましょう」
「いただきまーす」
ビーフシチューをスプーンで口に入れると、肉が蕩けるようにジューシーで口の中で溶けていく。
スープも絶品だ。
ゆっくりと時間をかけてビーフシチューとシーザーサラダを食べていく。
静かだが、落ち着いた時間、そして2人で食べる楽しい時間だ。
亜美の顔からも笑みがこぼれる。
玲もあまりの美味しさに顔がほころぶ。
十分に夕食を満喫して、玲が立ち上がる。
「今日は俺が夕飯の片づけをしておくよ。亜美から先にお風呂に入ったら」
「ありがとう……汗でベタついているし、そうさせてもらうわ」
玲はダイニングに小さな脱衣所を作ってある。
亜美はその脱衣所で衣類を脱いで、風呂場へと入っていく。
後片付けの洗い物をしているのだが、油がなかなか洗剤で落ちない。
玲は丁寧に食器を少しづつ洗っていく。
風呂場からはシャワーを出す音がする。
なるべく聞かないように、洗い物に集中する。
亜美がお風呂からあがって、ドライヤーで髪を乾かしている。
着ているのは今日は白のネグリジェだ。
体のラインがくっきりと見えて、玲は視線を彷徨わせる。
「私……太ってない?」
「全然、太ってないよ……いつものきれいな亜美だよ」
「本当に?」
「本当に」
亜美は髪を乾かした後にカーディガンを羽織ってくれた。
これで玲もドキドキせずにすむ。
ネグリジェ姿との時は胸がドキドキして、自分が何をしているのかも忘れてしまいそうになる。
「俺も風呂に入ってくる」
そう言って脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入って髪と体を洗って、首まで風呂に浸かる。
そして十分体が温まったのを確かめて風呂から出る。
脱衣所から出て部屋へ入ると、亜美がベッドの中へ目だけを出して待っていた。
部屋の電気を消して、玲もベッドの中へ潜り込む。
すると亜美が玲の体にしがみつくように抱きしめてくる。
玲も亜美の腰に手を回してギュッと抱きしめてキスを重ねた。
「玲……好き……大好き……愛してる」
「俺も亜美のことが大好きだ……愛してる」
2人は抱き合いながら、お互いの居るのを確かめ合うようにギュッと抱きしめ合う。
そして何度もキスを交わし……愛を重ねた。




