26話 皆の将来への展望
洞窟へ戻ってからもラルスとネルは興奮状態だ。
亜美と里緒菜を捕まえて、玲達のいる世界が、いかに管理されているかをラルスが語る。
しかし、ラルスが読んだ本は、皆の知っている経済史から、大学の専門課程の学生が受ける書物まで入っている。
亜美と里緒菜は途中から理解することを止めて、ラルスが記憶していることを褒める。
「やっぱり竜の頭脳ってすごいんだね。1日でこれだけ覚えてくるなんて」
「竜って話せるだけあって、知性も高いとは思ってたけど、これほどの知性だとは思わなかった」
「そうであろう……そうであろう……我は古竜だからな。竜の中でも特別に知性は高いのじゃ」
亜美と里緒菜に褒められて、ラルスは上機嫌で、大きな口を開けて笑う。
今までは竜の時のラルスが何を考えているか、表情でもわからなかったが、慣れてきて徐々にわかるようになってきた。
ネルは幼女の姿のまま亜美に甘えている。
「亜美ママ……私、13歳なんだって……来年から中学2年生になれるんだよ」
そのことを聞いて、多少亜美もショックを受ける。
亜美もネルの小学生姿を見たかったのだろう。
玲と亜美からみれば、まだ卵から孵化したばかりの幼竜なのだ。
子離れされるようで、なんだか寂しい。
「ネルと暮らすようになってから、家族で暮らす楽しみを持った。家族と暮らさないのは勿体ない話だ」
ラルスがそんなことを言っている。
それなら卵の時から面倒をみていればよかったのに……
「ネルは成長が早くても、亜美ママと玲パパの子供だからね。パパ、ママ悲しまないでね」
そんなことを言われると余計に悲しくなる。
ネルはどんな男にも渡さないという気持ちがふつふつと湧いてくる。
「ネル……そうなれば我の存在はどうなるのだ? 我はネルの父上様だぞ」
「父上様とは永遠に近い時を一緒に暮らすのですから、ネルにとっては父上様も特別なのです」
それを聞いてラルスの機嫌が良くなる。
大きな尻尾をバタつかせて喜んでいる。
亜美が真剣な顔をして、ラルスに問いただす。
「今の所は玲の家にいるからいいけど……本格的にはどうするつもりなの?」
「玲達のいる世界で部屋を借りるしかありまい」
「資金はどうするの?」
「その準備は着実に進めている。心配するな。我に任せておけ」
ラルスに任せるのが一番の心配だと思うが、玲達にも解決策はない。
ここはラルスを信用して、ラルスに任せるしか方法はないだろう。
「すぐに結果がでるだろう。楽しみに待っておれ」
「家を決めないと、何も始まらないからな……俺も大学に合格していれば引っ越しだし……」
「何……玲も引っ越しする予定があるのか? それを先に言っておけ。我等だけでは住みにくいではないか」
「もうすぐ合格発表の通知が家に届くはず……その結果次第だよ」
通知を待っている期間がもどかしい。
ソワソワした気分がずっと続く、不安と期待の入り混じった気持ち。
今は瑠香も含めて、家族全員がそういう気持ちだろう。
玲だって不安な気持ちと期待の気持ちで揺れ動いているのだから、亜美だってそうだろう。
洞窟の壁にもたれて亜美と寄り添い、お互いに手を重ねる。
それがいつの間にか恋人つなぎになっていることに、玲は今頃気づいた。
「私……大学へ入学したら……『スピーカーJacks』を卒業するつもりでいるの。玲とも出会えたし、一般の女子大生に戻りたい気持ちが大きいの」
今、絶頂期の『スピーカーJacks』を抜けるというのは、アイドルとして引退するに等しい。
亜美を引き留めたほうが良いのだろうか。
すると里緒菜が玲達のほうを振り向く。
「私も何回も引き留めてるんだけど、亜美の意思が固いのよ。だから亜美に任せるわ。私は『スピーカーJacks』を続けて、それからソロで歌手デビューするつもりでいるから、亜美とは考え方が違うしね」
「亜美が思ったことを、後悔しないなら、俺は応援するよ」
「ありがとう……玲」
「どちらにしても大学合格してからだね……通知が届くまでは動きが取れない」
里緒菜が少し目をこすって眠たそうにしている。
ラルスは人化して、里緒菜に膝枕をする。
そしてネルが里緒菜に引っ付いて横になる。
最近では、これが3人の定位置だ。
「ラルス……魔法が使えるんだから……私達の会社で仕事すればいいのに……私達の会社人手不足だから、魔法を使えば一発で合格でると思うわよ」
「それは本当か……それは良いことを聞いた。人間の会社でも働いてみたいと思っていたのだ。何事も経験だからな……里緒菜、良い情報を教えてくれてありがたい」
「ラルスがいれば魔法で何でも解決してくれそうだから……楽かなって思っただけよ」
里緒菜はラルスに礼を言われて顔を真っ赤に染めている。
どうも里緒菜はラルスのことを気に入ったらしい。
超イケメンということもあるが、ラルスの能天気な性格も気に入っているようだ。
まだ里緒菜も自分では気づいていないらしい。
玲は亜美に膝枕をして、手をつないだまま目をつむる。
亜美の規則正しい寝息が聞こえてくる。
そして玲も安心して、眠りについた。




