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2話 交換日誌

 チャイムがなり、昼休憩の時間となる。

クラスの同級生の男子達は、学食へ向かったり、購買部へ走っていく。


 毎日、瑠香が早起きして弁当を作ってくれているので、本当に助かる。

玲はリクと一緒で弁当組だ。



「それで毎日、寝る度に同じ洞窟にいるっていうのか?」


「ああ……そうなんだ。そして見知らぬ他校の女子と壁に文字を書いて文通している」


「これが小説の世界なら……『異世界転移』だと言いたいが……現実にあるわけがない」



 異世界転移か……さすが元文芸部は発想が違うな。考えもつかなかった。


 昼休憩に玲の目の前の席に座って弁当を広げて、陸が箸を口に加える。

香川陸カガワリクは杭ノ瀬高校3年生C組の同級生で、元文芸部に所属していた、小説マニアだ。

玲の幼少からの親友で、昼休憩の時はだいたい一緒に弁当を食べている。



「その他校の女子とは未だに文通しているのか?」



 文通……違和感があるな……壁を使った交換日誌みたいな感じなんだけど……

それと他校の女子の彼女の名前が亜美だということは隠しておこう。



「ああ……洞窟にいても暇だからな。最近はお互いの近況を書き合ってるな」



 最近ではお互いの高校での暮らしや、家での暮らしなども少しだが書いている。

知らない相手に心を開いてもらおうと思ったら、自分の心も開かないとな。

やっと亜美も心を開いてくれている感じだし……


 陸はジーっと疑う眼差しで、玲を見る。

やはり夢の話のことを疑っているにちがいない。

陸は妙に現実主義な所がある……玲のことを勉強疲れで妄想しているとでも思っているのだろう。



「普通のファンタジーオタクなら『異世界転移』だと騒ぐとこだけどな。『異世界転移』などはファンタジーは小説の中だけしかあり得ない」


「陸ならそういうと思ったよ……陸は小説を書いている割に、妙に現実主義者だからな」


「空想で遊ぶのは小説の中だけで良い……俺達は受験生なんだ。空想に耽っている時間はないだろう。空想ばかりしていると、昔のように神隠しに遭うぞ」



 そういえば4歳の時から1年間、神隠しにあったな。

微かに熱い炉のことを覚えている……そして隣の家に女の子がいたような……後は思い出せない。


 夢の世界か……でも妙にリアリティがあるし……起きても忘れていない所が不思議だ。

洞窟の質感とか……空気の濃密さ……やはり夢ではあり得ないと思うんだが……

『異世界転移』か……確かにファンタジー世界すぎる……陸の言う通りかもしれない。



「まさか……その壁で文通している他校の女子に恋をしたんじゃないだろうな?」


「それはない……気にはなるけど……会ったこともない女子に惚れるほど、空想家じゃないよ」



 確かに、未だに会えない亜美だけど……段々と心が惹かれている自覚はある。

もし、本当に出会うことができたらと考えるだけで、心がウキウキしてときめいてしまう。


 玲が顔を赤くして、押し黙ってしまうと、その顔を見て陸は呆れ顔になる。



「会ったこともない他校の女子だぞ……テレビを見ろ……テレビにはアイドルがいるじゃないか。『スピーカーJacks』の里緒菜ちゃんと見ろ。あの容姿にあの肢体。モデル級の美少女だぞ」



 あ……陸もアイドルオタクだった……

それも妹の瑠香と一緒で『スピーカーJacks』にハマっている。

陸は芹沢里緒菜の大ファンだ……これで話が長くなりそうだ。







 放課後、家に戻って、瑠香の用意してくれた夕飯を食べて風呂に入る。

玲の家は両親が共働きの家庭で、家事全般は瑠香がこなしている。


 今、ダイニングでは瑠香が片づけを行っている最中だ。

テキパキと小気味よく、ダイニングを片付けていく。


 口では文句ばかり言っているが……根は優しくて家族思いな妹だ。

口に出さないけど、いつも瑠香のことを、ありがたく思っている……



「玲兄ちゃん……勉強するのも良いけどさ……風邪は引かないようにしよ……最近はインフルエンザも流行ってきているらしいから」



 インフルエンザって外からウィルスをもらってくるだろう? 

夜更かしでインフルエンザにはならないはず……だけど自信はない。



「ああ……俺の体の心配をしてくれてるのか、ありがとな」


「別に玲兄ちゃんの体の心配なんてしてないし……私は自分の体を守りたいだけよ」



 妹よ……口ではそんなツンツンしたことを言っても、顔を赤くしていたら全てはお見通しなのだ

よ。愛い奴よ。



「可愛いな瑠香は、ありがとう」


「もう……知らない」



 瑠香が顔を赤くして怒り出したので、自分の部屋へ退散だ。

部屋のドアを閉めて、ため息をつく。


 また……寝落ちすれば、亜美に会えるかな?

いかん、そんなことを考えている場合ではない……受験生である自覚が足りない。


 自分の頬をピシャッと叩いて、気合を入れ直して勉強机に向かう。

苦手なんだよな……古文……

そんなことを考えながら、今日は国語を中心に勉強を進めていく。


 段々と深夜も遅くなってくる。

段々と頭がクラクラしてきた。

目がショボショボとする。

寝落ちの瞬間って、なぜ……これほど気持ちが良いのだろう。







「また洞窟に来てしまったか……本当に夢なのだろうか?」



 これほどリアリティがあると、陸の言っていた異世界転移の説を信じたくなってくる。

洞窟の外には魔獣もいるらしいし……ファンタジー世界へ転移したしても不思議じゃないだろう。


 壁を見ると今日は亜美からの文通の文面がない……

そうか、亜美も普通の生活に戻ったか……

少し、残念だな……


 しかし、亜美の身の安全は守られた。

それだけでも良かったと思うようにしよう。


 そう考えて洞窟の壁にもたれてると1冊の大学ノートが手に触れる。

そして筆箱もある。

どうしてこんなところに……ノートと筆箱があるんだ?

ノートを開いてみると、亜美の文字がノートに広がっていた。



『寝落ちする時にノートと筆箱を胸に抱いて寝たら、洞窟の中へ持って入ることができました。これからはノートで交換日誌をしましょう。2人で頑張ろう』



 それから、亜美の日常に起こった他愛もない話がつづられていた。

とてもきれいで優しい文字だ。

読んでいて楽しい。


 まだ彼女はこの洞窟に来ている。

そして玲のことを忘れていない……

1人になったわけじゃなかった。


 そう考えると心が温かくなり、目から涙が少しあふれそうになる。

自分でも気づいていなかったが、洞窟で1人いることが心細かったのだろう。

亜美の心遣いが、心に染みる。



『今日、友達に聞いたんだ。馬鹿にされたけどさ。この洞窟の夢は、もしかすると夢じゃなくて……異世界へ転移しているのかもしれないらしい。小説だとあり得るって』



 亜美にも考えてほしかったので、そのことを強調して書いておいた。

ノートに今日あった出来事を、思ったままに書いて、彼女に伝える。

その行為自体が楽しい。


 こうして玲と亜美との交換日誌が始まった。

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