4話 夢の中での再会
待ちに待った夜0時を回った。
23時に帰ってきた両親も既に就寝に就寝している。
玲はグレーのパーカー、デニム姿で、MA-1のジャケットを着て、靴を履いたままベッドに横になる。
いつぶりにベッドで横になって眠っただろう。
やはりベッドで眠るのは気持ちがいい。
すぐに睡魔に誘われて、意識が奥底へ落ちていく。
◇
薄暗い洞窟の中で立っている。
周りを見回しても誰もいない。
実験は失敗だったか……
玲の心から落胆する。
やはり夢だったのか……
洞窟の奥から、物音がする。
もしかすると……期待を胸に抱いて、玲は一歩を踏み出す。
少し歩いていくと、大きな赤い水晶のようなモノが光輝いている。
大きさが1m近くある大きな赤く輝く水晶が何枚もあった。
その手前で、白のニットのワンピースを着た、美少女が佇んでいる。
茶髪のミディアムロングヘアーのゆるふわカールパーマ
クリっとした二重、垂れた目尻、きれいな鼻筋、甘い唇。
その肌は透き通ったような色白で美しい。
身長は162cmぐらいだろうか、胸の膨らみがニットで強調されている。
手足は長く、デニム姿が良く似合う。
とんでもない美少女だ。
あれ? どこかで見たことのある美少女だぞ。 どこかで会った覚えはない。
「ああ……『スピーカーJacks』のアイドル早乙女亜美さんだーーー!」
少し俯き加減にして、顔を赤らめていた美少女は、しっかりと玲を見つめて、嬉しそうに微笑んで涙がツーっと頬を伝う。
「夢じゃなかったんだね……玲……会いたかった」
「あわわわ……俺も亜美さんに出会えて光栄であります」
「そんなに緊張しないでよ。今まで通り亜美って呼んで」
相手はテレビでも超人気のアイドルだぞ。
美少女の中でもNO1希少価値種だ。
自分のような凡人が気軽に話しかけられる存在ではない。
普通なら別の世界の住人だ。
「そんなことを言ってもですね……住む世界が違うと言いましょうか……別次元といいましょうか……」
「亜美って呼んで。そうでないと本気で怒るわよ」
優しく微笑んでいた亜美の顔が不機嫌に変わっていく。
これは非常にマズイ展開。
早く軌道修正しなければ……
「……はい……あ……亜美」
「私は玲に会えて本当に嬉しいんだから。心から嬉しいと思ってるんだから」
「光栄の至極でございます」
「話し方、変だから! 直して!」
これは乗り越えなければならない試練だ。
この試練を乗り越えさえすれば、アイドルと友達になれる。
これはチャンスなんだよ、玲。
頑張れ。
「わかったよ。さっきから変な話し方をしてゴメン。俺も亜美にすごく会いたかった。本当に嬉しい」
やればできる子じゃん……
亜美が歩いてきて、1mほど手前で止まって両手を差し出してくる。
これは握手の合図だろう。
自分のデニムで必死に手が摩擦するほど拭いてから、亜美の両手を握りしめる。
「自己紹介、早乙女亜美です……会うのは13年ぶりだね玲」
「俺は小浜玲だけど……13年ぶり? そんなに前に亜美と会っていたっけ?」
「玲が4歳の頃に神隠しにあったこと忘れちゃったの?」
確かに玲は4歳から5歳にかけての1年間、神隠しにあっていた。
その当時のことは、もう両親しか知らないはず……
どうして、亜美が知ってるんだ?
「玲はグレクスの鍛冶屋に預けられて、私は隣のミリアの道具屋に預けられていたの。覚えてる?」
確かに熱い炉がある工房があって……玲はグレクスという鍛冶師の元で暮らしていた記憶が微かにある。
その時、隣の道具屋に同い年の女子が預けられていた……名前は忘れた。
「隣の道具屋に女の子がいたのは覚えている。名前は定かじゃないけど……まさか亜美?」
「もう……名前を忘れるなんて最低……そうよ。私が道具屋の亜美よ……思い出して」
玲と亜美は神隠しの間、確かになんとか村のグレクスとミリアに育てられた……段々と思い出してきた。
「そうか……亜美と俺は幼馴染だったんだな。久しぶり亜美」
「全然、忘れていた癖に……私なんて、大事な思い出として、ずっと大切にしてきたのに」
だってあの頃は4歳から5歳のことだろう。
普通に子供生活で揉まれていれば忘れてしまうだろう。
それとも……やはり……自分が忘れやすい質だけなのか。
「ということは……俺と亜美は13年前にも、この異世界へ来たことがあるということか?」
「たぶん、そうだと思うわ。だから私は森に魔獣がいて危険なことを知っていた。洞窟の中が安全なことも知っていたんだと思う」
なるほど、辻褄が合う。
「今日のところは昔のことを考えるのはやめましょう。どうせ玲は微かにしか覚えていないんだから。今度、私がゆっくりと聞かせてあげる」
「そうしてくれ……今日は亜美に会えただけでも嬉しいよ」
「私も玲に会えたことが嬉しいわ」
自分も亜美も本当の異世界へ転移していたなんて、陸が聞いていたら、驚くだろうな。
瑠香も本物の『スピーカーJacks』の亜美と幼馴染だと聞いたら驚くだろう。
瑠香は亜美の大ファンだからな。
「玲……お願いしてもいいかな? 今日から毎晩0時に寝る約束してほしい。玲に会いたいの」
「俺も亜美とまた会いたい。これからは毎日、0時に寝るようにするよ。亜美に約束する」
その言葉を聞いて亜美は色白な頬を赤らめて、嬉しそうに「ありがとう」と告げた。