22話 明けましておめでとう
時間が過ぎ12月31日から1月1日に日付が変わった。
洞窟へ来てみたが、まだ亜美と里緒菜の姿がない。
今日は深夜まで歌番組の特番をしている放送局もある。
亜美も里緒菜もまだ、仕事をしているのかもしれない。
プロのアイドルには元旦も正月もないということか。
お疲れ様亜美、里緒菜……
ネルは玲の膝の上で座って、目をつむっている。
玲はネルの背中を優しくなでている。
遠くではラルスが玲とネルのことを見ながら、体を丸めている。
最近では珍しい、静けさが洞窟内を漂う。
ラルスは玲達のいる世界が珍しいらしく、日頃は里緒菜が現実社会のことを愚痴り、ラルスがそれを面白がって聞いている。
しかし今日は里緒菜がいないので、ラルスに愚痴を言ってくるものがいない。
ラルスも大きな口を開けて、玲を見る。
『玲……里緒菜のような面白い話をしてくれ』
別に里緒菜は面白い話をしているつもりはないと思うけど……愚痴を言ってるだけのはず……
ラルスにとっては未知の話だし……面白いのだろう。
「そうだな……俺は受験勉強が大変なことかな……センター試験が近付いてきているからね」
『それは何だ?』
「俺も亜美も里緒菜も高校という学校に通って勉強している。それが卒業になるんだ。そして新しく、レベルアップされた大学という学校に通うことになる。大学へ通うためには試験で合格しないとダメなんだ」
『その試験がもう間もないということだな?』
「ああ……そういうことだ。俺も大変だが亜美と里緒菜のほうが、もっと大変だと思うよ」
歌手をしながら受験勉強もこなしているのだ。
大変どころの騒ぎではないと思う。
玲であれば、とっくに大学を諦めていただろう。
『それほど試験というのは難しいのか?』
「ああ……そうだ。難しい……しかし、合格しないといけないんだ……志望大学に合格するために」
『なるほどのう……大学か……我も行ってみたいものだ」
玲達のいる世界と、ラルスのいる世界では世界が違う。
いくらラルスが古竜だと言っても、違う世界にまで来ることはできないだろう。
『我もこの世界には飽きてきたところだ。玲達の世界へ行く魔法を考えよう。玲達の世界のほうが楽しそうだ』
「別に来るのを止めないが……絶対に約束してほしい。人化の術だけはかけておくこと。絶対に竜化しないこと。これだけは約束してほしい。俺達の世界には竜がいないからね」
人化を解いて竜の姿に戻った途端、近くの駐屯地から自衛隊が派遣されてくるだろう。
まるで昔の特撮映画のようなシーンになるに違いない。
それだけは避けておきたい。
「俺達の世界の細かなことは里緒菜から聞いてくれ。里緒菜が一番おしゃべりだから」
「誰が一番おしゃべりですって」
後ろを振り向くと目尻を釣り上げた里緒菜と、少し疲れ気味の亜美が洞窟に立っていた。
亜美は玲の隣へ座ると、手を重ねて、身体を寄せてくる。
今日はよほど疲れているのだろう。
里緒菜はラルスを人化させると、嬉しそうにラルスに膝枕をしてもらっている。
『いつも思うのだが、なぜ我が里緒菜の膝枕にならなければいけないのだ?』
「仕方ないでしょ。玲と亜美は寄り添ってるし……私は独り身で寂しいの。向こうの世界では私に膝枕したい男性が沢山いるんだから、ラルスも光栄に思いなさいよね」
確かに里緒菜はアイドルだし、美少女だ。
玲達のいる世界、それも日本では里緒菜は有名人である。
だから、里緒菜に近づきたい男性も多いだろう。
しかし、それはラルスに言っても仕方ないだろう。
ラルスは竜だ。
人間の女性に興味を持つとは思えない。
ラルスが里緒菜のことを、どう思っているのかは知らないが。
里緒菜はラルスのことを気に入っているのは、様子でわかる。
ラルスに人化させるのも、ラルスが人化すると超イケメンだからに違いない。
亜美がそんなラルスと里緒菜の2人を見て、楽しそうに微笑む。
「私達って、仕事をしている時は常に仮面を被っているから……素顔の里緒菜を見ることができて嬉しい」
「亜美も仮面を被っているのか? アイドルって大変な仕事だな」
「私も仮面を被ってるわよ。いつも嫌な顔せずに笑顔でいるのって、大変なんだから」
確かに1日中、笑顔でいるのは大変だ。
1日中、周囲から見られているのだから、気の休まる隙もない。
「もちろん、玲には仮面を被っていないよ。素顔の私を見てもらいたいし、玲の前で疲れることしたくない」
「ああ……それでいいと思うぞ。今日は疲れてるみたいだから、亜美も俺の膝で休めばいいよ」
亜美は顔を赤くして、体勢を崩して、玲の膝の上に顔を乗せる。
「今日はお正月なのに、まだ挨拶もしていなかったね……明けましておめでとう……玲」
「ああ……明けましておめでとう……亜美」
玲は優しく亜美の頬をなでて、優しく微笑んだ。
亜美は嬉しそうに玲の体に抱き着いた。




