37話 ラルスの采配
「ラルスが新しいマネージャーということで紹介された時は驚いたわよ」
里緒菜が真剣な顔で、玲に迫ってくる。
「ラルスが私達の芸能プロダクションの社員になってるってことは、ラルスの魔法を使ったのね」
亜美もため息交じりに言う。
「仕方がないだろう。亜美があんな無謀なことをするからだぞ。亜美のいる芸能プロダクションから俺は損害賠償金まで請求されそうになったんだから」
「あの司馬プロデューサーでしょう。陰険で有名なのよね。腕は立つらしいんだけど、お金しか信用していないタイプ。絶対に女性をお金でなんとかしようとするタイプよ。嫌な感じ」
里緒菜が露骨に嫌な顔をする。
里緒菜は感情を表に表すタイプだ。
司馬プロデューサーのことをよほど嫌いなのだろう。
「これで亜美は大学に進学することが理由で『スピーカーJacks』から卒業、アイドルから引退することになった。引退コンサートは開かれる。これは損害を抑えるために仕方のない措置だ」
「ラルスのいうことはわかったわ。私にとっては理想通りよ。やっとアイドルを辞めて一般人に戻れる。とても嬉しいわ」
亜美は嬉しそうに玲とラルスを見て微笑む。
その微笑みには一切の後悔はなさそうだ。
「いいなー、亜美だけ楽になれて……でも私の夢は歌手でのソロデビューだし……私は私で頑張らないと……」
「その件についても幸太郎と話をしておいた。里緒菜も大学に進学する。よって近年中にソロ活動に変更の予定で話が進んでいるから安心するがよい」
「ヤッター! さすがラルス! 私の強い味方ね!」
『スピーカーJacks』には新しく女子高生のメンバーが追加補充される予定だ。
今度は10人編成になるという。
これで亜美の分を上回る成果が出れば、芸能プロダクションも文句を言わないだろう。
「それで玲から亜美へ何か言うことないの?」
里緒菜が静かに優しい目で玲に問いかける。
「亜美……あの……その……俺のことを想ってくれてありがとう。俺も亜美のことを想ってる。俺と付き合ってほしい」
「嬉しい……やっと玲から言ってくれた。ずっと待ってたんだから……嬉しくて涙が出そう」
そう言って亜美は里緒菜に抱き着いて、嬉し涙を流している。
「玲……あんまり女の子を待たせちゃダメよ。亜美、すっごく待ってたんだからね」
「……ごめんなさい……俺が待たせて悪かった」
「ううん……いいの。きちんと言葉で伝えてもらったから……」
ラルスは日頃使っていない、玲のノートPCをいじって、ニヤリと笑う。
「亜美と玲にプレゼントじゃ。玲のPCにも我のFXの未来予知の機能を付けておいた。すでに10万円入金している。自動的に売り買いをしてくれるので放置していても良いぞ。これで金銭の苦労はない」
玲は大学に進学したばかりで、将来に不安がある。
幸太郎の言っていた言葉も少しは真実味があることも理解できる。
なるべくなら亜美には、お金で苦労してほしくない。
良い就職先に入社できれば良いのだが、まだ大学にも通っていないのに、そんな未来のことはわからない。
ラルスの好意をありがたくいただいておくことにした。
「ありがとうラルス……色々と手助けをしてもらって……これからは亜美と里緒菜のことを頼む」
「我に任せよ。悪いようにはせぬ……それよりも我は腹が減った。何か食べさせてほしい」
時間を見ると18時になっていた。
里緒菜と亜美がエプロン姿になって、冷蔵庫の中を物色している。
「この材料ならシチューができるわ。今夜はシチューにしましょう。里緒菜も手伝ってくれるから、今日は楽ね」
陸が聞いたら悶絶して怒り狂うだろう。
しかし、今は陸はいない。
いない陸に運がないだけだ。
それから1時間半ほど経ってシチューができた。
ダイニングテーブルの椅子に座って4人でシチューを食べる。
「このシチュー美味しい」
「『スピーカーJacks』の亜美と里緒菜が作った手作りシチューよ。食べられるだけ特別なんだから。もっと味わって美味しく食べてね」
確かに全国の『スピーカーJacks』ファンが見たら激怒する光景だろう。
ファンの皆の代わりにも、シチューは全て完食しよう。
それにしても里緒菜も亜美も手料理が上手い。
今日は2人共、ゆっくりとしているが、今日のスケジュールは大丈夫なのだろうか。
「そういえば、テレビ出演やラジオ、ネット出演などは大丈夫なのか?」
「亜美の件の方針が決まるまで、制限がかかってるの。だから私達も楽してるのよ」
里緒菜が気軽に答える。
なるほど……芸能プロダクションの方針か。
「既に亜美の方針は決まった。よって明後日から平常時と同じスケジュールになる。忙しくなるから里緒菜は気を抜かぬようにな。亜美の卒業・引退宣言も告知される予定だ」
ラルスが今後の予定を里緒菜に説明する。
里緒菜は「せっかく楽してたのに」と呟いていたが、それほど嫌そうではなかった。
「そういえば我は都内に引っ越ししたのだ。恵比寿からも近い高層マンションに住んでいる。今度、我の部屋へ招待しよう。ではサラバだ」
そう言ってラルスは転移魔法を使って、玲の部屋から去っていった。




