33話 亜美と近場デート
玲が阿佐ヶ谷に引っ越ししてから1週間が経った。
ダイニングテーブルや椅子なども購入され、掃除機、洗濯機、炊飯器などの電化製品も揃った。
ベッドでは、亜美がまだ起きずにスヤスヤと可愛い寝顔を見せている。
玲が阿佐ヶ谷の部屋に引っ越ししてきてから、玲のベッドは亜美のベッドになってしまった。
コーヒーメーカーでコーヒーをいれて、亜美を起こすのが玲の日課となっている。
「亜美……朝だよ……コーヒーいれたよ」
「ううん……まだ眠い……」
甘えた声が亜美から漏れる。
「うう……わかった」
亜美がベッドから起きてくる。布団がはだけ、亜美のネグリジェが目に入る。
今日は薄ピンク色のネグリジェだ。
体にピッタリと布地がフィットしていて、体のラインのシルエットが見える。
それを見る度に玲は胸がドキドキするのを止められない。
玲は机にかけてあったカーディガンを亜美の体に羽織らせる。
「ありがとう」
亜美は嬉しそうに、顔を赤くして玲に微笑む。
とても安らいだ、きれいな微笑みだ。
心から安心しきっているのだろう。
「今日は阿佐ヶ谷の駅の周辺と、商店街へ行ってみるから、バレないように頼むよ」
「うん……コーヒーを飲み終えたら、向こうの部屋で用意してくるね」
今では亜美は玲の部屋と里緒菜と同居の部屋の2部屋を自由に使い分けている。
コーヒーを飲み終わると、着替えのため、亜美は自分の部屋へと戻っていった。
しばらくすると、茶髪のロングストレートのウィッグをした亜美がサングラスをかけて玲の部屋へと戻ってきた。
玲もコートを着て外に出る準備を整える。
玄関の鍵を閉めて、2人で外へ出る。
そして阿佐ヶ谷駅周辺を散歩して回る。
2月だというのに外の風はまだ真冬のように寒く、空もどんよりと曇っている。
それでも玲の田舎よりは温かい。
そこから少し歩いて商店街の中へ入る。
家の中にはガスコンロも設置されたが、食器が全くない。
今日は食器を購入するつもりで商店街に散歩する。
商店街の中に陶器屋があった。
色々な柄の食器が並べられているが、どこか古めかしい柄が多い。
その中から、可愛い柄の食器を亜美がみつけだしてくる。
さすが女子力が違う。
「これ可愛いと思わない」
「ああ……亜美に任せる……俺、こういうの選ぶの苦手だとわかった」
「任せてくれるの……嬉しい。ありがとう」
亜美は嬉しそうに食器を選んでいく。
全て2セットで買っていく。
「亜美……瑠香達や里緒菜が来た時のことも考えてる?」
「ああ……忘れてた……別の食器を買いましょう」
亜美はまた別の食器を探し始める。
陶器屋のおばちゃんは微笑ましそうに玲達を見ている。
「新婚さんかい。初々しくていいね」
「いや……あの……そうじゃなくて……」
「あら同棲中なのかしら……同棲っていいって言うわね」
「……」
陶器屋のおばちゃんにそう言われて、何も言えなくなる。
玲も亜美も顔を赤くして俯くばかりだ。
箸、フォーク、スプーンまで買うと結構な値段になった。
陶器屋のおばちゃんは少しだけ値引きしてくれた。
2つの袋に分けて入れてもらったが、陶器なだけに重い。
鍋やフライパンはネット通販で買っておいて良かった。
とてもではないが持ちきれない。
「私も一緒に持とうか? 1つぐらいなら持てると思う」
「いや……亜美には無理をさせたくない。ここは意地でも俺が持って帰る」
「……ありがとう」
亜美が近寄ってきて、玲に寄り添う。
手をつなぎたいが、両手が袋でふさがっている。
亜美は玲の腕に自分の腕をからませる。
商店街を歩いていると、すれ違った人達が亜美を見て、立ち止まったりしている。
やはり変装していても亜美の美貌を隠すことは無理がある。
顔は隠せても、モデル級のスタイルの良さを隠すことはできない。
バレないうちに商店街を抜けて戻ったほうがいい。
阿佐ヶ谷の駅の近くにスーパーがあった。
食器も買ったし、今日は部屋で自炊するのも良いかもしれない。
そう思っていると、亜美の顔がほころぶ。
「スーパーがあったわ。今日は家で自炊にしましょう。私、肉じゃが練習してきたの」
「俺も自炊しようと思ってたんだけど……亜美が作ってくれるのか」
「うん……」
2人でスーパーに寄って肉じゃがの具材と調味料を買う。
それだけで袋が2つになった。
玲は重たい袋のほうを1つ持とうとすると、亜美に止められた。
「玲も2つ袋を持ってるのに、私が軽い袋1つなのは嫌。私も袋を2つ持つ。これでもレッスンで鍛えてるから」
そう言われると玲も何も言えない。
「じゃあ、2人に袋を2つずつな。重たくなったら無理しなくていいよ。俺が持つから」
「大丈夫……大丈夫」
2人で歩道をゆっくりとマンションへ向かって歩く。
亜美はとても嬉しそうだ。
「陶器屋のおばちゃんに新婚さんって言われちゃったね」
「そうだね……勘違いされて恥ずかしかったよ」
「でも少し嬉しかった……」
玲もそれは同じだ。
いつも亜美と一緒にいたいと思っている。
恥ずかしくて口に出せないのがもどかしい。
「私達、同棲してるんだね……思ってもみなかった」
「半同棲だけどね」
「なんだか嬉しい」
亜美は玲を見て楽しそうに微笑む。
亜美が嬉しいならそれでいい。
亜美と一緒にいれば玲の気持ちは自然と温かくなる。
「こういう近場のデートも楽しいね」
「そうだね……また商店街に行こう」
「うん」
玲と亜美は袋を2つずつ持って、マンションまでの道を歩く。
ただの散歩みたいなのに、とても楽しい。
「肉じゃが楽しみにしてるから……」
「大丈夫……いっぱい練習したから……」
今日の夕飯が楽しみだ。
そんなことを考えながら、2人でマンションまでの道を寄り添って歩いていく。




