15話 クリスマスコンサート(前編)
12月24日のクリスマスイブ。
玲のいる田舎では小雪が舞い降り、道路に50cmほど雪が降る積もっている。
18時になり、お菓子をリビングテーブルにセットした瑠香は、クッションを抱いて、テレビの前に座っている。
テレビでは『スピーカーJacks』の生LIVEコンサートが始まった。
コンサートの舞台は色鮮やかな照明が光り、バックバンドが大音響を鳴らす。
ステージ会場のあちらこちらから、光線が観客を照らし出していく。
「『スピーカーJacks』です。よろしくお願いします」
『スピーカーJacks』の7人のメンバーは白を基調としたドレスに身を包み、胸や髪の毛に個性を出すため、アクセサリーを1つ付けている。
全員、動きやすいように、ミニスカートを履いている。
亜美も髪留めのアクセサリーをつけて歌って踊っている。
光線の光がホール中を駆けまわる。
歌っている亜美達の周りから、突然、炎が噴き出した。
炎の噴射に観客達は興奮をMAXにしていく。
「キャ――亜美ちゃん! 大好き――!」
瑠香がクッションを抱き枕にして、リビングのソファの上で大興奮している。
クッションがドスドスと叩かれて変形している……今にもクッションが弾けそうな勢いだ。
「キャ――里緒菜ちゃん! 格好いい――!」
玲はなるべく瑠香を見ないようにして、テレビに集中する。
あまり妹の恥ずかしい姿は見たくない。
もう少し、冷静に見ることはできないのだろうか。
眩いばかりの照明が観客達を照らす。
その中を『スピーカーJacks』のメンバーがワイヤーアクションで空中に舞う。
空中を上下左右に飛び回り、自由自在に飛び跳ねまわる。
まるで昔みたピーターパンのようだ。
高い場所だというのに、怖くないのだろうか。
観客達はそれを見て、興奮MAX状態だ。
瑠香もソファの上で片足で立って、飛んでいるフリをしている。
妹よ……その姿は、他の誰にも見せてはいけない。
いくらお兄ちゃんでも恥ずかし過ぎる。
舞台の中央ではスモークが焚かれ、幻想的な雰囲気が漂う。
その中を『スピーカーJacks』のメンバー達は、演目の通りに歌と踊りをこなしていく。
1人1人、振り付のダンスも、歌うパートも違うので、覚えるのは大変だろう。
亜美達のコンサートに向けての熱意が伝わってくる。
『スピーカーJacks』のメンバーは皆で集まってみたり、散開してみたり、舞台の上を飛び跳ねるようにして
ダンスを踊っていく。その中で亜美を追いかけるだけでも大変だ。
観客の中には興奮して感涙しているお客さんも多い。
それだけ『スピーカーJacks』のファンなのだろう。
玲も亜美が画面に映る度に、声には出さないが拳を握りしめて応援する。
考えることは……無事にコンサートが終わってくれますように。
舞台の上からは観客はどのように映っているのだろうか。
観客1人1人の顔まで、はっきりと見えるものなのだろうか。
玲はそんなことを考えてしまう。
亜美も里緒菜も、観客に近い円形のステージの上に乗って、観客に手を振りながら、歌を歌い続ける。
観客達の「亜美コール」「里緒菜コール」が一斉にとどろく。
そして一旦、バンドメンバーのいる後方の舞台まで戻る。
その時、亜美の体に異変が起きた。
亜美の体が段々と透けて透明になっていく。
何が起こっているのか、『スピーカーJacks』のメンバーにも、舞台関係者達にもわからない。
非常事態なことは理解できているようだ。
ステージではスモークが中央から焚かれ、色とりどりの照明が交錯してさせていく。
ホールに仕込まれている光線も観客達へ一斉に光を放つ。
バンドは大音響鳴らしていた曲を少し、スローテンポに落とす。
コンサートの非常事態を隠すように、バックグラウンドでは関係者が必死に事態にあたる。
亜美は舞台の中央に寝かされて、スモークで体が見えないように姿を消す。
里緒菜はマイクを放り投げて、亜美にしがみつくように抱きしめている。
その瞬間に、亜美と里緒菜の体が舞台から消えた。
◇
「亜美……やばい! 早く姿を隠せー!」
思わず、テレビの向こう側の出来事だということも忘れて、玲は大声で叫んだ。
テレビの向こう側にいる亜美に聞こえるはずもないのに、咄嗟に大声を出してしまう。
「玲兄ちゃん……一体、亜美ちゃん達に何が起こってるの……玲兄ちゃんも大変なことになってるよ」
玲の体も段々と透明になっている。
何が起こっているのか自分ではわからない。
「……これは一体どういうことなんだ?」
「瑠香に聞かれてもわからないよ……私にもわからない」
「瑠香……よく聞け……すぐに戻ってくるから、大騒ぎをするのは止めろ。絶対に玲兄ちゃんはすぐに戻ってくる」
瑠香は目に涙を溜めて、今にも泣き出しそうだが、玲の行っている言葉に頷いてくれている。
「いい子だ。コンサートもどうなっていくのか、観察しておいてくれよ。俺も楽しみにしてたんだからな」
「……うん……玲兄ちゃん……消えないで」
瑠香と話している途中で、玲は消えた。
◇
そして気づくと、いつもと変わりない洞窟の中に立っていた。
「ここはどこなの? 一体、何が起きてるの? コンサートが無茶苦茶になっちゃうじゃない。せっかくあれだけ、
練習してきたのに……コンサートも上手く行ってたのに」
玲の目の前には立ち竦んでいる亜美と、その場でしゃがみ込んで頭を抱えている里緒菜がいる。
「里緒菜……一旦は落ち着こう。この洞窟には誰も来ないわ。だから少しゆっくりと休もう」
「休んでいる暇なんてないわよ……今もコンサートは続いているのよ」
このままでは話が進まない。
少し落ち着いてもらったほうがいい。
里緒菜は玲の姿を見ると泣くのをやめた。
泣きじゃくっていた顔を衣装の袖で拭いて、亜美の隣に立つ。
茶髪のロングカールが良く似合っている。
大きな二重、吊り上がった目尻、きれいな鼻筋、ぽってり唇。
何処から見ても美少女だ。
「あなたは誰なの? ここがどこか知ってるの? 早く私達をコンサート会場へ返して。そうでないとコンサートが大騒ぎになって、パニックが起こるわ」
「俺もTVでコンサートを見ていたから、少しは状況は分かっているつもりだよ。 この場所は夢の向こう側の場所……そうとしか説明できない。そして俺にもここから自由に脱出する方法はわからないんだ」
「何よ……訳知り顔でいるから、もっと使える人かなって期待したでしょう。私の期待を返してよ」
言っていることが、ほとんど八つ当たりだ。
しかし、里緒菜が八つ当たりしたくなる気持ちもわかる。
コンサート会場では時が一刻一刻と過ぎている。
それだけパニックになる可能性がある。
『人の子よ。我の声を聞け』
突然、頭の中に声が飛び込んできた。
洞窟の奥を見つめると、真紅の瞳が輝いている。




