28話 ラルスFXに目覚める
「できたのだー!」
ラルスが大きな声でガッツポーズをしている。
PCは貸してやったが、何をしていたのか玲は全く知らない。
「これこそ、PCとネットと魔法の融合なのだ」
「それで何をしてたんだ?」
ネットを覗くと為替のFXのグラフが表示されている。
まさかFXに手を出していたのか……
損害が出た時、大変なことになるぞ。
「FXなんて手を出して……損害が出たらどうするんだ」
「心配には及ばん。魔法で未来予測をかけてある。我には未来が見える。そこへ投機するだけだ」
「それにしも……ラルスに渡したのは銀行の通帳を作りに行った時に貸した1万円だけだよな」
ラルスもこちらで生活するためには銀行に通帳ぐらいもっていないといけない。
だからラルスとネルには1通づつ銀行の通帳を作った。
その中の1万円を引き出してFXに投機したらしい。
ラルスの行動を予測できなかった玲のうかつだ。
「見よ……ここ数日で資産が30万円まで伸びたのだ。きちんと換金すれば銀行に振り込まれる」
「それは良かったな……でも損をすることもある。きちんと管理するんだぞ」
「だからPCに未来予測の魔法をかけておる。確実にポイントを押さえていけば負けることはない」
確かに未来が予測できるなら、負けることはないだろう。
勝ち過ぎて目立つと、ネットの世界では有名になるのが早い。
そのこともラルスは全く考えていないだろう。
「あまり勝ち過ぎるなよ……後、有名になるな……細々と勝っていけ。大きい賭けは止めろ。これは絶対だ」
「何を慎重になっているのかわからんが、玲の意見を受け入れておこう。わかった」
ラルスは嘘は言わない。
言う必要も感じていない。
そこがラルスの良い点だ。
「これで玲が引っ越しする時に、一緒に引っ越しすることができる。これでネルも寂しくなくなる」
「おいおい……俺の家に引っ越しするのは止めてくれよ。せっかくの一人暮らし計画がパーになる」
「それはわかっておる。扉はつけさせてもらうが、後の邪魔はせんつもりだ」
もうすぐ引っ越しの下見として都内へ行くことになっている。
それは表向きの事情で、本当は亜美との都内のデートが目的だ。
亜美とこちらの世界でデートをするのは初めてだ。
それを考えただけでも首まで赤くなる自分がわかる。
扉を使うと都内の亜美の部屋に通じているが、亜美の部屋は芸能プロダクションが借り切っている
マンションの一室で、男子禁制となっている。
だから、あの扉を使うことはできない。
電車を使って都内まで出るつもりでいる。
そして待ち合わせ場所で会ったほうが、普通のデートのようで嬉しさも倍増だ。
この日だけは誰にも邪魔されたくない。
「ラルス……引っ越しの下準備で不動産屋を回る時は、一緒に連れていかないからな」
「わかっておる……亜美とのデートを楽しんでくるがよい」
既にラルスにバレていたか。
バレていてもいい。
邪魔さえ入らなければ。
「我もその頃には忙しくなっているだろう。自分達の住む所も探す必要があるしのう。ネルはこのまま、瑠香と一緒に、この家で住まわしても良いか? ネルに寂しい思いはさせたくない」
確かに今では瑠香とネルは姉妹のように仲が良い。
瑠香もネルがいなくなると寂しがるだろう。
それに玲もいなくなる。
瑠香のことを考えるとネルに家にいてもらうほうが良いだろう。
ネルも瑠香となら仲良く暮らせるはずだ。
「それはいいな。ネルが家にいてくれると瑠香も喜ぶ。ネルはこの家で暮らすことで、了解しているんだな?」
「ネルは瑠香に懐いておる。ネルが断るはずがないのだ。そして私は都内へ羽ばたくとしよう」
「ちょっと待て……ラルス、お前は何を考えているんだ?」
「せっかく、この世界へ来たのだ。堪能しないでどうする。我はこの世界の探求者になるのだ」
もう何を言ってもラルスには届かないだろう。
ラルスが何も問題を起こさないことを祈るばかりだ。
ネルが瑠香の部屋から戻ってきた。
最近ではネルは瑠香の部屋で少女漫画を読むのが趣味になっている。
そして背がグングンと伸びて、もう幼女とはいえない身長になっている。
どこから見ても、小学生に見えない。
中学生の美少女だ。
玲としては、小学生の小さいネルと遊びたかったという気持ちはある。
しかし、玲も大学生として引っ越ししていく。
小学生のネルを置いていくよりも、中学生のネルを置いて行ったほうがいいだろう。
「玲パパ……引っ越しした部屋に扉をつけてもいい? 時々、パパの顔を見たい」
ネルにそう言われると玲も甘い。
ネルの言うことなら、何でも聞いてあげたくなる。
「いいぞ。玲パパもネルの顔を見たいからな。時々、遊びに来ていいよ」
「わーい。これで玲パパが引っ越ししても寂しくない。私、この家で瑠香お姉ちゃんと一緒に住む」
そうか……ネルはラルスよりも瑠香を選ぶのか。
どこかラルスのことが不憫に思うが、ラルスも気にしていないから、それでいいだろう。
ベッドの端に腰かけていた玲の上にネルが乗ってきて、膝の上に座る。
ネルは体は大きくても、まだ生まれて1年も経たない幼竜なのだ。
それを考えると、玲はネルのことが可愛くてたまらない。




